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ノウサギ(詩)


野兎のギラギラした眼をテレビでみました。
ぴょんぴょん逃げるものだから、ほんの一瞬だけでした。
野兎は雪上で死んで、ぼくの胸へとやって来ました。
赤い眼が白い顔の上、黙って座っているのです。

野兎は躊躇なく僕の中にトンネルを掘り、
背骨あたりでぴたりと止まり、息をひそめて固まっています。
時折、その眼が暗闇の中で揺れ、ぼくをおどかしたりするのです。

ある瞬間、いまならぼくがぱっと仕留められるに違いないと感じました。
そうしたならば、あの鮮血を搾り出し、枝に吊り下げて皮を引っ剥がし、白い世界に横たえて、その眼を隠してしまえるだろうと。
しかし、そう思えたのも束の間でした。

野兎は眼だけを残し、とっとと消えてしまったのです。
赤い眼だけを残し、さっさとどこかに消えてしまったのです。
ぼくは慌てて赤い目を引っ掴みました。

けれどもぼくは握った目の玉に拳の中から睨まれました。
握った目の玉に拳の中から睨まれました。

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