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言葉は肉体、肉体は言葉

「書き手が、『人を説得してやろう』と思った時、言葉は、とんでもなく強い動きを示します。色も形も動きも質量も備えて、人に対して暴力的に襲いかかりもします。それはつまり、言葉というものが、肉体を超えることによって獲得されてしまったもう一つの肉体だからだろうと、私は思うのです。
言葉は、明らかに肉体です。そしてそれは、肉体が明らかに言葉だからなのだろうと思います。
肉体は、それ自体が、あまりにも多くの意味を含んだ、書かれる前の言葉、口に出される以前の言葉です。頑なな限界でもあるような人の肉体は、しかし常にたゆたいを見せて、語られる以前の言葉のような自由さを見せます。所詮は、質量を持ち、形もはっきりと定められている肉体でしかないものが、千変万化の表情を見せる言葉にもなります。」

橋本治『秋夜小論集』


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