見出し画像

フォークソング(ゲーム感想)_好きな人との時間を共有できる美しさ

『フォークソング』はリューノスより1999年11月に発売されたノベルゲームで、企画・シナリオは八雲意宇、原画・CGが小池定路となっている。
友人との連絡に黒電話が現役で使われている昭和の時代に、自然豊かでのどかな神谷上町(かみやがりまち)を舞台にした恋愛ストーリーは、3組の男女を中心にして、誰かが激しく傷ついたりしない優しい世界観の作品。
以下、ネタバレを含む感想などを。

すれ違う幼馴染、小琴野美夏と草刈陽太

幼馴染であり、考え無しにとりあえず行動してしまうところが似ている美夏と陽太。お互いに好意を持ってはいたが、先に進むきっかけを掴めず、顔を合わせれば憎まれ口を叩くような仲だった。
花見からの帰宅途中、自力で歩けないほど泥酔した陽太を運ぶのに疲れ、バス停のベンチで休憩していたところ、やっと陽太が起き上がったと思ったら、「すきだぁ」と言いながら押し倒してしまったことをきっかけに、美夏の態度が突き放したものに変化してしまう。

美夏にとって陽太は好みのタイプでは無かったのだが、一緒にいるうちに情が移ったのか、いつしか好意を持つようになっていて、本音では陽太のことを許してあげたいのだが、「好きだ」と言われたことすら無かったことになるのを恐れ、困惑しながらも仲直りのタイミングを逃してしまっている。

そもそも二人の間で論点がズレているのがもどかしく、美夏からしてみると泥酔した状態での告白であったため、陽太の告白を信じられない。ただ素面で「好きだ」と言ってもらいたいだけなのだが、陽太はそんな美夏の気持ちへ気付かずに、押し倒してしまったことだけを怒られたと考えている。
そのため陽太が「出来心だった」と押し倒したことを謝ると、美夏は「好きだ」と言われたことを出来心と勘違いして逆上したり。

選択肢によっていくつかのエンディングが用意されているのだが、美夏が陽太を学校まで連れて行き一方的に告白し、その場で返事を迫る勢いの潔さが素敵で、そうして仲直りしてからのことが済んでからの、お互いの愛情を噛みしめるような余韻がよかった。
鉄壁の幼馴染というだけあって、どうあってもいずれはくっつく二人なのだが、一歩を踏み出す勇気は誰だって躊躇する。そういう気持ちを思い起こさせてくれ物語だった。

互いのことを思いやり過ぎる、大野歩と佐竹道成

ぶっきらぼうで言葉は乱暴だが誠実で優しいところのある通成と、控えめな性格で自分の幸せよりも他人の幸せを望むような歩。

相手のことを思いやれて、恋愛については奥手で照れ屋というところが似た者同士な二人。この物語は、真面目そうな二人のヴィジュアルを含めてとにかく地味で渋くフレッシュな要素があんまりないのが特徴的。
まず出会ったきっかけが、歩のお婆さんがよろけたところを道成が手を差し伸べたからだし、歩がはじめて道成の家を訪れるシーンでは二人して炬燵に入っていたり服装もどてらと渋い。さらに道成の苦手な物が洋菓子という枯れ具合で、どうも若い男女ならではの新鮮さが足りない。

好奇心旺盛な道成の妹二人が、歩の来訪に沸き立って騒がしくしているところなどは微笑ましいが、本人たちは至ってマイペースに愛を育んでいる。
エンディング次第では、道成は大学進学して遠距離恋愛となるのだが、真っ直ぐにお互いだけを見つめている二人に悲壮感はあまりない。
そんなわけで、この二人の物語は他2組と比較して、ほぼ不穏な要素はなくもっとも心暖まる内容になっている。
悪く言うと、ストーリーに少し引っ掛かりが足りないか。

朝倉志帆と透、それぞれにとって一番に好きな人

釣りが好きで体は小さいが心持ちは大きくありたい透と、自分の気持ちを正直に言えない志帆。

志帆には、中学生の頃から付き合っている九条久志がいて、透が一方的に志帆に片思いしている状態からスタートする。そのため、他二組がほぼすんなりと恋を成就させるのに対して、ここでは久志を含む三角関係となっている。

志帆が酒に酔って、方言丸出しな状態になった花見のからの帰り道、夜道を二人で帰宅しながら好きな食べ物を言い合って、そのままの流れで、透が告白するも志帆は「好きな人がいるから」透の気持ちにこたえられないと言う。

虫の声をBGMに、透にとっては好きな人と二人きりで夜道を歩ける幸せと、その相手からあっさり断られる切なさ、そうしてどこか済まなそうな志帆の気持ちが、ない混ぜになったこのシーンは、本作品で最も美しい。

最終的に志帆が久志ではなく透を選択する理由について、志帆は一切語らないため想像するしかないのだが、きっとそれは久志が志帆に自分の好みを強要するのに対して、透がありのままの志帆を受け入れてくれるから。
自分の気持ちを素直に表現出来ない志帆には、はっきり言って性格的に面倒なところがある。そんな志帆のことを懐の広さで受け入れてくれる透にたいして、徐々に気持ちが変化していく。
物覚えが悪くて体は小さいが、ピンチのときには駆けつけてくれ、自分の気持ちに正直で嘘はつかない。
のんびり釣りをして、美味しいものを食べて日々を過ごすというのが、道成とはまた違った意味で達観し過ぎだとは思うが、カラッとした性格で器の大きさを感じさせる透には人を惹き付ける魅力がある。


とにかく作品全体に長閑な雰囲気が漂っていて、虫の声、川のせせらぎや祭ばやしなどの効果音が自然豊かな町の季節感を演出し、牧歌的な音楽もゆるやかな時間を感じさせるてくれるし、淡く彩色されたイラストも優しい物語の印象に合っている。
各話のオープニングもお気に入りで、最初に少しだけストーリーを進行してからの「フォークソング」のタイトルコール、水が流れるように鳴り出すピアノのイントロの入り方には期待感があった。

人々がお互いに顔見知りだからプライベートなんてあったものじゃなく、他人の評判を気にして大胆な行動をしづらかったりと、実際の田舎では人間関係がもっとドロドロとしていそうなものだが、そういうのはなくてどこか懐かしくて優しい時間の流れる作品となっている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?