動画タイトル

眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #2

VRC環境課 紅狼 散葉 ep.0

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「うぁ~つかれたぁ~……」

「ああ悪い、一旦休憩するか?」


散葉と咲夜の2人は野原を歩いていた。

キャンプで遊び終えて、咲夜の家へと帰っている途中だった。

「家はもうすぐだし、もうちょっとがんばるよ。ねーちゃん歩くの速いね……」

「ずっと1人で行動してたし、せっかちになっちゃってたかな…」

他愛のない話をしながらまた歩き出す。


その時、2人の後ろから草を踏む音がした。

散葉の耳はその小さな音を聞き逃さなかった。


振り向いた先にいたのは、散葉と同じく黒と赤の毛並をした獣人。

いや、正しくは散葉とは赤と黒の場所がほぼ反転しているが、そんな些細なことは今はどうでもいい。

その獣人の足には剣の刃のようなものが複数装備されていて、

その意匠は、咲夜が持つ双剣にとても似ていた。

そして頭には咲夜が付けているものと同じヘッドギアと、破損したバイザーを付けていた。

画像1


「咲夜……知り合いか?」

「ううん… ねーちゃんにちょっと似てるけど、ねーちゃんも知らないの?」

「いや……」


「キャンプしてる時にも視線を感じたが、あんたか?用があるなら聞く。」

「……」

その追跡者はしばらくこちらを見つめたまま動かなかったが、やがて動かした腕はヘッドギアを指して


「そいつのヘッドギア、オレに渡せ。」

「えっ!?」

「元々お前の物…って訳でもなさそうだな。嫌だと言ったら?」

「……力ずくだ。」


そう言うと相対する胸元に付けた四角形のアクセサリーを取ってグリップとし、それを足に付けた刃の1つと合体させ逆手に構えた。

「やっぱりそうなるのかよ!」

散葉もすばやくスタンブレードを抜き構える。

「咲夜、お前は離れて隠れてろ!」

「わ、わかった!」

走り去る咲夜の背中が離れていくのを見送ってから、スタンブレードを起動する。

(せめてあいつが逃げ切れるまでは時間を稼がないと……)

そんなことを考えながら、

紅狼散葉は地を蹴った。


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「うぐっ……!!」

大きく吹き飛ばされた散葉が悪態をつく。

「ああもう!」

すぐさま体勢を立て直して距離を詰め。

2度、3度…… 全力で攻めているのに返される。

鍔迫り合いになり、強引に弾いて距離を取った。


(まずい…すでにだいぶ、きっつい……)

肩で息をしながら戦力差を分析する。

速さはまだ追いつけているが、力や技術は負けていると言わざるを得ない。

(何か小細工を……)


キリリ と

散葉の耳は後方の木影から響いた、弓引く音を捉えた。


(あのバカ……!
 いや、恰好付けようとした結果がこのザマなんだ。)

スタンブレードを握り直し、再度地を蹴った。


相対する虹色の刃が届くより一瞬早く、散葉は身体を大きく反らしながら急ブレーキをかけタイミングをずらす。

虚空を切った刃が目前を横切った瞬間、右下段から渾身の力で、両手で握ったスタンブレードを振り上げた。


完璧に身体を捉えたと思われたスタンブレードは、先ほど空振りしたはずの虹色の刃に阻まれていた。

(どんな速度で引き戻してんだ……!いや、本命は……)

無理矢理受け止めたため後方へバランスを崩している相手へ目掛け、

半身になりがら距離を詰めるため飛んだ。


「半身」になったことで、「射線」が通る。


散葉の後方から放たれた1本の矢が、

草花を削りながら、散葉の背を掠りそうになりながら、

相対する黒赤の獣人へ吸い込まれていった。


「…ちぃッ!」

だが、この奇襲すらもすんでのところで躱して見せた。

バランスを崩しながらも右足を軸に無理やり後方へ回転し躱したのだ。

「けど、ここまで崩せたならっ!!」


回転の力も加えた散葉のスタンブレードが、体勢を大きく崩した相手の背に触れた。

バジッ! と電流が迸る。
この隙を逃すわけにはいかない。

後方から地を蹴る音が聞こえた。

(前にまで……!? いや、任せる!)

目前の相手から繰り出される、明らかに速度の鈍った突きを弾き、

足を狙った横なぎを跳んで躱し。

そのまま相手の体を蹴り付け後方へ。


再度跳んだ散葉の下に、地を擦るが如く走る陰。

低い姿勢で飛び込んだ咲夜の二振りの刃が、Xを描くように交差した。


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「ぐッ……」
この奇襲を受け、相対する黒赤の獣人はようやく膝をついた。

咲夜の持つ双剣はあまり切れ味が良くはないものの、物理的なダメージはそれなりに入ったはずだ。

「悪いな咲夜…助けられちゃった。」

「いや…それより、信じてくれてありがとう。」

先ほどの矢による奇襲を思い出す。

「結構背中ぎりぎりだったな……」

そんな軽口を叩いているうちに、相手は剣を収めて立ち上がっていた。

攻撃を受けた影響か、少なくとも消耗しているのが見て取れる。

「…あきらめてくれたか?」

散葉がそう聞くと

「ああ」


「"出し惜しみ"は、あきらめた。」
「は?」

その獣人は割れたバイザーを降ろし、ヘッドギアに手をあて呟いた。

「"Belief" 起動。 対象、腕と足」

その言葉と共にヘッドギアには、赤い電撃がバチバチと迸った。

そして両腕にはめていた、金属製の環に足の刃を合体。
左右3つずつ、合わせて6つの刃を持つ大型の爪へと展開させた。

「くそっ、まだやるつもり……っ!?」

悪態が口から漏れた時、もといた場所にその相手はおらず、

視界の端、地面スレスレに黒赤の陰が迫っていた。

「うぎっ……!!」

スタンブレードの背で大爪をかろうじて受けるが、勢いを殺しきれず

散葉は大きく吹き飛ばされた。

(パワーもスピードもさっきより…!?いや、それより…!)

「咲夜ぁ!後ろに跳…」

その言葉も届いたかどうか。

呆気にとられた咲夜へ 虹色の爪が振り下ろされた。


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散葉は軋む体に鞭打って、同じく吹き飛ばされ木に叩きつけられた咲夜の元へ走った。
(良かった、生きてる…… でもこれじゃ…)

後方へ跳んだ事で致命傷は避けられたようだったが、数か所骨折してしまっているようだ。

これでは戦うどころか、逃げることすら危うい。

「そいつにそのヘッドギアは使えないみたいだな。
 使えない物のために命までかけるな。」
黒赤の獣人はそう言い、こちらへ歩みを進める。

「くそ、良いように言いやがって……」

「いや、ねーちゃん…今さっき同じように起動出来ないか試したけど、本当にダメだったんだ…」

そう言い咲夜は、震える腕でヘッドギアを外し散葉へと手渡した。

「僕に使えないのは本当だけど、それでもこれは大事な形見なんだ……
 持って行って…なんとか逃げて……」

「……」

受け取ったヘッドギアを少し見つめてから、散葉は自らの頭に装着した。

「ねーちゃん…!?」

「悪いな…恰好つける為に、もう一個だけ試させてくれ。」

ヘッドギアに手をあて、祈るように先ほど聞いた言葉を呟く。

「"びりーふ" 起動。 対象は…… っ!?」

バチッ

その言葉を遮るように、相対する黒赤の獣人と同様、散葉の付けたヘッドギアに赤い電撃が迸る。

それと同時に、全身が現実味の無い、全能感のようなものに包まれた。

「お前……!?いや、それよりこの馬鹿、制御出来ずに全開で……!」

目を見開き明らかに動揺する相手を前に、散葉はこの謎の感覚を試したくてうずうずしていた。

「力が漲ってる…… これがこのヘッドギアの……!」

スタンブレードを構え地を蹴る。

先ほどまでよりも一回り速く近接した散葉のスタンブレードが、ガードをしにきた大爪を大きく弾き返す。

そして左手で相手の胸元のアクセサリーを奪い取り、大爪の内一本の刃へぶつける。


距離を取った散葉の左手には逆手に持った虹色の刃、右手にはスタンブレード。

「これならっ!」

しっかりと武器を握り直し、二刀流の散葉は跳んだ。


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「何を狙ってるんだこいつ……っ!」

それから5分程も経ったが、両者共に決定打は無かった。

ヘッドギアによって強化され、得意の二刀流となった散葉が戦闘のペースを握っていたが、
相手は防御に徹しているらしく、僅かな処で悉く弾かれ、躱されていた。


「そろそろだ。」

黒赤の獣人は咲夜の方を見て呟いた。

「何のこと…… っ!?」

散葉の視界が、唐突にぐにゃりと歪んだ。

「あいつが眠る、そして」

歪んでいく視界の中、咲夜の表情はもう見えず。

「オレたちは目覚める時間だ。」

世界が暗転した。


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「 ……あれ?」
目を覚ました散葉の前には、先ほどまで居た野原は無く、
眠る為に訪れた周囲を壁に囲まれた小さな公園の噴水が、あの時と同じように雨を受けていた。

「本当に夢だったのか……?って痛ででで!!」

お尻や腰が凄まじく痛い。とても長い間座りっぱなしだったかのように。

ふと頭に違和感を覚え手を当ててみると。

そこには夢の中でも触れた感触があった。

「なんでこいつが……?」

夢で咲夜から受け取ったヘッドギアが、バチバチと電撃を迸らせていた。
そういえば、夢での戦闘中に感じていた全能感は今もある。
つまりは起動したままということだろうか。


夢と現実に混乱していた散葉は、雨の音に紛れて聞こえてきた風を斬る音に気付き、跳んだ。

散葉が立っていた場所には、虹色の大爪が突き立っていた。


「なっ、お前…!?」

「…さっきぶりだな」

先ほどまで相対していた、黒赤の獣人がそこに立っていた。

「どういうことだよくそっ…」
散葉は驚きながらも、距離を取りスタンブレードを構える。


数秒睨み合った2人は、ほとんど同時に公園の入り口へ顔を向けた。
別の足音が聞こえたからだ。

「お取込み中の処失礼致します。」

黒のスーツに赤い髪。そして、背に大きな竹刀袋のようなもの。


「私、環境課の狼森と申します。」

散葉よりも一回り大きい獣人の女性は、そう言ってお辞儀をして見せた。


「環境…課?」

街中で聞く住人の話に、その名称が出てくることがまれにあった気がする。

「その課員様が、ずいぶんと物騒な獲物を隠し持って何の用だ。」

爪を構え直しながら、その背の竹刀袋を見ながら。

「……よく気が付かれましたね。
 街外れとはいえここは公共の場。そんな場所で暴れようというのであれば。」

竹刀袋からスラリと取り出されたのは、柄の長大な刀剣、長巻。

そうして腰を落とし、構え。

「御二人共、少々手荒にならざるを得ませんが。」


ただ構えただけのはずだ。

しかし散葉はその気迫に気圧されていた。

(なんだ…!?経験の差?生まれ持った何か? 今の私よりももっと…!)

否が応でもその実力差を感じ取ってしまう。


「…さすがに勘弁してくれ。この場は一旦引かせてもらう。」

大爪の刃を足のホルダーに戻しながら、心底嫌そうな表情で言った。

「御協力、感謝致します。」
「……チッ。」

さらに嫌そうな顔になっている。


「そちらの、スタンブレードを持った貴女も構いませんね?」

「えっ…あ、あぁ……」
「ありがとうございます。」


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「ああ、そうだ。別に信じなくてもいいが、親切心で教えといてやる。」

先ほどまで戦闘していた黒赤の獣人が、公園の入り口で振り向き散葉に向かって話す。

「そのヘッドギア"Belief"の効果を出来るだけ早く切った方が良い。
 10分ぐらいとはいえ全開で使ってるんだ、早くしないと…」
「帰ってこれなくなるぞ。」

「…どういう意味だ。」

「体感すりゃわかるさ。環境課のあんた、もし暇だったらそいつの手助けしてやりなよ。」

「言われずとも、市民の皆様に助けが必要であれば手を差し伸べますよ。 たとえ貴方でも。」
「…ああ、そうかい。」

尋常でなく嫌そうな顔になった。

「お前、散葉とか言ったか。
 ……そのヘッドギア、少なくとも俺に渡すかあいつに返すまで、ちゃんと守り切れよ。」

そう言って、姿は見えなくなってしまった。


「…言われなくたって。」

同じ夢の世界にまた戻れるのかわからないけれど、あの子にこのヘッドギアは返さなくては。

「とりあえず、あいつの言う通りこれの効果は切るか。」

切ろうとする直前、狼森と名乗った女性が隣にいることを思い出し、

「あの…もし私がこの後暴れだしたりした時は……」
「心配なさらなくても、最善を尽くさせて頂きますよ。」

その言葉には、信頼に足る何かがあり。

「わかりました…。よろしくお願いします。」
「"びりーふ" 終了。」

ヘッドギアの効果を切った瞬間、散葉を抗い難い強烈な眠気が襲った。
「な…、え……?」

崩れ落ちる散葉を、狼森が支える。

「大丈夫ですか?」
「は、はい… なんだかすごく、眠く……」

通信でどこかへ連絡している狼森の姿が霞んでゆき、

「後のことは任せてください。」


紅狼散葉は眠った。


1か月後 環境課と提携している病院で目覚め、経過観察も含めて環境課へと入課するのだが、
それはまた別のお話で



VRC環境課 紅狼 散葉 ep.0
眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #2 「眠れる者」



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