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美しく叙情的なポップソングを紡ぎ出す、Deacon Blue(感想)2001-2021年

2021年の2/5に通算10枚目のスタジオアルバム『Riding On The Tide Of Love』がリリースされたDeacon Blueのアルバム感想について書く。
解散前の『Raintown(1987年)から『Whatever You Say, Say Nothing(1993年)についての感想はこちら

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Homesick(2001年)

復帰作となる5枚目のタイトルがHomesick。地球から遥か遠くのイラストから、グラスゴーから随分遠くへやってきたような印象を受けるが、別にコズミックサウンドに傾倒したというわけではなく、淡々とした曲が多い。
素朴な1曲目の「Rae」からいい具合に肩の力が抜けており、少しカントリーやブルースに寄せているせいか全体を通して派手さはないが楽曲のクオリティは高い。
内容的にそんなに悪いと思わないのだが、しかし全英アルバムチャート59位と振るわない。プロモーションが悪かったのか。

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本作の前に、新曲/未発表曲/過去曲のコンピレーション『Walking Back Home(1999年)』を発売しており、雨に濡れた橋の写真やアルバム・タイトルから、1stの『Raintown』にイメージが近いのでこちらは原点回帰を狙っうことで、昔からのファンの期待値を最大公約数にして具現化したかのような楽曲になっているが、この頃のDeacon Blueは新規ファンの開拓に失敗しているのかもしれない。


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The Hipsters(2012年)

6枚目のアルバムは前作から11年振りの発表となる。
結成当初からのギタリスト、Graeme Kellingが肝臓がんで亡くなっている(2004年)が、Simple Mindsのツアーサポートなどライブ活動は演っていたらしい。
プロデューサーはPaul Savage(MogwaiFranz Ferdinandを手掛ける)となり、全英アルバムチャートの21位は、前作からのブランクから考えるとかなり好意的に受け入れられていると思う。

「Here I Am In London Town」では、美しいストリングスとピアノが優しく響き、”ロンドンで再び世界のはじまるのを待っています”とRickyが歌いあげるのだが、久しぶりのアルバム制作ということもあり、「お帰りなさい」という気持ちにさせられる。
アルバム全体を通してソングライティングとバンドの演奏はかなり成熟しており、再結成後の作品としてはかなり充実した内容だ。郷愁を感じさせる曲調が多く、品質は確実に過去作よりも高くなっており、前作からよくもこまで飛躍したと思わせる力強く前向きなアルバムになった。
メインアクトではないが、このアルバム発表後の2013年にはスコットランドの音楽フェス「T IN THE PARK」に出演したりと精力的に活動している。


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A New House(2014年)

7枚目のアルバムは全英アルバムチャート17位。プロデューサーは前作同様にPaul Savageとなり、よっぽどバンドとの相性が良いのか前作同様にかなりこなれたポップアルバムとなっている。

『Raintown』の頃の鬱屈した印象はなく、これまでのDeacon Blueには無いような賑やかで疾走感のある楽曲が多い。1曲目「Bethlehem Begins」イントロのドラムロールに驚かされたり、The Policeの「Spirits In The Material World」を流用した「March」に、ニヤリとさせられる。
こういう遊び心が好きなんだけど、前作での返り咲きがバンドとしての方向性の自信になったのではと思う。

アルバムの発売日は2014年の9月8日となるが、スコットランドは9月18日にイギリスから独立の是非を問う住民投票を行い(反対票が55%で否決)、世論は揺れていたであろうが、本作に政治的な色合いは無い。
(「A New House」、「Our New Lan」はそれっぽい歌詞だが直接的なメッセージは無い)

音楽の力で世界を救ったり変えたりという壮大なテーマではなく、いつも通り等身大で、純粋に音楽としての美しさを追い求める姿勢はさすが。
労働者階級の人々の思いや感情、そういうものに影響を与える自然の風景やコミュニケーションについて叙情的に歌い上げている。
国を形作るのは結局のところ国民であって、そういう人々の感情に間接的に訴えているのではと思われる。


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Believers(2016年)

8枚目のスタジオ・アルバムでは外部のプロデューサーは起用せずに、セルフプロデュース。
全英アルバムチャート13位、Scottish Albums Chartsでは4位。
6枚目の21位以降、右肩上がりにチャートアクションが好調なのでは新規ファンの取り込みに成功しているからと思われる。

本作では『A New House』ほどの疾走感や高揚感は無い。しかし数多くのライブをこなしてきたバンドならではのこなれた楽曲は洗練されていて落ち着いた雰囲気になっている。
肩の力が抜けた楽曲は聴いていて心地よく、Deacon Blueの曲にしては珍しいと思うのだけど「B Boy」では歌詞の無いインストナンバーが収録されていたり、大人しい曲調の「I Will And I Won't」がひたすら美しい。


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City of Love(2020年)

9枚目のアルバムは、『The Hipsters(2012年)』以降のアルバムと比較しても、目新しさはほとんどないが静と動のメリハリのある完成されたポップソングという印象。

本作では、外部プロデューサーは起用せずに、セルフプロデュース。
全英アルバムチャート4位。Scottish Album Chartsでは1位。再結成後のチャートアクションでは最も良い結果を残しており、私も再結成後ではこのアルバムが最も好きだ。郷愁、力強さ、悲しみ、楽しさそういう表現力の凝縮のされ方がバンドとしてよい方向に熟成されているからかも。

力強いRickyの歌い方と、ゴスペルのコーラスのように歌うLorraineの歌声が美しい表題曲「City of Love」を、繰り返し聴きたくなるほどクセになる。歌詞にある”All that remains is the city of love”とは、グラスゴー愛のことだと思うのだけど、アルバム全体を通したコンセプトになっている。
こみ上げてくるように盛り上げる展開の「Hit Me Where It Hurts」のMVにはRickyとLorrainが登場するのだが歳をとった。


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Riding on the Tide of Love(2021年)

全て新曲の10枚目のスタジオ・アルバムとなるが、アートワークが前作と似ており、わずか8曲トータルで30分程度と短いため、ミニアルバムという体裁かもしれない。

楽曲も『City of Love』のセッションで制作された曲が含まれているせいか、前作の延長線にあるといって良い。
ミドルテンポの曲が多く、抑制され落ち着いた楽曲の多いアルバムなのではっきり言って地味な作品だが、1曲目「Riding on the Tide of Love」のクオリティは高い。暗く閉鎖的な世界の状況に対して反抗的。それでいて多幸感のある歌詞を捻りすぎずにまとめあげた佳曲だと思う。

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デビューから今月発売された新作まで、10枚のスタジオ・アルバムを改めて振り返ってみたけど、叙情的な歌詞とRickyとLorrainの掛け合いはとても魅力的だ。また、セールスの振るわない時期であっても最低限ソング・ライティングの質を担保するのはさすが。

私は3枚目の『Fellow Hoodlums』を何年も飽きずに繰り返し何度も聴くほど好きで、再結成後の作品にはあんまり期待していなかったのだけど、こんなに良いと思わなかった。
また、余談だが、2020年1月のBBCライブで「Dancing in the Dark」をカバーしているのが良かったので貼っておく。


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