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季語深耕「コスモス」


1 植物季語の呪詛

 通販生活®2023年5月の審査結果発表で夏井先生が「今月のアドバイス」としてこんな文を書いておられました。なお、この回は「栗の花」が兼題でした。

 「独特の臭いを取り合わせの接点とするのであれば、『栗の花』ではなく『椎の花』でも成立するのではないか。切たる思いを重ねたいのであれば、むしろ『ヒヤシンス』あたりの方が奥行ができるのではないか。そんな句も多かった」

 措辞の内容に対して季語が「栗の花」がベストでない句が多かった、季語が動く句が多かったというわけでしょうか。
 私自身、「鼈甲の色の星図に白き薔薇」とか「歩を止めるただ一輪の睡蓮に」などなど、植物季語に頼った句を作ってきました。そんな中、先生の指摘文は、植物に心情を重ねさせて句を作ろうとするたびに蘇ると思います。もっと良い植物はあるのではないか、もしかすると動物などの別ジャンルの季語の方が良いかもしれないぞ、というメッセージに見えます。
 これは、「お前は、この句の季語について、数多ある季語の中からこれを選んだが、もっとお前が句を通して表したいことに、もっと良い季語があるのではないか?さぁ、探せ探せ、探せ、さがせ、サガセ、、、」と呪詛のように見えました。
 そして、タイミングよく、二つの植物季語の兼題が示されました。
 一つ目は、夏井いつきのおウチde俳句くらぶ (ouchidehaiku.com)で、「彼岸花の小道」という兼題写真が示されました。これについては、「彼岸花」と「曼殊沙華」の使い分けを意識して句を作ったりもしました。
 そして、二つ目。俳句ポスト365 (haikutown.jp)では「コスモス」。ひとまず句を作ってみましたが、彼岸花と同様に季語と傍題(秋桜)の使い分けを意識してみたい。いや、取り合わせの句を作った時に、「栗の花」での先生のコメント通り、措辞に対して別な植物季語の方が適している可能性はないか?そんな句が多いのではないか?と。

 ふと思えば(どんな季語であり物事についてでもそうなのですが)自分はコスモスを良く知らない。秋になるとその辺に咲いている平凡な花、それくらいしか認識が無い。ここは、コスモスをしっかりと調べたいところだと思う所存だし、植物季語の一つ一つについてちゃんと知っていくことが、「呪詛」から放たれる結果になるかと考えました。


2 図鑑的な姿と現物の観察

 コスモスに限らず、いろいろと手っ取り早いのはWikipediaです。これによれば、コスモスは以下の通りでした。

「一年生植物の草本。茎は高さ2 - 3mになり、よく枝を出す。葉は対生で二回羽状複葉。細かく裂け、小葉はほぼ糸状になる。頭花は径6 - 10cm、周囲の舌状花は白から淡紅色、あるいは濃紅色。中央の筒状花は黄色。葯は黄褐色。通常は舌状花は8個。開花期は秋で、『短日植物』の代表としても知られる。秋に桃色・白・赤などの花を咲かせる」

 次に手っ取り早いのが現物の観察。
 私は車通勤をしていますが、通勤路の田舎道の丁字路脇に、ちょうどコスモスがありました。
 桜の木の下、ピンク色に咲くそれは、大体1mくらいの高さでした。図鑑だとコスモスの花期は6~11月と言いますが、早い時期に咲いてるなあというのが印象。先のウィキペディアの引用中、『短日植物』という語句がありましたが、簡単に言えば「昼の時間、短くなってきたなぁ、咲いちゃおうかなぁ」と思うのが短日植物です。桜の木の下にいた分、そのコスモスは、高さはあまり無いけど、日照に恵まれない分、早めに咲いたのでしょう。
 後日、幸いにして、草刈りのためにその土地の方がいらっしゃいましたので、一輪頂きました(子どもの頃なら適当にむしってたのでしょうが、今は時代が違うと思い摘むのを控えていました)。
     群生してるのを眺めるに至れなかったのはちょっと残念でした。

 

(脱線:群生への私的イメージ)

 群生という単語が出たので、現物の観察前に少し脱線を。
 群生しているコスモスというと風(風を起こす何か)によって花が揺れている光景を浮かべることも多いかもしれませんが、その細い茎や葉が密集することで何かを埋めたり隠すという効果も出てくるかと思います。私はどちらかというと後者のイメージ。
先に、丁字路脇のコスモスを頂いたことを書きました。今回のコスモスは、丁字路の突き当たり側の道端に植えられてましたが、何年か前までは、反対側にもズラーッと植えられていました。丁字路の突き当たりへ向かう車としては、見通しの悪い交差点の一丁上がりです。
この田舎道の丁字路で、事故を起こした職場の人がいました。曰く、コスモスがブラインドになって、相手が見えなかった、と。見えようが見えまいが、丁字路での車同士の事故は突き当たりに向かって走っている車側が責任が重くなります。職場の人、残念でしたが8:2の引責があった様子。
これより前にも何度かここでは事故があって、程なくしてコスモスが刈り取られたのは惜しいところでした。
そんなことから、コスモス→隠すもの、という認識が私のなかではつよくなっています。
ともあれ、以下、一輪のコスモスの観察記録です。



 「花びら」は8枚。真ん中の筒状花は焦げ茶~黒でしょうか、そして先端が黄色。今回頂いた一輪、花びらはピンク色でした。
 花の匂いを嗅いでみます。花より、自分のいた周辺の匂いの方が感じられました。立秋を控えた、ムッとした夏の匂い、湿気、猛暑日が続く中少し気温の下がった日の午後の風・・・・・・コスモス特有の匂いは、発せられているのかもしれないけれども、ちょっと感じられませんでした。
 花びらに触れてみます。ピンクのコスモスには「乙女の純潔」という花言葉があります。それを汚さないように、恐る恐る撫でてみます。一言でいえば、コスモスの花びらは優しく撫でれば滑らかな感触を指先に与えてきます。どこかで触った記憶もある感触ですが、どこか人工物的な感触を自分は得ました(自分が触れてみた感触、それへの感想は句となりましたので、これ以上は書けません)

 花びらの外側、咢へと目を移していきます。
 

 花びらの大きさに対して、細く短い咢。ヒョロヒョロした茎。コスモスは花びらの色と大きさに精を出したように見えてきました。
そんな思いからの画像が下のものとなります。

実際に茎を触れてみると、案外としっかりした強さを持っているな、というのが感想。細さ相応のしなやかさ、それは簡単には折れない強さを感じられるものでした。撫でると花びら程ではないにしろ、なめらか。下から上へ撫でると特に。

葉は、見た通りヒョロヒョロ、Wikipediaで「糸状になる」とはいったものです。
この糸状の葉、一本一本を丁寧に摘まもうとすると、指先に感じる感覚はあまりありませんでした。それは、縫い糸を摘まんだ時に似た感想に似ていました。縫い糸を摘まんだ時に、糸が与えてくれる感触よりも、「摘まんだものを離してはいけない」という意識が働く、そのために、感触の情報、感想、記憶は放棄されます。ましてや、コスモスという生物が相手、潰してはいけない、殺してはならない、そんな気持ちが働いて、正直、葉を摘まんだり撫でた感触は残ってません。

こんなところでコスモスの現物の観察を終えました。

それにしても、先に示した画像を見ると、コスモスとは憎いくらいに青空との相性が良いものですね。

3 イメージや取り合わせについて

 3-1 学名から

まずはその名前や語源、学名から。
コスモス、英語で書けば「Cosmos」ですが、webの語源由来辞典(https://gogen-yurai.jp/cosmos/)によると、ギリシャ語で「秩序」「調和」を意味する「κόσμος」から来ているそう。秩序正しく調和のとれたものは美しいことから、「cosmos」には「装飾」や「美麗」の意味も含まれるようになったようです。
また、コスモスの学名、「Cosmos bipinnatus」と言い、「bipinnatus」の「bi」は「2つ」を意味し、「pinnatus(pinnate)」は「羽状の」を意味するとのこと。よって、「美麗な二枚の羽状のもの」というのがコスモスの学名の意味となるかと思います。

名前、学名、語源から得られるイメージとしては、
・秩序、調和
・美麗、装飾
・羽状

といったところでしょうか。

3-2 花言葉から

花言葉(コスモス(秋桜)の花言葉! 色別の意味・由来・誕生花 [ガーデニング・園芸] All About)に目を向けます。

コスモス全体:乙女の真心、謙虚、調和、平和、美しさ
ピンクのコスモス:純潔
赤いコスモス:愛情、調和
白いコスモス:優美
チョコレートコスモス:恋の終わり

 チョコレートコスモスだけは異色を放っていますが、概ね正のイメージを持つ花言葉が多いと思います。

3-3 歳時記、その他から

 自分が、普段の作句において頼りにしている歳時記は、角川俳句大歳時記と新歳時記です。

 角川俳句大歳時記からの「コスモス」から一部抜粋すると
 「軽やかな花をつけて風にゆれる。湿った情緒はあまりなし(中略)秋を代表する草花となって広く親しまれている」
 新歳時記では
 「むらがり咲いて美しい(中略)<本意>葉が細いため弱々しく見えるが、性質は丈夫、どこでも良く育つ。風に漂うように揺れて、一見デリケートだが、秋どこにでも咲いている、しぶとさがある」

 「湿った情緒はあまりない」というのは、花言葉が正のイメージなのと関与していそう。また、上を向いて茎に対してカラフルな大輪の花を咲かせることは、秋の空の高さ、風の爽やかさといった正のイメージを負わせやすそうです。
 持ち歩くのに便利なハンディタイプの図鑑(「改訂版散歩で見かける草花・雑草図鑑」創英社/三省堂書店)には、コスモスの解説者の感想として「さわやかな秋の空が似合う」とありますし、「学研の図鑑 花」では「日当たりが良く水はけのよい場所を好む」とありますから、秋の日向の植物というイメージが強く出てきて、そりゃ、湿った情緒はあまり出てこなさそうです。
 新歳時記では「風に漂うように揺れて」とあります。
 こうしてみると、取り合わせとして「秋空」「青空」といった明るい空、「秋風」との取り合わせ、コスモスの動きとして「上を向く」「揺れる」といったものはベタな感じですね。
 さて、ベタを感じていた中、図書館で「絵手紙花のことば集(日貿出版社)」という本を見つけました。絵と短い文を葉書に書いたものが絵手紙ですが、プレバトでも査定コーナーがあったりします(最近見てない気がします)。で、今回見つけたこの本、絵手紙の絵に添える言葉の例を載せてあるのです。
 例えば、見出しにも「花を描いていると気持ちが自分に移って、やさしい心になれるね。そんなコスモスからそんな心もらいたい」なんて書いてあります。そして、ことばの例集がありますが、秋空、秋晴れ、秋の風、秋の雲、揺れる、優しい、強い、埋もれる、、、など、類想ワードもたっぷりありました。
 類想を調べるためには意外と良い本なのかな、と思ったりしました。

4 おわりに

 毎度、季語深耕の文を書くたび思うのです。「今回もまた、消化不良、妥協した、自己満足で終わった」と。
 今回は、実景として、コスモス畑の光景(群生)を見てないし、特に、コスモスの動作の表現(揺れるとか、震えるとか)についてもまだまだ探れるかと思うのです。
 そしてまた、思うのです。毎度のことながら、私の調べや観察を悠々と超えた句が出てくるのだから、俳句ポストって恐ろしいなと。
 それらの句に期待しつつ、自分も投句に移りたいと思います。
 今回も、二句を制限として、選句と推敲に挑むのでした。

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