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改札

 2月の暮れ、1人の女性を改札で見送った。久々に心から会いたいと思える女性を。

 改札で別れホームへと向かう彼女の背中は次第に小さくなっていき、やがて見えなくなった。その姿を見ながらようやく3年前の自分に別れを告げることができたような気がした。

 その駅は3年前、当時高校生だった時に付き合っていた彼女との思い出の場所だった。彼女とは同じ部活だったものの、クラブチームで練習することが許可されていたため、お互い異なるクラブチームで練習していた。その練習が終わった後に合流していた場所がこの駅だった。
 練習は自分の方が早く終わるので、その駅で彼女のことを待つことが多かった。冬の21時を過ぎた時間に、しかも定期圏外の駅だったのにも関わらず彼女のことを待つ時間は幸せだった。それほど会いたいと思える存在だったのだろう。

 そんな思い出の駅で3年後、異なる女性を見送った。実際には見送りたかったからその駅に行った、というのが正しいのかもしれない。どうでもいい人とその駅で別れても何も感じないだろうが、自分の中で大切にしている人であれば何か変わると思ったから行ったのだ。

 その結果ようやく3年前の自分に別れを告げることができた。いや、決別するための第一歩をやっと踏み出せたと言った方が正しいのだろう。
 恋愛において、男性はメモリーカードのように思い出を保存してから次の恋をする、女性は上書き保存をして次の恋をする、とよく耳にする。今回このことがよく分かった。

 自分には思い出を完全に消すことはできなかった。むしろそれでいいと思う。思い出を心の中に取っておきながら次のステージに進めばいいのだ。その一歩を踏み出すのに3年かかってしまった。他人から見たら長すぎると思うかもしれないが、自分ではそこまで長いとは思わない。3年かからないと次にいけないほど好きだったのだろう。

 女性を改札で見送った次の日、もう1つの思い出の駅に行った。その駅は元カノと別れてから1年間、降りることさえ躊躇う場所だった。その駅で降車し、一緒に歩いた場所を巡ってかつてのことを思い出していた。これだけでも大きな一歩を踏み出せたと思うし、踏ん切りをつけるきっかけになった。

 紆余曲折を経てやっとここまでこれた。遠回りした分、見える景色もあった。
 3年間閉ざされていた心の改札がようやく開いた気がして、次の駅に向かうことができる。そう感じた寒い一日があった。

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