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『エレファンドッグシンドローム』セルフライナーノーツ

 アーティストがCDを出した時のセルフライナーノーツがすき。すてきなアーティストの書く言葉は往々にしてすてき。うらっかわを教えてもらったとて素晴らしさはなにも変わらないのに深みが増すのがいいよね。
 久しぶりに、内田秋のセルフライナーノーツが読みたくなった。確か青天井のリリース時だったか。見当たらなくて諦めた。データで送ってくんないかな。秋のブログは愛読書のひとつ。すてきな切ない文章を書く。秋が日々の生活を綴ること自体がライナーノーツでもある。どんな時も歌と詞を書く人だから。【low days】


2022/4/7〜4/10 
佐藤佐吉演劇祭2022 関連企画 見本市

SHIMAISHIBAI vol.1
「エレファンドッグシンドローム」
創作記録


 ゲネで撮っていただいた記録映像のつかえるとこを編集して公にできればなと目論んでたんだけど、届いた映像を見たらカメラの前にずっと誰か座ってるとゆうオモシロ映像だったのでちょっと出せそうになくて。いや、こうゆうお笑いすきなんでいいんですけどね。自分らで撮ってなかったので仕方ない。

 なのでネタバレやうらっかわの話を含めて文字にすることにしました。公演を観た人に創作過程をふまえて更に楽しんでもらうため、公演を観られなかった人にせめて創作過程を楽しんでもらうため、私が記録として残すための「エレファンドッグシンドローム」セルフライナーノーツです。

 作品の説明が要らない人や、自分が感じたことを守りたい人は読まないでね。読んだ記憶は消せませんので。観てくれた人の感じたことに極力干渉しないよう、上手に書けたらいいな。


 『エレファンドッグシンドローム』は「エレファントシンドローム」という心理現象と、犬と人間のちぐはぐな会話がもとになってできています。登場人物は、檻の中で待ち続けている「46番(重松文)」と、収容施設の職員「春野(藤井千咲子)」。外部からの交流がない閉鎖空間を舞台に「待つ事・留まる事・抜け出す事」をテーマに書いた、30分間の短編演劇です。

 エレファントシンドローム、詳しくはググってください。簡単にいうと自分で自分の天井を決めてしまう思い込みのことです。制限されているんじゃなくて、ほんとは自分でしてるんじゃないのか。そのことに気付くのは恐怖なのか希望なのか。気付いた時、どうするのか。そうゆうことを書きました。

 「かみ合ってるようでかみ合ってない会話劇」が書きたくて犬と人間を題材にしました。私は一緒に暮らしているオリーブとジンジャー(飼い猫)の言葉をなんとなくしか理解できないのに、あの子達ったらかわいいだけじゃなくてかしこくて、私の言葉を理解してるようで。そうゆう一方的な「ちゃんと会話せえや」みたいな会話劇。おもしろいかなと思って。犬と人間の会話劇にしてみました。これがエレファンドッグシンドロームの着想。


 意地悪したくなかったからミスリードはしませんでした。最後の最後で「犬でした」と答えを出すけど、犬に見えないようにはしなかった。でも犬にしか見えないのはちがうので、「十中八九犬なんだろうけど確証が持てない」を狙いました。なにに見えましたか。
 犬じゃなくても全然いいです。ほんとに、ほんとに。犬を答えにしたけど、犬じゃないから。ほんとは人だったんじゃないかと言った人もいたし、生き物じゃないんじゃないかと言った人もいた。うれしかったな。

 冒頭、うるさくて居心地が悪くて帰りたくなるようにしました。帰りたいときどこかが思い浮かぶの、帰る場所がある人の特権ですから。檻の中から叫ぶ46番の言葉はぎりぎり聞きとれるくらいにしたかった。隣の春野さんは笑ってました。一生懸命訴えてるのに伝わらないってむかつくよね。

 私たちは何も持ってないし、誰も聞いてないし、誰も見てない。だから大きい声でやりました。せめて見て見ぬふりできないようにしようと思って。ウトウトしてた人がびっくりして飛び起きたらいい。触ってたスマホ落っことして割れたらいい。胸倉つかんで揺さぶってやりたい。と思ったんだけど、なんでそんな事思ったんでしょう。人生には説明のできない気持ちになる瞬間が多々ありますね。

 耳障りなサイレンの音にかき消されながら叫ぶ大きな白いなにかと、その横でカホンを「打」ではなく「殴」しながら笑ってる人の図からはじまるお芝居でした。なにこれ。引かれていいわと思って作ったのに、いちばん反応がよかったのがこのシーンでした。みんな変態なんですね。いい意味で。

 最初の叫びと最後の叫びはセットになっていました。あれはなんですかといわれますと、怒りだったり悲しみだったり絶望だったりするのですが、心は一言じゃ説明できませんし、どう聞こえるかも人によってちがうと思うし、現に刺さったって人もいればうるさかったって人もいた。それでいいと心底思います。私には最初と最後どちらも必要でしたし、どちらもすきです。

 46番は収監されてるわんわんであり「待つこと」そのものでした。待っているとゆう大義名分や自分への言い訳が、その場に留まらせる。留まる理由になる。じゃ、もうここに居なくていいといわれたら、大喜びでどこかへいくのでしょうか。
 きっとそんなことなくて、誰も待ってないどこかへ向かう足取りは軽くなくて、おそるおそるで不安で、なんなら、どこかにいける事なんてほんとは知らない方がよかった。かわいそうでいられるもんね。

 「エレファンドッグシンドローム」は犬と人間のドラマを借りたどこにもいけない意気地なしの物語でした。私のおはなしであり、臆病なあなたのおはなしでした。でももういかないとね。誰も待ってなくても。約束がなくても。外がキレイかはわからない。でもここにいたら永遠にわからない。

 最後、春野さんが何をしたのか。46番がどうなったのか。その答えはいちおうあるのですが、最後に46番が見つけたものがこの物語のだいじなところでした。あ、野暮かしら。野暮かしらね。ごめんなさいね。


 美術はとにかくシンプルにしたかった。白い大きな檻。以上。かっこいい。照明の黒太さんがとてもこだわって明かりを作ってくださってうれしかった。檻の影がきれいでしたでしょ。「きれ~い!それがいい~!」「これいいよね~!」ってキャッキャしながら明かりを決めました。黒太さんギャルだからさ。お子さんいるお父さんだけど。

 檻をどうするかにいちばん時間かかったんじゃないかしら。悩みに悩んで、いろいろ見たり相談のってもらったりして、紙の檻にしました。最後のシーンはもともと「扉を開けて出てくる」だったんだけど、意味的にもできれば毎回破壊したかったから「檻を壊して出てくる」に変更して、壊してもいい檻を考えました。

 舞監のアキオさんと舞監補佐の葉月ちゃんにとても助けてもらった。難しいところは多々あったんだけど、概ね思ってた通りの檻になり、壊れ方も素敵ですきなシーンになりました。感想でも檻がかっこよかったといってくれてる人が何人かいてうれしかったなあ。

 ラストシーンの煙はドライアイスでできてました。ギリギリまでうまくいくか心配だったけど、トラブルなくうまくいきました。場当たりで明かりの中ぶわぁっと煙が出た瞬間は感動したなあ。きれかった。もともと一回NGくらって頓挫しそうになったし、想像通りにいくのか小屋入りしてからしか確認できないことが多すぎて不安しかなかったから、うれしいよりホッとした。いいでしょ、あれ。

 保冷環境がなかったから保存できなくて、毎日大塚の氷屋さんに寄ってその日に使う分だけ買ってから劇場に向かってました。檻もそう。毎日劇場入ってからその日の檻を作って、その日のうちに壊してました。
 正直に言いましょう、鬼めんどかった。やりたさを人質に取られて自分の首しめてた。二度とやらねえと思いながらまた同じようなことすんだろな。

 私の頭にしかなかったものが、光と音と美術の力を借りて形になってゆく様を一番近くでみました。感動した。ほんとに。佐藤佐吉演劇祭見本市に携わってくださった皆様、力を貸してくれたすべての皆様、本当にありがとうございました。


 今回はショーケースだったので、色んな人がいました。出来上がったものやだいじにすることが人によってこうも違うのかと。比べても仕方ないし勝った負けたは全く思ってないけど、違いが単純におもしろく、それぞれのだいじが浮き彫りになってたな。

 私は役者でもあるので、やっぱり物語と役者がだいじです。役が生きてることに喜びを感じるし、役者が演じることによってうまれるドラマを信じます。演出そのものもだいじだけど、信じられて、かつ、かっこいい演出できるようになりたいなと思った。
 どーんと真ん中にある物語を、こだわりとすきでデコレーションするような芝居が作りたい。かっこよすぎて思わず笑ってしまうようなものが作りたい。いつか必ず作ろう。そうゆうものを愛してきたからこんなことになってて、これからも愛してゆくんだろうなと思った。

 書いてるときにすでにあったものもあるけど、書いてるときはなかったのに稽古に入ってからうまれた箇所がたくさんあった。昨日言ったことを全く変えたり、せっかく作ったものを全部なしにしたりした。初日が決まってなかったら一生やってんじゃないかと思うくらい創って壊しましたけど、最終的にできたものがいいと信じます。

 ここまでえらそーに書いといてなんですが、ほなお前、書きたいように書けたんかい、やりたいようにできたんかいと聞かれますと、たぶんできてない。知らないこととできないことが多すぎました。
 今できることを精一杯やったのは本当。納得してるのも本当。嘘はついてないし恥ずかしいものは出してない。それでも、はじめてだったを言い訳にしたくない。分かってますよ。分かってたけど悔しかったの。
 ああ、「あたりまえやろなめんなよ」とゆう先人たちの声が聞こえてきますね!

 最速で強くなります。悔しかったけど、学んでってる感覚がうれしくもあった。そんで、ちゃんとたのしかったよ。笑顔でおわれた。できることが増えたらもっとたのしくなる。みなさん、迷惑かけますけどよろしくお願いしますね。


 ぶんちゃんは背が高くて、顔もきれいで、技術も度胸もあるくせに、いつも自信がなくて臆病で、とても優しい。ほんとに象のようなひとです。

 自信っていつつくんだろうね。私も別に自信があるわけじゃない。自分のことは常に疑わしい。けどぶんちゃんは比にならないくらいこわがり。自分のこと信じられないなら私を信じてください、そう言いましたら、うれしそうに大戸屋のカツとじをもりもり食べてました。

 ぶんちゃんが立ち上がった時、舞台に出てきた時、かっこよかったでしょ。観てくれた人、そう思いませんか。私はニヤけました。先述した「かっこよくて思わず笑っちゃう」です。

 本人だけがしらない。でも、しーですよ。黙っときましょうね。それがとても魅力なんです。しらないでいいよ。安心なんかしないで。いい子で物分かりがいいのは嘘じゃない。でもずっと飢えてんのあの人。おもしろいよね。それがぶんちゃんのすばらしさ。私を魅了する部分です。

 最後の最後まで自分を疑って、作品のためにもがいてくれました。何度も「ぶんはエレファンドッグすきです」「おもしろいです」と声にしてくれました。私は、これが役者から作者への最大の愛だとしっています。私とお芝居作ってくれてありがとう。心からの敬意と愛を送ります。これからもよろしく~ぴろろ~ん。


 世の中かっこいいものやとんでもない人が溢れてて、ほんとにやんなっちゃいますね。いまもこわい。誰に頼まれたわけでもない。誰とも約束していない。それなのに、わざわざお前がやる必要あるのか。ここに慣れればいいじゃないか。いまいるところを居心地よくすればいいじゃないか。

 なにかをはじめるのはおっそろしい。ほんとうにだいじな、大好きな、やりたいことだったらなおさら。勇気出してええいままよっとはじめたら、やっぱり誰も待ってなかった。でもいろんな人に出会って、いろんな人がたすけてくれた。一生懸命やってたら、なんかいっぱい応援してもらった。
 うれしかった。もう淋しくないしこわくない。やるからには、たのしみながらもがいていきましょう。できるかなじゃない、やる。やります。いま「やります」の部分がティモンディで再生されてしまい呪われてます。

 終わった瞬間「さて、次どんなんしよう」と思った。はじめて書いて今回が旗揚げだったわけだから、もう少し感慨深いものかと思ったけど、自分でもびっくりするほど終わった瞬間に過去だった。どうでもいいわけじゃないの、ただ未来の方がすきなの。ありがとさよならエレファンドッグ。

 このnoteを読んで、感じたことと全く違うときは、感性の問題じゃなくて私の力量の問題です。夕方の景色を思い浮かべた曲の説明が「青空の曲なんです」だったら、もうそれは曲がミスってますやんって話です。正解はないです。だからいいんです。数学がきらいで演劇がすきな私がいうんだから間違いないです。なるべく大きく外れて伝わらないよう、私がこれからがんばりますね。

 今回いただいたお褒めの言葉は単純にとってもうれしかった。すごく力になりました。すごく熱意のこもったメッセージをくださった人もいたし、数日経っても興奮が冷めないと言ってくれた人もいた。
 信じられないけど、謙遜するのは否定になるからしない。本当に光栄です。うれしい。ありがとう。でも、それもうあなたのですよたぶん。ありがとうございます。でも次のほうが今回よりも絶対いいから次もみてほしいです。

 感想、ほんとうにうれしかったです。すべてありがたく読ませていただきました。本当にありがとう、精進します。余談だけど、匿名で攻撃したいだけのアンケート書く奴ほんまださいよね。

 次に向けて動き出しています。アジカンの曲に「転がる岩、君に朝が降る」というのがあって、ここ数日しばらくずっと脳内で流れています。走り出した、動き出した、そのどれよりも「転がりだした」が近い気がしてる。転がりだした。止まらない丸い岩でいよう。転がり続ける岩には、苔が生えないそうです。

 旗揚げ前と旗揚げ後でいちばん変わったのは、現実感でしょうか。「ミーティング(笑)」がちゃんと必要性を帯びて「劇団ミーティング」になりました。ぶんちゃんと2人っきりではなくなり、仲間が増えそうです。実は。また公表しますのでちょっとお待ちを。

 SHIMAISHIBAのvol,2は2022年9月を予定しています。バンドの話をしようと思ってます。情報公開までお待ちくださいませね。個人的にも役者の仕事が何個か入ってまして、書きもあるので、肌寒くなるまでは忙しくできそうです。ありがたや。その先は真っ白です。お仕事ください。

 以上、「エレファンドッグシンドローム」に関するあれやこれやと、ついでに今後の宣伝でした。またすぐに会いましょう。

 いつもありがとう。これからもよろしくおねがいしますね。愛っっっ!

いつも読んでくださりありがとうございます。 サポートしていただけたらとってもとってもうれしいです。 個別でお礼のご連絡をさせていただきます。 このnoteは、覗いて見ていいスカートの中です。