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エッセイ

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だいたいまんなか付近のことば
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#エッセイ

書くということの根っこにあるもの

編集者を長く続けている方とお話をしたことがある。 そのときあるベテラン作家さんの話になっ…

うたたね

寝てしまう。 午後、光がだんだん和らいでくるころ、ぼうっとしてくる。 なにもすることがない…

織る

はじめて機織りをしたのは、八丈島に行ったときだった。 黄八丈という、伝統的な布地を機で織…

ちいさく灯る、あわのような時間と

小さいころお盆になると近くのお寺からお坊さんが来て、お経をあげるとしばらく茶の間でお酒を…

じゅずつなぎ

祖母が亡くなって、もうすぐ一年になる。 私は父母とうまく心を通わすことができなかったこと…

雨をうけとめて咲く

山奥にあるお寺に行った。 行くといいよ、と人に言われて、理由もなにも言われなかったし、私…

雨のふる日は

しとしと雨のふる日は外ばかり見ている。 雨がしずかにふると、ふだんの音が遠ざかる。白い線をなんぼんも引いて紗のかかったような景色。いつもなら届くはずの遠くからの音が雨の音でとざされて、近くのちいさな物音ばかりになる。 庇に雨のうつ音を聴いている。 咲きこぼれた梅の花びらが濡れた道に散っていて、かすんだ雨の匂いがする。 「雨宿り」という言葉がほとんど死語になったな、と思う。 どこかの家の軒先を借りていっとき雨をしのぐ、そういうようなこと、いまはほとんどない。雨がふりはじめ

草木と言葉

草木瓜 土手に咲いた花の写真を撮っているとき、通りかかった人に、それはなんの花なんですか…

漕ぎだす

昔からどうにもならないときはよく水辺に行った。 海から遠いところに暮らしていたので浜辺に…

生きている

お盆になると、提灯をもってご先祖さまを迎えに行く。 田んぼ道、子ども用のちいさな提灯をぶ…

かすか

写真展を見るためにひさしぶりに都内に出て都心を歩いた。 ビルのあいまに咲く夾竹桃の白い花…

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あくがる

昔よく、父といっしょに蛍を見に行った。   用水路に水の流れる音を聞きながら、田んぼの畦道…

雲のはたて

石牟礼道子さんの全集を、よく読む。 ふれるたび、思い出すということを思い出す。 石牟礼さ…

手のひらと椿

公園に椿が咲いていた。 白くて、可憐で、ちいさくて、ひかえめな花。写真を撮っていると、ひとつだけ、花がぽとりと落ちた。 白侘助、という名前の椿だった。 落ちたその花を、しずかにそっと手にとる。花びらはやわらかかった。いまにもこわれそうなその花を、手のひらにやさしくつつむ。 ◯ 実家の庭には八重の椿が咲いていた。 冬になるとたくさんの花をつける。大好きだった。幼いころ、よくその花をひろって遊んでいた。手のひらいっぱいにのせた花は、やわらかかった。 白侘助のちいさな花を手