ショートショート「風車」
風車がカラカラと回った。男はそっと手を伸ばし、手を止める。手を止めると、風車も回るのを止める。動くのをやめてしまった風車にほんのり罪悪感を感じながらその風車の周りを見渡そうとするが、一面の花畑となっていて動けそうにない。
男は瀕死の状態であった。数多の追っ手から逃れてきたのだ。
風車が風を切る。男はここで倒れるつもりはなかった。美しい花畑を汚したくはなかったのだ。男は木陰にそっと身を潜め、様子をうかがった。追手がこの森に来るのも時間の問題だ。いつかはこの花畑も蹴散らされてしまうのだろう。馬に踏まれれば風車も折れてしまう。
男は足早にその場を去る事にした。この風車は目立ってしまうので持って行く訳にも行かない。ふらふらとよろめきながら、次の木陰を探す事にした。
…ああ。あの風車が回っていた方向には、川があったな。
男はおぼつかない足取りで歩いていった。風車がカラカラと回った昼下がりのことだった。
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