蔵女_02

腐り姫~euthanasia~(感想)_昭和感が濃厚に漂う伝奇ホラー

ライアーソフトからの6作目で2002年2月に発売されたADVゲーム。対応OSはWin95/98/Meで発売当時はCD-ROM2枚組。
公式サイトではインモラル・ホラーADV と紹介されておりストーリー紹介は以下の通り。

父親と妹が怪死を遂げ、記憶喪失となった主人公は、義母に連れられ、故郷の町へと戻る。そこで主人公は蔵女(くらめ)と呼ばれる、深紅の着物の少女と出逢う。
少女は自分の妹に瓜二つだった。取り巻く家族や友人たちは、うわべでは彼の回復を望みながらも、罪の意識を心に潜ませている。
蔵女はそんな人々の隙に取り入り、甘美な肉欲と狂気を与え、身も心も崩壊させていく。
記憶と現実の境界が揺らぎ、喪失感と、蘇る恐怖との狭間に葛藤しながら、やがて全ての記憶を取り戻し、赤い雪が降り積もるなか、世界が死の静寂に包まれるまでの4日間。

シナリオは後にTYPE-MOONへ移籍する星空めておが担当。
主人公、五樹(いつき)の故郷というのは「とうかんもり」という田舎町となる。とうかんもりは東京から遠いところにあり、自宅は近くのコンビニまで30分以上もかかるところにある。町の至るところに昭和の雰囲気が残っており、駅近くへ出ると昭和中~後期で時が止まったかのような町並みが残っている。
薄幸なヒロインたちのせいで暗いストーリーとなっており、そんな世界観がBGMでもうまく表現されている。ピアノが多用された曲が多く、作品中に雨が降っていることもあって、雨の日などにはBGM単体でも聴きたくなる楽曲が多い。CD-DA形式(懐かしい)ということもあり、発売当時はポータブルCDプレイヤーで持ち歩いていた。

以下、ゲームの感想などを書いていくがネタバレを含む。

グリルぎとぎと

8/11以降の4日間を何度も繰り返していくループゲームとなっており、記憶を失った五樹がとうかんもりにいる様々な人々と交流をしながら、記憶を取り戻していくことになるが、思い出す記憶はどれも暗い話しばかりで、全体的に暗い雰囲気になっている。

ループ設定のゲームとしては『CROSS†CHANNEL』よりも1年以上も先行して発売していることからも、当時本作の設定が斬新だったと記憶している。
そういえば、ヒロインが思いを遂げるとループから抜けられるという設定も似ている。

とうかんもり

また、直接的な説明は避けられているものの、作品紹介に”インモラル”と説明されているだけあって親子、兄弟の近親相姦のシーンがかなり執拗に描かれているし、ペドフィリアの要素もある。
五樹と関係を持つことになる女性は、蔵女、簸川芳野(義母)、簸川夏生(従姉妹)、簸川潤(義理妹)、伊勢きりこ(自称彼女)となるが、トゥルーエンド以外は救いようのない爛れた関係のまま終わることが多くハッピーエンドというのは、最終盤のトゥルー・エンド以外には無い。

画像3

自分としては、死んだ健昭(五樹の父)の忘れ形見である五樹へ欲情する簸川芳野のエピソードが良かった。
実の娘である潤を裏切り、母親であることを捨ててまで五樹を求める芳野。盲目であることもあり、かなりキャラ絵に迫力があるのだが作品中の登場人物の中でも異様な怪しさを放っている。自殺した健昭からは相手にされず、家庭崩壊の元凶とも言うべき樹里の首を締める嫉妬心と、実の娘を捨ててまで、義理の息子と駆け落ちしようとする人としての矛盾にどうしようも無い救いようの無さがある。
こんな女性の話しを、最近映画で観たなと思ったら、ウディ・アレン監督『女と男の観覧車』のヒロイン、ジニー(Kate Winslet)とダブることを思い出した。
ジニーはミッキー(Justin Timberlake)と駆け落ちしようとして実の子供だけでなく夫まで捨てようとすのだが、最終的にミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)に捨てられて駆け落ちは未遂で終わり、ジニーは途方に暮れて終わる。いずれにせよ愛欲に溺れた人間の嫉妬は恐ろしいが、思わず覗き見したくなる魅力がある。

伊勢と夏生

また、潤と樹里はシスコン、伊勢きりこはストーカー気質、簸川夏生は山鹿青磁の気を引くために半ば強引に五樹の童貞を奪ったりと、どのヒロインも正気とは思えない行動で五樹との関係を求めてくるので、このゲームではむしろ真っ当なヒロインは存在しない。
芳野、伊勢、夏生、潤といったヒロインたちは五樹と関係してその願いを遂げると、蔵女によって"赤い雪"とされてしまい世界から消えていなくなってしまうのだが、世界から消えてしまっても魂の抜け殻として登場することになる。
つまり、それぞれの人物は世界から消えた後もいつもの4日間が始まるのだが、見た目はそのままでありながら魂は抜け殻であるために五樹へ深く干渉せずに最低限のコミュニケーションしか出来ない存在になってしまう。これはまるでゾンビのようであり、抜け殻になっても見た目はそのままに五樹へ話しかけてくる様はこのゲームの持つ悲哀が増幅されている。

夏生

"赤い雪"となってしまう原因は、蔵女(腐り姫)から赤く尖った爪で突かれることで、性に対する欲望が増幅される。そうして甘い果実のような匂いを発しながら腐っていき、妄想の世界で欲望を満たすことで"紅い雪"となって消えてしまう。作品タイトルに付属する"euthanasia"は、安楽死ということだが、終わりのない性の快楽の中でこの世から消えて無くなることになる。

また、後半になるにつれて、世界がループすることも含めて「実はSF設定になっている」ことが明かされるのだが、これは好みが分かれるところだと思う。
つまり、昭和の空気感が漂う田舎町で起こる伝奇ホラーゲームだと思って雰囲気を楽しんでいると、突然、蔵女と五樹は「地球外生命体でした」というオチが明かされるため、この唐突感に肩透かしを喰らう。この二人が時を巡り円環の理から逃れられない理由をこのような形で説明されるよりは、敢えて伏せておいてもらって伝奇ホラーで最後まで行ってもらった方が個人的には好みだった。

画像6

とはいえ、そんなSF設定を差し引いたとしても、水の上に浮いた童女から「また、逢うたな。」と言われて始まる、期待値の高まる怪しい導入であったり、美少女ゲームとしては珍しい劇画調イラストは昭和の香りを出すのに成功しているが怪しい空気感が主張し過ぎており、はっきり言って美少女不在のゲームと捉えている。近親相姦がテーマになっていることも含め「一歩踏み出してしまった先にある、非日常」がうまく表現されているかなり個性の強い作品だと思う。萌えや俺の嫁がいるようなゲームでは無い(それが却って良いのだが)

蔵女_04

さらに、ギャグ要素も充実しており(さすがライアーソフト)笑点などの民放TV番組のパロディ形式で作品中のキャラへツッコミを入れる「盲点」であったり、作品中のCGを活用した「全裸ファイト」という小咄まで用意されており、いかにもスタッフが楽しんで作品を制作したであろうことが想像させられて、作品の暗い雰囲気を良い具合にぶち壊しているというか緩和してくれている。

盲点


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