アリス_黒背景

他者との関係を深めることで、自らの存在意義を求める『luv wave』 (レビュー2)

作品中の疑問点や感想を備忘として考えてみたことを残しておく。
一度プレイしただけで全容の分かりづらい作品であり、かといって真のエンディングを見るたためには7つのエンディングを見る必要があるとのこと。
古いゲームということもあって、仕様上繰り返しプレイの辛い作品なので自分は真のエンディングを見れていない。そのため以下の文章は私の想像で書かれている部分があり、本来の設定とは異なっている可能性が多いにある。またネタバレを含んでいるためこれからプレイするならば読むのをオススメしない。(もっともWindows95時代のゲームを今更プレイするような方は希だろうが)

以下、「XINN」「マシー・スペクター」「ユリ」「アリス」「真由美」への考察を深めることでこのゲームの持つメッセージを自分なりに読み解いてみる。

ネットワーク

XINNについて

全てのネットワーク上のコンピューターが1秒間停止したと言われるXINN現象とは何だったのか。luv waveという作品は最初から最後までXINNという現象についてつきまとうわけだが、最後までプレイしてもXINNとは何だったのかよく分からないままに終わる。結論から言うと作品中に語られる断片的な情報を繋ぎ合わせてみたが結局のところモヤモヤしたものは晴れない。

まず、XINNのネーミングの由来について、京子が人を超越した存在を神の領域と言っていたことからも、”神”を音読みしたものだと思われる。また、オープニングムービーであらゆるモニターに「XINN」と表示された繁華街をアリスが走り抜けるシーンがあるが、プロモーション目的動画という意味合いが強く、はっきり言って謎を解くために参考になる情報は何も無いと思われる。

そうして、誰が引き起こしたのかについて「EYES OF COMPUTER」においても少し語られているが、シナリオ担当者によるサイトには下記の通り記載されている。

この馬鹿げた XINN 騒動を引き起こしたのは、実は真人 京子(まひと きょうこ)という人物である。
彼女は真由美の母であり、脳内をプログラミングすることを可能にした科学者ウェズマの妻であり、この父娘おやこを利用して地球規模のネットワークに脳と同じ機能を持たせ、地球規模の精神体を作り上げることに成功した。
彼女の目的は、宇宙中に散っているとある人物の精神である。
その精神は真人京子の主であり、またそれを集めることが彼女の役目であった。
そして真エンディングでは真人京子はその精神の一部の回収に成功する。


XINNに対する正確な情報が少ない上に、上記の文章がサイト上に残されているのだが結局のところ「真人京子が主の精神を収集する目的」と「XINNという現象をどのように起こしたのか」がよく分からない。
最終盤に、裸のアリスの四肢を無数のネットワークに繋いだ状態に対してウェズマは「そう、これがXINN」と言っているが、1秒間コンピューターが停止する状態がXINNだと思っていたので、混乱するばかりである。

また、ゲーム序盤で下記の通り被害の概要について記載はあるがこの中のどの事象がトリガーになって精神の収集が出来るというのか、

航空機墜落、人工衛星の軌道ズレおよび墜落、原発事故、交通保守システムの停止、オンライン不通、データ消失、アメリカ合衆国に至っては核ミサイルの一斉発射騒ぎまでが発生」

さらに、XINN現象の最中に影響を受けなかったアリスは以下のように言及している。

静かだ・・・って思いました。
XINN発生直後に一度に回線が開放され、情報が雪崩込んできました。バッファにたまっていたデータが一気に転送を開始。コンピュータの歓喜の声(一斉にネットワークが結ばれて行くその瞬間の音。勝鬨のような壮観な声)と、人々の哀惜の声(悲鳴、哀願、失望、祈り、怒り、後悔)が聞こえてきた。

また、発生時期についての言及も無い。アリスが御子神の備品として配属されてから間もない時期に発生していることが関係ありそうだが、なぜそのタイミングでXINN現象が起きたのか。それすら分からない。
あとは、発信源が空港地下のウェズマのいる研究室であったとアリスが話すシーンがあるのみだ。
核心を突くようなセリフのひとつとして、最終盤に御子神が数学教師で生徒のアリスと恋仲であるシーンがあるが、そのあり得ないパラレルワールド的な世界についてウェズマはXINNの中で起きていることだと言う。
これらの断片的な情報を繋ぎ合わせ行くと、XINNの中では"別の世界線のような現実世界"が起きていてXINN現象の直後には、機械の歓喜と人々の哀惜の感情が渦巻いていたということになるが、結局のところ「精神を収集する目的」「どのようにして引き起こしたか」は不明なままだ。
世界的な混乱そのものが目的ではなく、混乱に乗じて生じた人や機械から湧き上がる何らかの感情が一斉に喚起されことによって、真人京子の主人の精神が集まり、その器がアリスなのかもしれない。ということも想像出来るが確かなことは分からない。

マシースペクター

マシー・スペクターの目的について

ゲーム序盤では、殺しても死なない奴として何度も登場して御子神を悩ませる重要な存在のマシー・スペクター。
冒頭アリスに殺される前の時点で既に死んでいたはずのマシー。この死んだはずのマシーが御子神をしつこくつけ狙ってくる理由が不明で、プレイ中にいつか明かされるだろうと思いきや最後まで語られることも無く、ゲーム中盤で退場となる。
マシーの死後、大伴の説明によるとCIAのアセットでクラッキングを専門にするエージェントであったということが明らかにされるが、CIAという組織に属していたから御子神を狙うというのは、因果関係が薄い。

とりあえず、マシーの登場する5回のシーンについて時系列で整理してみる。
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・1回目:CIA→石川経由の命令によってマシー(金髪の青年)を殺す。マシーは死ぬことを恐れており、御子神が暗殺のために訪れていたことを事前に察知していたそぶりを見せる。
事前に察知していた件については、MJPの感覚能力によって予知していいたのかもしれない。しかしだとすると後に登場するオリジナルが暗殺される未来をなぜ気付けないのか、ということだが。

・2回目:アリスの脳へハッキングを仕掛けてきて、自分がマシーだと画面上の文字でアピール。アリスの身体の乗っ取りまでは行っていない。

・3回目:ブルックスという人間に乗り移って、御子神とアリスを巻き込むことを目的としてビルごと自爆。自爆していることからもこのマシーはどうやら死ぬことを恐れていない。

・4回目:修復中であるアリスの身体そのものを乗っ取って身動きの取れないマシー。死を恐れておらず、むしろアリスごと殺せと挑発してくる。アリスへの電源供給を落とすことで終了。

・5回:意図的ではなかったにせよ御子神とデート中の聖香の身体へ乗り移ったマシー。自分はマシー・スペクターのオリジナルだと言いつつも、死を恐れている印象は無い。CIAによって消される。

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以上のように、マシーという人物は登場するごとに死を恐れていたりいなかったりと態度に一貫性が無い人間であり、御子神をつけ狙う目的も捉えづらいというのが本当のところ。

聖香に乗り移ったマシーが御子神に対して「ボクはキミと、少し話がしたかっただけなんだけどね・・・。まあいいやあの女の子の身体でも借りるとするよ」というセリフがあるので、マシー・スペクターとういう人物はネットワーク上を彷徨うことで、”死にづづらい存在となり果ててしまい”生きる意義を見失ったのではということは想像出来る。

つまり、この世界でマシーの存在を認識しているのは、その存在の抹殺を目的としているCIA以外に居なくなってしまった。
また、マシーは恐らく最初のMJPである真由美の記憶を多少なりとも共有していた可能性がある。その場合、出会う前から御子神のことを知っていることになり、殺しが目的とはいえ自分の存在を認識している御子神という人間に興味を持ち、もはや御子神とコミュニケーションすることそのものが目的となってしまったのかもしれない。

ちなみに、イントロ動画で「Do You Remember me?」と問いかけてくるシーンがあるが、ゲーム後半までは殺しても何度も復活してくるマシーによるセリフかとミスリードさせておいて、最終盤に真由美のものだったと気付くような仕掛けになっているのは狙ってのことなのか。それともたまたまだったのか。

luv wave_ユリ

ユリの持つ葛藤について

ユリは御子神に対してメールでメッセージを送付した上で死ぬので、生きる意味や御子神へ求めるものがハッキリしているのでシンプルだ。
20歳を目の前にしてダインの放った刺客によって殺されたユリ。ユリが死を予兆して書いたメッセージに、エージェントとして御子神に近づいたのは、存在意義が欲しかったからと独白している。家族が不在で孤独に生きてきたユリ。中国のエージェントとしてスカウトされて、誰かから必要とされることで生きる意味を見出していた。そのミッションがたまたま帝諜から情報を引き出すことでその対象が御子神だった。
しかし御子神を愛する気持ちが大きくなるにつれて「御子神を愛する自分」と「エージェントして御子神を欺く自分」の間で葛藤することになってしまう。最後のメッセージに至っては「私は誰なの」で終わり、自分の存在する理由を求め、その答えを出せないままに死んでしまう。

アリス_ゲーセン

アリスとは何だったのか。

米陸軍から帝諜へ御子神の暗殺パートナーとしてやってきたアリス。当初はロボットという設定だったが、実を言うと四肢以外の部分は生身でしたということが最終盤に判明する。
また、御子神と行動を共にして精神が成長していく過程で人間になりたいと言い、さらには御子神に対して恋愛感情を持つようにまで成長するのだが脳が生身なので当然とも言える。最終的には真由美との記憶を共有することになるのだがこれはアリスにインストールされたMJPが真由美の記憶を共有していたと考えることにする。
大量のネットワーク回線に繋がれたアリスとの対面シーンでは御子神ですら真由美なのかアリスなのかを判別出来ないようになるのだが、このあたりは真の設定も含めて謎が多いので敢えて深くは追求しないことにして、本編(EYES OF HUMAN)で重要な主題となっているロボットであるところのアリスが御子神に恋い焦がれる、人を愛するという感情についてついて触れたい。

自宅にアリス01

人間になりたいというアリスはその理由を、「御子神といつまでも一緒にいられるから」という。さらに、この現実がすべてが擬似空間であるならば、御子神と一緒にいられるのではとも言う。その方がより人間に近づけた気がするからだとも。つまり、アリスは人間であれ、疑似空間であれ一貫して御子神と同質の存在になりたいと願っている。

アリスはそもそもが兵器であるため、命令されたら引き金を引くしかない。全ての行動には理由があり、その理由も人間の価値観によってプログラムされたものだが、それは極めて曖昧で責任逃れな話しだとも。
機械に対して責任も何もないものだが、アリスは判断基準として裁判録などの過去のデータから妥当な答えを回答することはできるとも言っている。
だがこれは人間にしたって同じことなのだ。現代の人間にしたって社会性を持って生きていくためには規範に沿って生きていく必要があるわけだが、過去のデータの蓄積から、人間が集団で生きていくために妥当な答えが導き出されて、法律として定めているに過ぎないのだから。

アリス_キス

人が他人を愛おしいと思う感情がどうして湧いてくるのか? その感情の根源的な理由を全人類が共通認識として持ててはいない。(妊娠という身体の危険を伴う行為を麻痺させるためというのは聞いたことはあるが、それだって同性愛者などは納得しないだろう)つまり「他人を愛しいと思う感情」は正解をひとつに絞ることの出来ないテーマだという前提で以下を語る。

アリスは恋愛感情も「プログラムによって導き出された、一つの数値に過ぎない」と言う。つまり人間の持つ根源的で純粋な恋愛感情、または御子神の子孫を残したいというDNAレベルの衝動によって御子神を愛おしく思っているわけではなく、アリスをつくった人間によって予めプログラミングされていたのだ。御子神を愛しく思うのはプログラムによって自動的に行われており、アリスの脳に影響を与えたMJPをプログラミングしたのがウェズマという愛情の欠片もない人物であったとしてもだ。

アリスの持つ恋愛感情が予めプログラムされたものであっても、アリスの恋愛感情と生身の人間の恋愛感情は比較しようが無いというのが実際のところだと思う。
京子もアリスに対して「疑似も実物も関係ない」と言っている、所詮は脳の中で電気信号が恋愛感情を抱いているだけだからむしろ同一なのだということだろう。
寂しい時には側にいてくれて、記憶を共有出来る存在がそこに居てくれるのであればロボットであっても、愛おしいと思えるのであればそれで良いのだ。

アリスは兵器やコンピュータ端末としての自分は必要とされているが、普通の女の子だったらどうなのか?と葛藤している。そんなアリスを「アリスを愛することを誓う御子神」という展開もあるのだが、こうしてアリスの思考や存在を突き詰めていくと、つくづく機械と人間の境界線が曖昧になってくるため、子孫を残すという命題を除けば機械と人の恋愛を否定することが難しくなるというのが、本作品の結論となってくる。

画像7

真由美の存在意義について

真由美の母、京子は植物人間で、父のウェズマは真由美のことを実験体としか認識していない。そんな家族としての絆や愛情を受けられずに育った真由美は誰かに愛情を注いで貰いたかった。そのため、真由美は人として存在を認めてもらうことが目的で生きていたということが真由美自身によって語られている。

「EYES OF HUMAN」のエンディングで四肢をネットワーク回線と繋がれて御子神と再会するシーン。「データの断片が残り続ける限り御子神を愛し続ける」と言う真由美だが、恐らくは真由美にとってのゴール(つまり生きる目的)はあのシーンである。
あのシーンをMJPの能力によって、小学生時代に予知していたためにウェズマによる辛い実験にも耐えて生き続けていたのだ。しかし、真由美としての人格は脳死を回復させるMJPによってつくられたものでもあるので、真由美オリジナルによる意志がどれほど残っているものなのかは曖昧だ。

とはいえ御子神に首を締められて殺された後、ネットワーク上を彷徨い続けた真由美が、やっと御子神に会うことが出来たあのシーンが感動的であることに変わりは無い。
御子神に触れることすら出来ず、ただ網膜に御子神の存在を捉えた。それでもその瞬間に幸せを見出す真由美のおかげでこのシーンはひたすら美しい。
この世界にあるすべての物質、エネルギー、空間をシミュレートできれば、未来という時間を求めることができますと京子は語っていたが、真由美はどれほど精緻に自分の未来を予知していたのか。

XINNについて確かなことは分からないと先程記載したが、ネットワーク上の真由美が御子神を探すために起こした現象だったのならば腑に落ちると思った。つまり全世界のネットワークを駆使して御子神をサーチしていたのだと。その負荷がXINN現象となった。
その後、アリスを介して御子神を見つけた真由美はアリスへ徐々に自分の記憶を共有させていったのだと。もちろんこれは私の想像だが。

部屋

まとめ

以上のように、マシー、ユリ、アリス、真由美の4人が御子神を通してその存在意義を見出してきたということになるのが、自分がただ生きているだけでなく、「そこに存在していることを他人に承認されたい」これは人間にとって根源的な欲求であり抗いがたい気持ちだと思う。
それは死後、データとして自分の断片が残っていたとしても果たしてそうなのか。というのがテーマになっていると思うのだが、壮大過ぎて収集がつなかくなっている感はある。しかし根源的でプリミティブな欲求をテーマにして、サイバーパンクの世界観と相俟ってよくまとめ上げられたシナリオになっているというのが素直な感想である。(承認対象が御子神に絞られているというのがいかにも美少女ゲーム的ではあるが)

また、いつかプレイし直したら違う発見や思いを抱くかもしれない。それくらい考える余地を残した作品だと思った。



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