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最も効率の良い、非効率を克服する訓練

「YOM∶今は、知りたいものを調べる手段は、本だけではないと思いますが。

橋本治∶そうですね。でも、『知りたいものを調べる手段は、本だけではない』というその一言は、言葉なんですね。そういう活字の一言がありさえすれば、『知りたいものを調べる手段は、本だけではないはずなんだがなー…(ウジウジ)』という、へんな保留段階を、かんたんに突破できるんですよ。
活字の持つ効率ということを、少し考えた方がいいと思う。いくら映画を見ようと、音楽を聞こうと、その“見た”という事実、“聞いた”という経験を、自分のなかに確実にフィード・バックさせる手段は、言葉しかないんだから。

YOM∶『活字が文化の中心』と書かれているのは、そういうことですか。

橋本∶そういうことです。『本をよめ』は誰でも言うことですけど、ふつう、それをやる人は、『“だから”この本をよめ』をやるんです。でもぼくは、あの『浮上せよと活字は言う』の中で、それをやらなかった。そんなことやったってしょうがないんです。自分に必要な本は、自分にしかわからない。そのことをはっきり自分に刻みこむことが、これからの時代の“教養”なんですよ。

YOM∶たしかに、自分にとって必要な時に必要なものをよめばいいと思いますね。

橋本∶でも、『必要な時』『必要なもの』というのは、本人にはなかなかわからない─そうした面での非効率を克服する訓練が『本をよむ』でもあると思いますけど。だから私は、『こういうことをわざわざ言わなくちゃならないくらいに、“文字をよむ”ということの必要性が理解されにくくなっちゃったんだな』と思うんですけどね。」

「言葉には“それ”ができる」
橋本治『春宵』


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