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草食系の優しい歌声だが、音楽性の変化は常に攻め The Rhythm of the Saints/Paul Simon

アルバムごとにスタイルを変えてくるポール・サイモン。本作はブラジルの打楽器中心の作品になっており、『サイモン&ガーファンクル全曲解説』に経緯が以下のように書かれていた。

ことのまりは、ポールが、ユッスー・ンドゥールのバンドのメンバーで『グレイスランド』の〈シューズにダイアモンド〉に参加したセネガル身のドラマーの音に深く魅せられたことにあったようだ。
ポールはそのことを、クインシー・ジョーンズやミルトン・ナシメントら友人に話し、彼らから「ほんとに偉なドラマーはアフリカにいる、そしてそのドラムはブラジルへ伝播した」と民族音楽誌的な証言を得る。それが『リズム・オヴ・ザ・セインツ』の制作の直接的動機となったというわけである。

というわけで、全曲打楽器がフィーチャーされており、複雑でノリの良いリズムの楽曲が多いのだがあくまでも主役はポール・サイモンなので、優しいボーカルと掛け合わせられた楽曲には激しさは無いがまさしく聖者のリズムといった空気感はある。

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1. The Obvious Child
2. Can't Run But
3. The Coast
4. Proof
5. Further to Fly
6. She Moves On
7. Born at the Right Time
8. The Cool, Cool River
9. Spirit Voices" (Simon, Milton Nascimento)
10.The Rhythm of the Saints
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オリジナル盤の収録曲は全部で10曲。当時『週刊FM(1991年3月休刊)』という雑誌を購入していたのだが、この雑誌には新譜CDを紹介するコーナーがあり、そこでこの『The Rhythm of the Saints』が紹介されていた。レビュー内容に全く憶えは無いが、当時は普通のポップスばかりを聴いていたので、プリミティブな生活をしている人が背中に赤い羽のようなものを背負って疾走している写真からはどんなアルバムなのだろうと気になり、ラジオから『The Obvious Child』の流れてくるのを聴いてCDが欲しくなったのを憶えている。(自分の住む街には充実した洋楽CDを揃えた店は無いためにわざわざ秋葉原まで買いに行っていた)

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ポール・サイモンのソロは何枚かを持っているのだが、初めて購入したアルバムがこれ。
時代の流れに合わせた流行の音楽ではなく、リズム感がありノレる楽曲だが複雑すぎるしクラブでかかるようなファッション性はない。ポップスにしては力強さが足りないしルックスも地味。最初はそんなぼんやりした印象だったのだが、そもそも時代性とは無縁なので古臭くなることは無い。

どの楽曲も複雑なパーカッションが主張しているのだけれども、一定のテンションで歌い上げるポールのボーカルに浮遊感があってアルバムとしての展開に抑揚は少ない。
しかし、丁寧に作り込まれているので飽きることは無いから稀に聞きたくなるようなときがある。


The Obvious Child

大音量で聴くとかなり厚みのあるリズムトラックが迫力があり、なおかつ少しポップな要素を含んだシングルカット曲。当時J-WAVEでかかっていたのを最初に聴いたのだけど、迫力があって複雑なリズムと優しい歌声に少し哀愁の漂うメロディーライン。色褪せることのない特別な魔法のかかっている楽曲。



The Cool, Cool River

深みのあるマイナー調の楽曲で、後半のブラス・セクションからガッツリ盛り上がってくる展開がドラマチックな名曲。トラックとしては重たいのだけれどもひたすら優しく歌い上げるポールの声との対比がクセになる。

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90年代後半、家のCDが膨大で整理出来なくなったというのもあるが「ポール・サイモンなんてダサくて聴いてられない」と本作もディスクユニオンへ売りに行ったのだが、数年後に紙ジャケの再発に合わせて聞き直したくなり、再度購入した経緯がある。
はっきり言って地味な印象のアルバムではあるのだけれど、メロディが良いので飽きることは無い。

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