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【企画参加】うたスト| 課題曲F「とめどない」

PJさんの企画へ参加させていただきますね。
よろしくお願いします✨


今回は、数ある曲の中から1曲を選びストーリーを考えること。

選ぶことも難しいですし、そこからイメージしてストーリーを考えることもハードル高しでした。

私が選ばせていただいたのは、こちらの曲↓

 
課題曲F『とめどない』
大橋ちよさん

《ちよ》繋がりですね(*^_^*)
よろしくお願いします✨

永遠に幸せに


LINEの通知がなった。
久々に見る名前は、甥っ子のヒロ。

「しーちゃん、久しぶり!元気?」

久しぶりだね、と即レスすると

「俺ね、もうすぐ結婚するんだ」

嬉しさが込み上げて、なんて返信しようか
戸惑った・・そうしているうちにヒロから再び

「しーちゃん、式は挙げないけど、実家で結婚相手紹介するから会えないかな?来月10日予定空いてる?」

うんうんうん!とかわいい猫スタンプを押すと、あらためておめでとうと返信した。

その後、ヒロの父親である兄に電話してみた。

ヒロ、結婚するんだってね!
おめでとう!!良かったね!

はしゃいでスマホのマイクへ向けて語りかけると、兄が冷静な声で返事をする。

「うん、良かったよね。
相手の子さ、良い子なんだよ。
バツイチでさ、小学1年の男の子が1人いるんだ」

ん?・・一瞬言葉につまった。

バツイチで小1の息子?いるの?再婚てこと?

言われた通りのことをオウム返しする自分に半ば呆れる。

「そうだよ。子連れ結婚だって。ヒロが父親になるってこと。それで苗字もその子のためにヒロが婿入りする形、、だから鈴木じゃなくなるって!先月から一緒に住んでるってさ」

兄の言葉をゆっくりと頭の中で反芻した。

なぜここで素直に喜べない自分がいるのだろう・・子持ちと結婚するから?相手が初婚じゃないから?

ヒロは30歳、誰とどこで結婚しようが本人が幸せならそれで良いはず。

それなのに、なぜ純粋に喜べないのだろう。

ヒロが結婚相手を連れての食事会の日はあっという間に来た。子連れの相手と結婚することを決めたヒロを心配する気持ちに変わりはなかった。


心配?何を心配するのだろう?
私が心配して何か良いことあったっけ?

そう自答自問しながら、ガタンゴトンと電車に揺られ、兄の家へ向かった。


この感情は、母親的心配なのだろうか・・
事実、小学生と中学生の子供はいるが、自分の子供が結婚することを思い浮かべても、まだまだピンとこない。

…*…*…*…*…*…*…*…*


ヒロとヒロの父親である兄と暮らした2年間を思い出していた。


兄は、大学卒業と同時に所謂デキ婚で結婚し、ヒロをもうけた。若気の至りか兄夫婦はヒロが幼稚園児の頃に離婚した。


それからは、ヒロにとっては祖母である母が面倒を見ていたが、母が体調を崩し、孫の面倒を見られないと知らせを受け、兄から直接頼まれた。

「少しだけ手伝って欲しい・・」兄は離婚から立ち直れず、明らかに気落ちした毎日を送っていた。


兄の弱っている姿に胸が痛み、それからは深くは考えずに、一人暮らしの部屋を引き上げ兄とヒロとの同居生活が始まった。


小学1年生のヒロは私に懐いて
「叔母ちゃん」でもなく「叔母さん」でもなく
「しーちゃん」と読んでいた。


お母さんと見るには若すぎる21歳。
14歳差は、姉弟と言ってもいいのかもしれない。


兄はメンタルがボロボロで毎晩仕事帰りに相当な量のアルコールを飲み、深夜に帰宅。


日常の食事、洗濯、入浴、買い物、掃除、全てを担っていた・・ストレスが溜まる。

夕食の後は、ヒロの音読「スイミー」を聞きながら○△×を項目ごとにチェック、食器を洗い、お風呂を済ませて、寝かしつけると自分の課題が残っている事に呆然とした。

明日までの課題、これを出さないと単位が足りなくなる。眠い目を擦りながらも自分の部屋として割り当てられた6畳でぼんやり課題のテーマを眺めた・・

ふっと目が覚めて慌てて起き上がると、時計は深夜1時、あのまま睡魔に襲われたらしい。頭を切り替え急いで課題に取りかかった。


それから間もなく、玄関がガチャガチャと鳴る。玄関へ向かうと同時に兄はトイレへ駆け込み嗚咽と共に嘔吐する・・これはいつまで続くのだろう。


どんなに頑張っても、兄の心は元に戻らず不摂生と言うには足らず、闇へ一歩足を踏み込んでいるようだった。


きっと、ヒロの気持ちは考えていない。
いや、考える余裕がないのかもしれない。
ただひたすら妻に逃げられた自分を嘆くだけ。


ヒロは、時々深夜にうなされる。
突然むくりと上半身を起こし目を瞑ったまま「わぁっ〜〜〜」と泣き出す。それを見る度、背中を摩り「大丈夫だよ」と声をかけることしか出来ない自分に悲しさが増した。


そんな暮らしをしながら、丸2年が過ぎようとしたころ、再び母が戻ってきてくれたのだ。これを機に大学を卒業すると、就職と共に兄の家を出て引っ越した。

引っ越しの日、黙ったまま涙を流したヒロの顔を一生忘れられない。

…………………………………………


ガタンゴトン、、揺れる電車でハッとした。
あっ、次の駅で降りなければ。

懐かしい思い出に浸りながらふと思った。

ヒロが幸せならそれが一番だよね。

蟠りは小さくグレーな泡粒となって胸元から天井へ向かって消えていくようだった。同時に心が軽くなる。

駅を降りて改札を出ると、晴れやかな青空がのぞく。泡粒は一つも残っていないのを確信して兄宅への道のりをトコトコ歩いた。

「あれ!!しーちゃん?」

振り返ると、大人顔のヒロは小さな男の子と手を繋ぎ、その隣には小柄で可憐な女性が立っていた。

「しーちゃん、同じ電車だったんだね!
紹介するよ。奥さんとこっちがユースケ!」

笑うと元々の細い目がより一層細くなるヒロは、満面の笑顔で話す。そんなヒロをみてホッとして、思わず目頭が熱くなるのを感じた。


「はじめまして」
「はじめまして」
ヒロの奥さんと言葉が被り、2人でクスクス笑い合った。

よかった。ヒロが幸せで。

ヒロ、おめでとう!!


おわりに

PJさん、もしかしたら「ラブストーリー」が王道かもしれない、と思いながら家族愛的なストーリーになりました。

大橋ちよさんの素敵な曲を聴きながら、「こうでなければならない」という決めつけを解放させ、おめでとうと素直に伝える女性をイメージして書いてみました。

PJさん、大橋ちよさん、ありがとうございました✨


そのお気持ちに感謝します😊