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人間とは、記憶による生き物である

「世間には、『自分の生まれた日の新聞』というのが好きな人もいるらしいが、私にはそういう趣味がない。『自分とは関係のないことばかりの中に生まれたって、ちっともおもしろくないじゃないか』と思う。その後になれば、『懐かしい』という感情を作り出す基盤も徐々に形成されてはくるのだが、自分が生まれたばかりの頃には、『懐かしさ』の湧きようがない。人間とは、身にしみない中で生まれ、『懐かしい』ということがとても大きな比重を占める、記憶による生き物なのだなと、改めて思った。『人間というものは、取り返しのつかない中で自分をスタートさせるものである』と言う気もないが、人間の歴史は、生まれた時から始まるものではない。『気がつくともう始まっていた....』という形で存在するのが、人間にとっての歴史なのである。」

橋本治『二十世紀』下


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