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ある秋の日のジャズの記憶(前編)

§プロローグ
カシャッ、カシャ、いつになくハイハットの音が歯切れ良く耳に入ってくる。
ど真ん中の直球勝負、アップテンポの“Nature Boy”からライブが始まった。テナーサックスの号砲が目の前で炸裂する。

§第1話
今夜は、日吉のワンダーウォールでピアノの後藤沙紀さん、ベース寺尾陽介さん、ドラム鈴木梨花子さんの『ごさきりかこTrio』にサックス&フルート石川周之介さんが加わったリリースアルバムツアー最終公演に来ている。
しかもかなり運がよく、最前列の真ん中の席。フルスクリーンで名うてのジャズミュージシャンの生演奏が目の前で聴ける、なんとも贅沢極まりない。
続く曲は、“I Concentrate on You”。ラテンテイストのアレンジによるごさきさんのピアノは、1拍目に左手でコードを弾いていたので、ジャズの弾き方とはまた違うのかもしれないなと思いながら聴く。この曲は、シナトラがカルロス・ジョビンと共演している作品でも取り上げられていたことを後で知る。

§第2話
アルバムではトリオの演奏の“Boplicity”が、周之介さんがテナーサックスで加わる。周之介さんのテナーサックスは、PRESTIGE時代のジョン・コルトレーン(ピアノがレッド・ガーランド)のような力強くも気品のある音の響きで、そこに寺尾さんの安定したベースワークが耳に入ってきた。
“I Got Rhythm”では、このグループのチームワークを感じさせる変幻自在な演奏が目の前で縦横無尽に繰り広げられた。また梨花子さんの繰り出すリズムが秀逸で、どちらかというとソカに近い感じのカリプソで聴くジャズの名曲は4人のライブパフォーマンスの極みといえるだろう。

§第3話
“With a Song in My Heart”では、ごさきさんのピアノを聴きながら、ある少女の物語りが目に浮かんだ。物語りはこんな感じだ。
少女は幼い時に踊ることを父から教わり、言われるように足を動かし踊り始める。やがて踊り方を覚えて父に踊ってみせる。少女は成長し、ステップも刻むようになる。難しいターンも覚えて、どんどん上手に踊れるようになる。いつも傍には父がいて、少女を見守ってくれている。最後に父は言う『上手くなったもんだ』と。少女の踊りは、ごさきさんのピアノで、寺尾さんのベースが父だ。アルバムにも収録されているので、まだの方は是非聴いていただきたい。

〈演奏された曲順〉※括弧内は楽器または編成
1st set
1.Nature Boy(tenor sax)
2.I Concentrate on You(tenor sax)
3.With a Song in My Heart(trio)
4.Boplicity(tenor sax)
5.I Got Rhythm(tenor sax)

(後編)に続く

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