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ある秋の日のジャズの記憶(後編)

§第4話
ライブの話を続けたいと思う。
前菜とセットのキノコのパスタを頬張り、お腹も満たされたセカンドステージ。
最初の曲は“Here’s That Rainy Day”をソプラノサックスで。あの馴染みのフレーズが聴こえてきたもんだから、思わず昔よく聴いていたボサノバのアレンジのウエス・モンゴメリーのライブ音源が頭の中に出てきた。それで一瞬ボサノバの曲かなと勘違いしてしまった(苦笑)
ただ走り書きをしたこの日のメモには、「嵐のような演奏」と書いてある。うんうん、確かにライブでそうだったかもしれないと記憶を引き戻して調べていたら、歌詞は失恋の歌のように書いてあったから『嘘だろ』って思った。
確かにエラ・フィッツジェラルドやフランク・シナトラはスローなバラードとして歌っていて、この曲がミディアムテンポ以上の速さで演奏されることがない。でも調は明らかにマイナーではないし、悲しい感じはしない。
更に調べてみると、1930年代のブロードウェイミュージカル『フラーダースの謝肉祭』の曲らしく、内容は喜劇とあった。Funny that rainy day is here.の歌詞は、【rainy day】が英語の比喩で、「まさか」という意味があるとのこと。
そうなると話は変わってくる。つまり、青天の霹靂みたいな、意味は少し違うけども思ってもないことが突然訪れた場面の曲というわけだ。
そんな歌詞を頭に入れて、次回また演奏される時に改めて聴いてみようと思う。

§第5話
ガサゴソっと譜面台に収まりきらないほどの長さの楽譜は、セロテープで貼りあわされているらしく、周之介さんが目の前で次の曲を準備していた。
お客さんから、「鳩が出てくる」って冗談めかした声があって周之介さんは笑いのツボに入り、しばし和やかな時間が流れる。
『3月の水』という邦題で、ジョアン・ジルベルトによる演奏が知られる曲。この夜唯一の周之介さんのフルート演奏が聴けた。
フルートにより音ひとつひとつが紡がれ、梨花子さんが叩くリムショットとスネアドラムの軽快なリズムに続き、ごさきさんの明るいピアノが入ってくる。フルートのフラッターにハッとしたりとまるで楽器がおしゃべりをしているようだった。

§第6話
目の前でごさきさんのピアノのが鳴って、前触れもなく急に目が涙で溢れてきた。なんて美しいピアノなのだろう。涙は止まらない。

自分の中でごさきりかこTrioの音楽性を一気に高めだのが、アルバムにも収録されている”Verazzano Moon”だった。
ヴィブラフォン奏者のジョー・ロックの作曲で、ケニー・ワシントンのヴォーカルで演奏されているオリジナルの演奏があり、曲そのものも美しく非常に質の高いジャズを耳にすることができる。しかし、その本家の音を聴いてもごさきりかこTrioの演奏は完全に自分達の音楽へと昇華させてしまっていると感じた。
ごさきさんのピアノを目の前で、しかもグランドピアノで聴くという贅沢な時間。梨花子さんのブラシワークがピアノと共にサウンドを作っている。梨花子さんのドラムは、ゆっくりした曲もまた魅力があり、寺尾さんのベースが入ることで3人のジャズの形ができあがる。


その後、オリジナル曲の“Continuous”では4人のインタープレーが繰り広げられた。
アンコールでは、”All Blues”をベースにしたアレンジの”Winter Wonderland”で締めくくる非常に盛りだくさんのライブだった。

〈演奏された曲順〉※括弧内は楽器または編成
2nd set
1.Here’s That Rainy Day(soprano sax)
2.Waters of March(flute)
3.Verrazano Moon(trio)
4.Continuous(alto sax)

アンコール
Winter Wonderland(tenor sax)

2023年11月17日 ワンダーウォール横浜

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