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水滸伝・天命の誓い(感想)_愛すべきアウトローたち

『水滸伝・天命の誓い』は1989年に光栄からPC-88SR用に発売された歴史SLGで、後にX68000やMSXなどの各機種へ移植されている。
本作は『シブサワ・コウ アーカイブス』によって配信されているから、2023年時点でもまだプレイが可能。
30年以上前のゲームなのでかなり古臭さは感じるが、原作の世界観を楽しめる国産ゲームが希少なので未だに稀にプレイするゲーム。
以下、私のプレイしてきたたPC-98版の感想などを。

程よい難易度による緊張感

ゲームの目的は腐敗政治を行う奸臣の高俅を倒すこと。
大まかな流れは以下のとおり。
・ねぐらを決めて、仲間の無頼漢を増やしながら領土を拡大し人気を高める
・人気が250に達すると徽宗皇帝から勅命が下る
・開封府にいる高俅を追い詰めて倒す

開封府を制圧したらそれで終わりではなく、他の州へ逃亡しようとする高俅を捕らえる必要があるから、実際は周辺の州も抑えておく必要がある。
開封府には8つの州に接しているからすべてを抑えておくことが必要。

大抵の歴史SLGの目的は全国制覇であるため、終盤に圧倒的な戦力差があると消化試合のように惰性プレイになりがちだが、高俅を倒すだけというのがシンプルだし、厳しいタイムリミット(1127年の金国の侵略)も相俟って、最後まで緊張感をもってプレイできるのが本作の良いところ。

中国を舞台にした似たような歴史SLGだと三国志があるが、水滸伝は原作がほぼフィクションなこともあって、妖術使いが敵部隊をまとめて混乱状態に陥れて状況を一変させたり、弓矢によって直接敵無頼漢の体力を削れたりと、戦術に幅があるのがユニーク。

水滸伝の世界観を体現できる各種コマンド

シナリオは4種類あって開始年が異なる。主人公となる好漢を選択し、ランダムに振られるパラーメータを確定させたらゲームスタートとなる。
序盤のシナリオで選択する好漢は、だいたい拠点となる州がなくて逃亡中の身となるから原作通り役人の奸計に陥って追われる身となった無頼漢の気分を味わえる。

逃亡中に出来ることは少ないが49州のどこへ行ってもよいし、誰を仲間に誘ってもかまわない。ただし優れた無頼漢は好漢の人気が足りないと仲間に出来ないので、最初は能力的に劣る無頼漢を登用することになる。

そういう序盤に仲間になる能力の低い人材は、原作では無頼漢を陥れる悪女だったりする。だから武松を主人公にして、兄の武大を殺した潘金蓮を配下にすることも可能だったりするのはゲームならではの楽しみ方。

そうして空白地のどこかをねぐらに決めたらいよいよ旗揚げしすることになる。
敵は高俅だけではなく、青州には燕順、鄆州には王倫がいたりと他の好漢とも対峙することになるから誰とも接していない州で旗揚げするのがセオリーだ。

しかも高俅軍と接した州いて戦力差があると、賄賂を要求されることがある。賄賂を渡せば攻めてくることは無いのだが、拒絶すると問答無用で攻め込んでくる。
この賄賂を渡して見逃してもらう仕組みが、官軍の腐敗した感じをうまく表現されていて、いつか高俅を倒してやるという気分が醸成されていく。

戦争を仕掛けるには金・食糧が必要で、収入を増やすためには、内政をして共鳴度を上げるのが効率の良い手法なのだが、旗揚げ直後は仲間となった無頼漢たちの忠誠度が低いから金を与える必要があって、手っ取り早く金を「調達」することも出来る

しかし言葉は「調達」と優しいが、身体の大きい男の前で住民が涙を流している様子が挿し込まれるから、実際は州の住民を「脅迫」をしているのだろう、大義のために少々の乱暴はやむを得ないということだろうが、いかにも無頼漢らしい。

そうして、国力がついて来たら領土を増やして人気を獲得増やしていくのだが、中盤以降に戦力が整ったら高俅軍と対峙することになるのだが、高俅の収めている領地・人材はどのシナリオもほぼ固定化されているため展開がマンネリ化するのは残念なところか。

個性豊かな無頼漢たち

そももそも梁山泊に集う無頼漢たちは、いわゆるアウトローの集まりだ。素手で虎を退治する豪傑がいるかと思えば、酒に酔って狼藉を働く者もいるし、夫以外の男と姦通する妻や、酒屋で痺れ薬を盛る者まで個性のバリエーションが豊かだ。

そうして無頼漢たちは大抵が悪徳役人によって家族を殺されたり、社会的な地位を追われたりするから、その仕返しをする。
しかしそのやり方が凌遅刑だったりと報復方法がえげつない。人肉饅頭のくだりもだが、原作では人肉を喰う描写がいくつかあってドン引きする。

梁山泊に集う無頼漢はどうしようも無い連中が多くを占めるが、恩義に報いる気持ちは人一倍強くて、そのために法を犯すし、死をも恐れない勇気があって、なんともいえない魅力がある。
原作はそんなアウトローたちが腐敗した奸臣たちに一泡吹かせて、さらには滅びていくピカレスクロマンとなっている。

『水滸伝・天命の誓い』では、そんな無頼漢たちの個性を表現するために精神値を割り振っているのがユニークで、忠義・仁愛・勇気の3つのパラメータが割り振られている。
さらに行動時に無頼漢がセリフを吐くのだが、体力と忠誠度が高いときは「俺の力を見せてやる」と血気盛んだが、低いと「はいはい、 分かりました」などと捨てゼリフを言うから、キャラが生き生きとして見える。
忠誠度が低ければ、取り合えず酒を飲んで宴会をするというのも世界観に合っていた。

2023年時点、最近のゲームの傾向として歴史SLGであっても顔グラはどれも美男美女ばかりで食傷気味なのだが、本作の顔グラはひたすら渋いのがも良い。
無頼漢たちのシリアスな顔グラには、男臭さが匂い立つような豪傑の雰囲気があって、リアリティを感じさせる。
そうして「萌え」という単語が一般化する以前の作品だからか、女性キャラは凛々しい印象に描かれている。
そういう意味では、次回作となる『天導108星』の顔グラは、女性キャラが幼い印象になってしまったのは残念だった。

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水滸伝をテーマに、原作を忠実になぞろうとしている国産SLGで、未だに購入可能なゲームは2023年時点で本作のみと思われる。
他作品が無いのは残念だが、開発者によるこだわりがそこかしこに見られる傑作だから未だにプレイしたくなるのだ。


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