心臓

浴槽に浸かって
ぢっと指を合わせる
その五つの先端が
脈拍に併せて微細に振動するのを視認する

あるいはこの両の手が
私の物だと誰が定めたのだろう
右の腕はミーシャのもので
左の腕はローガンのものかもしれない

ただそれだけだ
ただそれだけのために
人は他者に触れようとする

触れて
合わせて
押し付けて
その体温が溶け合うように
境界を失ってしまうまで
境界を失ってこそ
境界を思い出すために

そうだ
この実在する僅かな隙間に
もうひとつの心臓を
信じることができる

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