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自分で自分の健康をコントロールできるという自由を、もっと多くの人に。株式会社スクリエ代表 岡本孝博氏インタビュー

Introduction
歯科口腔外科医としてのキャリアを経て、使い捨て入れ歯・嚥下プレートを提案するスクリエの代表を務める岡本孝博氏。未だに職人の手作業に頼っている入れ歯制作を、「みんなで作るもの」としてオープンソース化することで、歯をなくした人のクオリティ・オブ・ライフが上がると語る。


ただ生きるための仕事から脱出したい

ーー設立に至った理由を教えていただけますか?
いちばん強い動機は「コントロールできる何かが欲しい」という衝動ですね。「表現」と言った方が綺麗なのかもしれませんが。今の自分の職業では、やがては生きるための奴隷にしかすぎないと感じたのが理由です。誰しもにある欲求だと思うのですが、僕の場合はクリエイティブなことをしたいという欲求が根底にありました。

また、僕の実家が地方なのですが、無医地区が2箇所もあって。親戚がそこに住んでいるので、そこに最先端医療を届けるためにはどうしたらいいか?ということを考えました。救急医療もそうですけれど、何かあっても病院に行くまで、救急車が到着するまで1時間かかるような場所なんです。


「入れ歯」という原始的なものづくりの衝撃


ーーそこでなぜ「使い捨て入れ歯」に至ったんですか?
僕は口腔外科なので、外科的な手術とかばかりをやっていて、入れ歯を作る職人ではなかったんですよ。いわゆる歯医者さんの仕事をさせてもらった時に、入れ歯の制作方法に初めて触れて「なんて原始的なことをやっているんだ!」と衝撃を受けました。「匠」的な職人によって閉鎖的な環境で作られている現状を見て、「患者さんも含めて、みんなで作ったらいいのでは?」と思ったのがきっかけです。患者さんの中には、自分で入れ歯を作ったり、削ったりなど手を加えてくる人がいるんですよ。それらの加工の中には、僕から見ても「いいな」と思えるものがあったりもして。そういった加工は医療従事者にとって負担になるよりも、いい意味でシナジー効果になるんじゃないかと思いました。そこから「患者さんも含めて、一緒に作っていく入れ歯」という意味で、使い捨て入れ歯って面白いんじゃないかと思ったんです。

ーー起業して直面したチャレンジというのは何ですか?
自分が蓄えてきたタイトル、階級、地位というのが足かせになることもあるというのが意外な発見でした。主治医制度もあるので、簡単に責任から抜けることができません。堅い業界なので、フットワーク軽く動くというのが厳しいんだなと感じました。なので、すでに現職には退職を打診していますが、どのタイミングでスクリエにスイッチするかというのが、今直面している課題かと思います。

また、医療従事者によく見られることなのですが、ビジネスをやるということに関して全くわからないという人が多い。僕はもともと服屋をやっていた経験があるので、まだその点に関しては見識があったと思いますし、それが創業したきっかけのひとつでもあります。

でも医者の多くはビジネスなんてやりたがらないんです。そもそもビジネスをやりたい人は医者にはならないので。安定を求めて医者になった人も多いのではないでしょうか。僕は医者になろうと思ってなったわけではなくたまたまなんですが、そこで理解してもらうように話をするのが難しいと感じることはありますね。

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医師を退職して起業家へ転身。安定を捨てる葛藤を経て


ーー今後、こういったところと協業してみたいというのはありますか?
僕のバックグラウンドが研究ではなく臨床系なので、工学系の知り合いが少ないです。なので工学系のネットワークがひろがればいいなと思っています。また薬理学系に関しても、僕は治験とかを自分がメインでやったことはないので、そういったつながりができれば良いなと思っています。大企業の製薬会社さんとかの方が、その点に関しては先を行っていると思うので。
自分で研究したり考えたりするのは好きですしワクワクするんですけれど、どっちも自分だけでやるのではなく、工学系の人と研究開発できたら楽しそうだなと思います。そしてそれを製薬会社の人が面白いと思ってくれれば、さらにいいなと思います。

ーーどんな将来のビジョンを描いていますか?

ピッチでも言っているんですが、歯をなくした人が「こういう状況になってしまったらもう仕方がない」とその後の人生での食べる楽しみを諦めてしまっている現状があります。歯がなくなったらタコが食べれないとか、そういうのが克服できればいいなと思いますね。けど他の人が同じようなことをやっているのであれば、その人がやればいいと思うので、その時は何か新しいことにチャレンジしたいなと思います。

ーー他の人がやればいいと思う、というのは意外なコメントです。

「そこがズレている」と人に突っ込まれたりもするんですけど(笑)。ただPlug and Playのプログラムに参加して、「スケールしなければ意味がないな」「スケールしないとやりたいことができないんだ」、つまり「ズレていてはいけないんだ」ということに気づいたので、それがアクセラレーションプログラムに参加しての収穫かと思います(笑)。

ーー「今までの地位が足かせになる」というコメントも意外でした。

地位によってその職場や場所の「顔」になるわけじゃないですか。それをやめてしまうと、自分を慕ってついてきてくれた後輩とかに責任を感じます。僕がやりたいのは新しいことや地方創生なのに、今勤務している地方の病院を辞めるのは矛盾しているのではないかと葛藤することもあります。もっとひろく見れば、今やっていることは地方創生にも関係しているからどちらの道を選んでも変わらないんじゃないか、と自分には言い聞かせていますが。「足かせ」といったのは、捨てなきゃいけないものができてくるということですかね。安定した収入とか(笑)。


自分ではどうにもできない、という患者のストレスを減らす


ーーどういった未来になればいいなと思いますか。

スマホで自分の口の中の写真をとって歯医者さんに送っておけば、治療内容や所要時間がすべて事前にわかる、みたいなことがふつうになればいいなと思います。どこをどういうふうに治療する予定だとか、治療後のイメージを見られたりとか。歯科医から患者を奪うわけではなく、今歯科医が抱えているリスクを軽減する事業になればいいなと思っています。

入れ歯って、作るのに2ヶ月くらいかかるんですよ。極端な話、作ってるうちに患者さんが亡くなってしまって、入れ歯だけ残ったなんて話もよく聞きます。ご遺族の方がそれを引き取って「最後に食べたいものを食べさせてあげられなかった」なんて嘆いておられるのを見るのもよくある話で、そういう状況をなくしたいなぁと思いますね。「食べたい時がうまい時」じゃないですけれど、そういう時に入れ歯をすぐ着けてあげられるようにしたいと思っています。

ーー確かに、歯医者さんに行って、「また来週来てください」と言われるとがっかりしますね。

来院前に術後のイメージがわかっていて、たとえば「前歯がこういうふうに綺麗になる」とかが漠然とでもわかっていれば嬉しくないですか? プロセスがすべて事前にわかっていれば、「今この段階まで来て、あと何回来れば良い」とわかるので「あと何回かかるの?」「費用は?」と疑問に思うことがなくなります。医療業界はブラックボックス化しているところが多いのですが、医療分野の中でも歯科は命にかかわることが少ないので、そのブラックボックスを解消することを、他の分野に先駆けてできるのではないかと思っています。


ーー治療のプロセスがわかるようになるとか、食べる楽しみを諦めなくてすむといったスクリエ の提供する価値は、最初におっしゃっていた「自分で自分の人生をコントロールできるようにしたい」という価値観にも通じるものがあるように思います。

僕だけではなく、誰しも大なり小なりコントロールできるものを欲していると思います。支配されることを望む人も一部はいると思いますし、それが悪いとも思いません。むしろ、憧れすらする時もあります。ただ、僕はたまたま違っただけで、自由には才能と努力が必要だと思います。プログラムに参加して、才能ある多くの方々と話せたのは、一番の収穫と思っています。そこに気づいたうえで、先ずは自分にできるところから、苦しんでいる人を解放したいという思いがあります。そうすれば、もっと世界はクリエイティブになると信じています。

株式会社スクリエ
設立:2018
代表:岡本孝博
https://sqrie.jp/index.html


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