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橋本治「『水』と『空気』の倒錯」─伊藤若冲「動植綵絵」評

伊藤若冲「動植綵絵」特集に橋本治が書いた文章のタイトルは、“「水」と「空気」の倒錯”。

初出は「美術手帖」1994年9月号、後に橋本治『秋夜小論集』に収録されています。


「〈動植綵絵〉の水棲生物を描いた作品には、『水の質感』がない。がしかし、この〈動植綵絵〉の水棲生物を描かない他の絵には、すべてそれがある。鳥も花も獣も、水の中に住まないものたちは、すべて、水のような艶と透明感をもつ『質量を感じさせる空間』の中で、まるで水棲生物のように動き回っている。伊藤若冲の不思議は、空気を水のようにとらえてしまったことだろう。」

橋本治「『水』と『空気』の倒錯」

「空気は『水』になって豊かにたゆたい、その一方で水は、空気のように質感を奪われている。明治になって西洋画が導入されるまで、日本の絵画は正確な『透明表現』を知らなかった。だからこそ〈動植綵絵〉には『水』が存在しないのだろうけれども、しかしだからといって、日本画の『空気』が『ただなにもないもの』でしかないという理由はない。日本画にとって、透明でなにもない『画面の空白』こそが曲者だったということは、伊藤若冲が見事に証明していると思う。」

橋本治「『水』と『空気』の倒錯」

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