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【映画感想】向こう側の人々

先日、何気に気になっていた『異人たち』という映画を見る機会を得たので、よし、行くか、と重い腰を上げて(というより硬い財布の紐を緩めて)映画館へ足を運びました。
小さい箱でしたが、おお、結構人がいるいる。

原作が日本の小説ということもあり、気になっている人が多いのか知らん、と1番後ろの1番端っこの席で自由気ままに(マナーは守って)鑑賞いたしました。
考察というより、ただの感想ですが、気が向いたら呼んでいただければ、あ、いや、読んでいただければ幸いです。
ネタバレはおそらく(多分)あるので、これから見る人は注意が必要です。

あらすじ

アンドリュー・ヘイ監督による、山田太一の長編小説『異人たちとの夏』の映像化だそう。
主演のアンドリュー・スコットはアダム役を、ミステリアスな青年ハリーをポール・メスカルが演じています。
本当、どうでもいい話、私がこの作品を知ったきっかけは、本当に偶然なんですけど、美容室で映画関連雑誌を読んでいたためです。神、美容室。ありがとう。

感想

この作品、かなり改変されており、元の山田太一による原作をアンドリュー・ヘイ監督が落とし込んで映像化をしたようで、監督自身ゲイであるため、主人公たちも同様になったとのこと。
この原作改変論は一生平行な議論になるとは思いますが、私はこの改変はいいのでは?と思いました。
とはいえ、原作をそもそも読んでないので、あれですけど。

原作に忠実である必要性って意外となくて、それはどの作品にも言えることですが、正直小説家ではない人が脚本を書き、そしてそれを元に撮影を行った場合、その作品は原作からかなり離れてしまっています。
原作者の手に負えない状況という訳です。

そうなると、この映像に映し出されているものは原作とは別物と考えた方がいいのではないでしょうか。
近年、そういった問題が話題になってたので、捉え方は十人十色ですが、まあ、私個人としてはこんなかんじですので、原作を「自分なりに落とし込む」それ自体がこの映画を映画たらしめる所以のひとつだと思いますので、こう言っておきましょう。

内容については、原作がきっと素晴らしいのだろうな、と思わせる面白い内容でした。
主人公の精神的な脆さ、幼さ、そして映画全体を流れる違和感。
主人公の成長物語では終わらない、この作品はラストプチどんでん返しがあるわけですが、さて、やっぱりネタバレはなしの方が良いとの判断で、何も書きません。
ただ、違和感はここにひとつ。

あのマンション、2人しか住んでないんだぜ。

台詞にもありますが、これは、かなり違和感。
なぜ?ここはラストに解決する問題となります。
序盤、これ以上人を住まわせないためには飛び降りを────、、、、みたいな発言もありました。
おやおやおや、すでに人いませんよ。
そしてラスト、衝撃的な、あの、ハリーの。
そして主人公は幽霊たちに触れることができ、話すことができる。
そして一面に星が瞬くシーンで終わります。
2人は「星になって」お仕舞いです。
あらら、これではほぼネタバレかもしれませんね。失敬失敬。
はじめにネタバレするよ、と書いたのでいいでしょう。

もうひとつ、個人的になるほど、となったシーン。
アダムとハリーとでどこかジェネレーションの違いが見受けられた部分。
セックスシーンにもなるので、おぉ、となった所でもありますが、歳上であるアダムの台詞「セックスは死を意味していた」おそらくこんなことを言ってたのではないでしょうか。
ゲイの息苦しさがこの一言に凝縮されているように思えました。
とはいえ、ゲイが息苦しいのは今も変わらず、それはハリーの台詞やラストから読み取れます。

それはそうとして、英題である『All of Us Strangers』は私たち全員知らん人、つまりは赤の他人という意味ですが、何だか意味深。
邦題では原作に合わせて『異人たち』となっていますが、英題の赤の他人も中々に面白いですね。
なんとなくのニュアンスで、「異人たち」では幽霊としての両親が象徴されている、つまり主人公にとって「異人たち」であることがタイトルの意味として捉えられそうですが、その一方で、英題の「赤の他人(strangers)」だとどこか無機質さが伴っているような気がします。
ひとつの仮説として、「私たち全員(が)知らない人」と読み取り、観客にとって「私たち(主人公たち)」はstrangerですよ、って事なのかな、と思いました。
英語そこまで強くない人なりの考察、というか妄想でした。見苦しい。

さいごに

さて、映画を見終わり、なんだか自失呆然として劇場から出た私はしばらく何も考えられませんでした。
そして、謎の使命感の元このように感想を書いてます。我ながら謎行動。使命感とは。
私個人の思いとしては、ぜひみなさんに見ていただきたい。
しかし、いわゆる保守的な人たちからしたらその映画は最悪の改変を行っているかもしれません。
そう思う人は見ないほうがいいかと思います。
「多様性」を認めることも大切ですが、無理をすることではありません。

私がするべきは彼らの気持ちを理解することでも、寄り添うことでもなく、もしかしたら無関心でいる事なのかもしれませんね。
結婚しない娘に見合いを進めるのではなく、あくまで見守る姿勢を変えないように、私たちは彼らに干渉するのではなく、見守っていくことが案外1番大切で、1番難しいのかもしれませんね。

と、さいごにLGBTQ的な個人的な意見を書いてしまいましたが、本当にこの映画は映画として面白く、考察するのも楽しいので、気が向いたら15歳以上の方はぜひ見てみてくださいね。
見た人は感想をお互いに話し合えればいいので、早速その手で文字を打って、ご自分の意見感想を残してください。
それが、映画の楽しいことのひとつですから。

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