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蝋燭


蝋燭の火がゆらゆらと揺れている。
そっと火を守るために手を差し伸べると、また、炎が揺れた。

上手いことが言えないが、この炎が消えたらいけない気がした。私はその蝋燭をそっと誰にも見えないところに隠す事にした。誰にも見えないところに。ただ、それでも不安であった。自分が見張っていないと。

ただし、その蝋燭を見つめていることばかりが私の人生では無い。他にもやりたいことは沢山ある。名残惜しかったが、大事に大事にケースに入れて見えない所に保管し、定期的に様子を見に来ることにした。

ある日様子を見に来た私の前には、悲惨な光景が繰り広げられていた。
ケースは跡形もなく粉砕され、中身の蝋燭の火も消えてしまっていた。私は、その場に崩れ去った。しばらく何をすることも出来ないかと思われた。ただ、私は非日常の自分自身が受け入れられなかった。心の奥を鷲掴みにされ心臓を止められているのかと思うくらいの衝撃であった。それでも直ぐに立ち戻り、その場の粉砕されたケースを何とか直そうとしたのだ。

治らないことは分かっていた。それでも、そうする事で自分の日常が戻ってくるかもしれないと、そう信じるしか拠り所がなかったのだ。

そして、自分の行いを悔いた。自分がもっとしっかりと管理していれば。防犯カメラでも付けていたら良かった。もっと頑丈なケースだったら。様々な思いが駆け巡る。もっと、もっと。自分を責めるしか感情の行き先がなかった。

そんな光景を見た私の大事な人達は言った。

「あなたが悪いんじゃない。」
「無理をしないで。」
「怒っていい。自分を責めないで。」

私には分かっているつもりだった。全部私のために言ってくれていると。その言葉に救われたいと、何度もひとりで泣いたからだ。それでも、私は大事な人たちに己のどうしようもない思いをどうしてもぶつける事が出来なかった。傷付けられた私が、誰かを傷付けてしまうことが、壊れかけた私の中で歯止めをかけていた。

歯を食いしばって泣きながらケースを治す私は痛ましいのかもしれない。
蝋燭を誰が壊したのかが悲しいのでは無い。治る事がない心を癒してくれるものが蝋燭だったのだ。

それをなんと呼ぶか。私はこう呼びたい。

希望の光だと。


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