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大正ロマンを感じさせる洋館で起こる連続殺人事件「琥珀色の遺言」感想

「リバーヒルソフト」より発売された推理もの探偵アドベンチャーゲーム。1920頃の大正時代、第一次世界大戦がきっかけで貿易によって好景気に湧いていた日本の時代背景があり、大正ロマンを感じさせる琥珀館という豪華な洋館で起きる連続殺人事件を探偵の藤堂龍之介が解決していくというストーリーになっている。

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この作品は1988年にPC-9801シリーズなどのPC向けに発売されたゲームとなっている。
発売当時、5インチの2枚組Floppy Diskでプレイした記憶はあったがストーリーの記憶はほぼ無く、色数の制約のせいだろうが登場人物の顔がやたらと白いのと人の数がやたらと多いのだけは記憶していた。

一代で影谷貿易を大きくして琥珀館を建てた影谷 恍太郎。この恍太郎が死んだことによって、遺産を目当てに大人たち群がって来てさらなる殺人が起こる。藤堂は琥珀館へ住み込んで事件を解決することになるので、ゲーム中一歩も琥珀館から出ることは無い。しかし、成金のつくった豪邸だけあって2階建てのこの洋館には家族だけではなく使用人の部屋や物置や広間などもあるために家の中を回るだけで一苦労である。
しかも、恍太郎の前妻の連れ子や、孫や来客者まで登場するために登場人物の名前と人間関係を把握して記憶しておくのにも集中力がいる。(以下はネタバレアリ)

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プレイヤーの分身である藤堂龍之介は証拠品を押収する(駐車場のハンカチや、物置の葉書など)ことになるのだが、その際にその物品を証拠品と判断した意図をゲーム内で説明しない無いままに進行したり、明らかに怪しい容疑者を尋問するにも条件が全て揃っていないと問い詰めることすらできないため、ゲームとしての推理要素は残念ながら薄いと思う。つまりこのゲームはコマンド総当りで進めていく昔ながらのアドベンチャーゲームとなっている。

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音楽やグラフィックなどゲームの雰囲気は大正ロマンを感じさせる素晴らしいつくりになっており、セピア調に彩られた琥珀館の中を探索するのはそれなりに楽しい。アールデコを意識したインターフェイスもデザイン性が高くこのゲームの雰囲気を良く表現している。特にオープニングで琥珀館の入り口にタイトルが徐々に被さってくる演出は当時のPCのスペックを考えると感動ものだ。再発売しているアプリ版のUIを見るとむしろデザインが劣化していることからも、いかに当時の『リバーヒルソフト』がデザインに対して拘っていたのかがよく分かる。また、アプリ版はキャラクターデザインも今時の美男美女になっているのも残念だ。萌え要素とは無縁な適度に不細工なキャラ顔のおかげでとても硬派な雰囲気のゲームでもあったのに。

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物語は遺産相続が大きなテーマとなっているため、財産に翻弄される人間の愚かさや醜さが徐々に顕になるの展開となっており、段々と物悲しくなっていくのだが、終始真面目なつくりになっている。
影谷家を大きくするために働きづめだった恍太郎は、過労による胃の痛みを和らげるためにモルヒネに手を出してしまう。痛みを和らげて富を得ることは出来たが徐々にモルヒネの中毒症状により幻覚症状が出始める。さらには家族へ対して疑心暗鬼になり自我を保てなくなってきたことに気付いた恍太郎は、ついには妻のルイへ自分の殺害を頼むことになってしまう。

影谷家は富の象徴として琥珀館という豪邸を建て、お抱えのシェフや使用人も雇って大家族で暮らせるように成り上がることは出来た。
しかし、富を得ていく過程で家族の絆は希薄になり、家族それぞれが自己中心的に考えるようになり、富を増やすために娘を嫁に出したりしていった結果、いつしか琥珀館には財産目当ての人間が集まるようになってしまった。そんな家族の絆が希薄な状況であったから、寂しさを紛らわすためにモルヒネに心の安らぎを求めてしまった恍太郎にもはや先は無い。しかも冷静な判断の出来なくなった恍太郎は事業も失敗しはじめており、影谷家の財産は琥珀館を手放すことが話題に出るほどに逼迫していたということが発覚する。
最後にルイも告白の際に言っているが、モルヒネによって富を築くことは出来たが同時に破滅への道も始まってしまっていたということなのだろう。

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表面上は莫大な富によって保たれていた琥珀館に集う人々の関係性が恍太郎の死をきっかけに崩れはじめ、財産目当てに琥珀館に集う人々のエゴが表面化することでさらに歯止めの効かなくなる。そうして徐々に人々の心の闇の暴かれていく展開は話が進むにつれて重苦しくなっていく。しかし人間のエゴがかえって人間らしくて、同情を誘うようなところがあったりもして最後までプレイを楽しむことが出来た。特に運転手の倉橋のセリフが貧乏人の悲哀をストレートに表現させていて、現代の現実世界にも通じる感覚であるため共感出来るセリフとなっている。

確かに俺は、金のためなら平気で人を騙すし、どんな嘘でも口にするさ。
どうせ俺たちみたいな貧乏人は、いつまで経っても人にこき使われるだけの人生だからな。戦争にでもいかされりゃ、先頭に立たされて、いつも一番に死ぬのは俺達貧乏人だ。
でも言っておくがな、俺は自分の手を汚してまで人を殺したりするようなことはしないぜ。

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また主要人物にはその人物を象徴するタロットカードが割り振られており、独特な不気味さも相俟ってとても雰囲気のある悲劇に仕上がっている。

最後に、本作は当分繰り返しプレイすることは無いだろうが、もう少しこの大正ロマンの余韻に浸りたいので、いずれ藤堂龍之介シリーズの2作目となる『黄金の羅針盤』もプレイしなければならないと思った。


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