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薄暑のこと(簡略版)

俳句ポスト365、R6年5月19日〆切の兼題は「薄暑」です。

初夏の時候の季語。立夏頃の「やや汗ばむほどの暑さ」であり、「本格的な暑さには至らないが、額の汗を拭うほどに気温が上が」った時の暑さ。それは「軽やか」だったり、「少し疲れた」といった感情をもたらすとのこと(ここまでの鉤括弧の部分については、角川大歳時記による)。

「薄暑」の「薄」には、「薄い」、「うっすら」という意味がありますが、「肉薄」「薄暮」といった熟語では「~に迫る」という意味もあります。本格的な「暑に迫る」という意味もあるかも知れません。

なお、「暑」は三夏の時候の季語、「暑し」の傍題です。そして、「薄暑」は初夏の時候の季語で、二十四節気の立夏ごろの暑さを示します。今年で言うなら5月5日~5月19日が該当します。日本の本格的な「暑し」の時期が梅雨明けからだと考えると、「薄暑」は「暑し」の時期に迫るくらい気温が上がっても、初夏ならではの気候となるはずで、この期間ならではの措辞を意識したいところです。大きな違いは、①暦的な期日の違い②梅雨の前か最中か後か、といった違いでしょうか。どちらかというと夏の始まりの暑さという点で、②の要素を重視したいところです(暦に示される期日の要素を重視してしまうと、沖縄の方には大変不利な季語となってしまいます)。

「薄暑」は時候の季語で映像はありません。しかし、歳時記を読んだ限りは、暦上の夏となる「立夏」よりは、暑さを感じたり、汗がにじみ出て身体が湿るといった、触覚刺激が伴う季語だと感じられます。

ただ、触覚刺激については、額の汗を拭うほど気温があがったとしても、そこに軽やか、もしくは少し疲れた、という気分ともなる。額の汗にしろ体の汗にしろ、にじみ出ても、人によってはそれが快となるし、多分、その汗は日かげに行けばすぐに乾くのではないか。梅雨中からその後は蒸し暑くなるものですから、湿度の違いはきっとあるはずです。

立夏の時期ならではの、心地よいカラッとした「薄暑」。これに、何かを、見たり、聞いたり、嗅いだり、触ったり、味わったりして、ぶつけるのが良いのかなと考えました。

また、(仙台市西部に住む者の)実感としては、昼間にぐんと気温が上がっても、朝晩は冷える時期でもあります。この実感を考えると、「薄暑」とは夜の景より昼の景に適した季語だと思いました。
今回、「夕薄暑」「夜の薄暑」といった使い方をする句を読んだのですが、「夕」とか「夜」といった字を見たことからも、「薄暑」とは昼の景色が基本だろうと考えたところです。

三句ほど、気になる句を紹介します。


・軽暖の日かげよし且つ日向よし(高浜虚子)
「軽暖」は「薄暑」の傍題。一瞬「軽く暖かい」「少し暖かい」、と春の季語「暖か」の程度が軽いとも呼んでしまいそう。辞書的な意味は「軽く暖か。また、その衣類」とのこと。ただ、自分としては「軽快」(かろやかで速い)という「かろやかで暖かい日」くらいで取った。軽やかで暖かな日であるよ、日かげは良いしなおかつ日向も良い。日かげにいても日向にいても心地よいのが薄暑だと。

・狛犬の球を踏みたる薄暑光(長谷川久々子)
球を踏んでいるか咥えている狛犬。その球を薄暑の光も球を踏んでいる。
狛犬くんは確かに球(毬)を咥えてたり踏んでいることがある。
この句、「踏みたり」だと、完了・存続の「たり」の終止形となり、狛犬の動作だと明確になる。しかし、「たる」、連体形なので、球を踏んでいるのは薄暑光という塩梅。
球は毬のことで、狛犬の遊び道具で、富とか良い兆しという意味。狛犬が遊ぶ毬にそんな意味があるのだから、それを薄暑の光も踏んでいるってことは、この光も良い兆しなのかもしれない。
あとは、「薄暑光」である。梅雨前の、汗ばむことが気持ち良いころの光。なんと明るい語句だろう。


・夜の薄暑チエホフもまた医師なりし(水原春郎)

句の解釈は別にし、「夜の景より昼の景に適した季語」と私は書いた。そこでこの句である。
夜になっても、少し動けば額に汗かく程度の日はあるだろう。
そんな日を「夜の薄暑」と書いたのは、「薄暑」だけだと昼のイメージが付きまとうからではなかろうか、と思った。

さて、簡略版としてはこれでおしまい。


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