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箱庭(詩)


人生のおわりには箱庭がある
苔に覆われた物静かな日陰と
地衣類をまとった種々の木と
目を凝らさなければ見逃してしまう
小さなきらめき 花や果実
錆びついた鉄製のチェアは土に埋もれ
船員を失った鉢植えがそこここに漂い
木から落ちた鳥の巣箱が
かつては命の揺籠だったその箱が
釘を剥き出しに ささくれを反らせて 怒っている
役目を果たした底なしの靴や
骨の砕けた傘 
土に還りたいと嘆く陶器の人形が
こどもの寝息のような風のなかにある

ここへ至るまでの道に渦巻いていた波が
小さな入り口を前に そっと引き返していく

光が影に命を吹き込み
また影が光に命を与え
その追いかけっこに時を忘れる

誰もが押し静まって箱庭を隅々まで眺め
そして真ん中まで歩み出て
ぽつんと立ち
地面から立ちのぼる夢の熱に溶ける

そうして今 自らが夢の一部となったこと
ずっと夢のひとかけらだったことに気づく

人生のおわりには箱庭がある
そして それさえも夢である

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