幕末開陽丸 徳川海軍最後の戦い 安部龍太郎
幕末というと、新選組、坂本龍馬、白虎隊、徳川慶喜、西郷隆盛、坂本龍馬挙げるときりがないくらいの綺羅星が輝く。そんな中、作者が筆を執ったのは徳川幕府最後の海軍。主人公は開陽丸艦長・沢太郎左衛門。名前は知られていないが榎本武揚の盟友として活躍した人物。実際に存在した人物で、勝海舟と袂を分かつがどうしても武士として守らなければならいないことがあり、戦うことではなく、幕臣の北海道の開拓を行う許可を求めるため、最後まで榎本武揚と五稜郭、室蘭で戦い続けた。
これを小説に仕上げる見事なスパイスは、老婆「さわ」の祖母・富子。主人公・沢太郎左衛門の許嫁だった人物。彼女もまた幕末の混乱のなかで人生が大きく変わった一人。許嫁であった沢と離れ離れとなり、身を落とし、薩摩藩から命を狙われることになる。それでもなお、沢と連れ立って行った浅草寺の土産屋で買った真鍮の根付を大切に持ち続ける。
幕臣・沢は、大政奉還、廃藩置県と朝廷・薩長側に追い詰められ奥羽越列藩同盟、函館五稜郭と北へ北へと追いやられる。当然幕臣であった沢も榎本と行動を共にし、榎本の五稜郭の戦い降伏まで室蘭で戦い続ける。海軍の戦いだから当然海での戦いとなるがその描写はどうすればこれほどリアリティで書くことが出来るのか、あたかも自分がその場にいるような感覚に陥る。富子もまた、北を目指す。新選組副長並みという地位を得て沢とは別々に薩長と戦いを続ける。
再び沢と富子が合うことが出来るのは新選組の土方歳三に案内されてである。しかし、その時は長くは続かない。開陽丸は最後の地、江差に向かいついにそこで座礁、沈没。
この後、歴史の上では、沢は室蘭へ、土方は函館へ向かい最後の戦いを挑むこととなる。そしてついに、榎本、沢両名とも降伏する。これを考えると富子は、函館で最後まで土方とともに戦い続けることとなっただろうか。
開陽丸が沈没した時、沢のポケットには富子と同じく浅草寺で買った根付が入っていた。「さわ」は沈没船・開陽丸の引き上げの時に泥にまみれたままになっている引き上げ物の中にそれを見つける。富子が臨終のときに最後まで手に握っていたものと同じだったから。
実際に開陽丸は昭和50年に引き上げが開始され、幕末以来100年ぶりに日の目を見ることとなったという事実をもとに執筆された。事実と創作が入り混じった幕末の海軍を題材に2人の人生を描いた作品。
歴史小説は、やめられない。
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