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おあげさんを炊きませんか

関西では、お米などの穀類以外でも 煮ることを “ 炊く ”と言います
“おあげさん” は 油あげ、 薄あげ のこと

関西では、さつま芋を “おいもさん”、豆を “おまめさん”、いなり寿司を “おいなりさん”、お粥を “おかゆさん”、飴を “あめちゃん” … なんて呼んだりします

なんやろ、親しみを込めてかな
フレンドリーな関西人気質かな
たぶんせやな
知らんけど




きつねうどんやおいなりさんの やさしい甘みのおあげさん

お豆腐屋さんやスーパーで加工されたものが売られていたりしますが、手作りなら自分好みに仕上げられるし、できたては とびっきり美味しいんですよ
ふっくらとやわらかで 頬張るとお出汁がじゅっとしみて、感謝や幸せすらも湧いてきます

炊きたてをそのまま お酒のおつまみに、
きつねうどんやおいなりさんに、
野菜とともにおひたしや煮びたしの副菜に

冷凍もできるので常備しておくと便利です
もし よろしければご一緒に


***


わたしはいつも、大きめのフライパンで炊いています


【材料】
・油あげ(5枚入り100円程度のよくあるお安いやつ)
・だし汁 2カップ(400㎖)
・砂糖 大さじ6
・しょうゆ 大さじ3


おいなりさんにしない場合は
このまま 真ん中で半分にカット



おいなりさんにする場合は
袋状に開いておく

菜箸を押し付けるようにして
コロコロ転がす(一枚ずつ)

しっかり力を入れて両手で
まんべんなく全体に
(撮影のため右手ふさがってます)


半分にカット


コロコロしなくても手で割いて袋状にできるのもあるので、まずカットしてみて、くっついてたらそれぞれコロコロする というのもアリ

全部くっついてたら大変になるけれど
全部ひらいていたらラッキー

別の日のおあげさん
コロコロせずにカットしてみた

3枚は すんなりと開くことができた
2枚はぴったりとくっついていたので
コロコロして 開いた

ちょっとだけ時短になった
さぁ、あなたならどうする?


ひとつずつ開く

破れないように 奥の角までね
くっついてて開きにくい場合は
もう一度菜箸でコロコロしてみて


油抜きをする

フライパンにお湯を沸かして
油揚げを広げて入れる
ここがふっくら仕上げのポイント


強火で5分
しっかりと余分な油を抜く
味がしみやすくなるように

もうすでに ふっくらかわいい
ツンツンしたくなるけれど
破れやすいので あまりいじらない


一枚ずつザルにあげて湯を切る
(無理には絞らなくていい)

なるべく丁寧に広げるようにして
ザルにあげると仕上がりがきれい
(わたしのこれは ちょっと雑…)


だし汁(400㎖) と砂糖(大6)を入れて
あげを広げて入れる


落とし蓋をして 中火で7〜8分煮る


ちらっ


しょうゆ(大3)を加える
弱火で 落とし蓋をしてさらに煮る

重なってると味がしみにくいので
ちょっと気にしつつ


煮汁が少なくなるくらいまでが目安
火を止めたら落とし蓋をしたまま
冷まして味をなじませる

そのままで食べる場合は、
ほんのりキツネ色になる程度でもOK
アツアツのふっくらできたておすすめ


火を止めるタイミングで
味の濃さが決まるので
用途やお好みで探ってみてください



おいなりさんは、おあげさんの煮汁をしぼって ご飯をつめます

おあげさんの口を
ちょっと外側に折り返し
軽く俵形にまとめたごはんを
先っぽから入れるようにすると簡単
折り返した口を戻して形を整える


ごはんは酢飯もいいし、そこに胡麻や大葉などの具材を加えてもいい
五目寿司をつめればご馳走です

おあげさんが破れないようにやさしくね
まぁ、ちょっとくらいは大丈夫
気にしない 気にしない

***


両親は結婚以来、夫婦で酒屋を営んでいました
小売りと立ち飲みのお店です

父は、わたしが物心つく頃には目が見えていませんでした
病気もいくつか患いました
よく商売を切り盛りしたなと思います
たくさんの方が 力を貸してくださって、家業は50年続きました

その一方で、父の目が不自由なのをいいことに、騙すような心ない言動も 幼い頃からたくさん目にしました

わざとぶつかってきて必要のないお金を要求されたり、
ありもしないクレームをつけられて代金が払われなかったり、
金品の泥棒や無銭飲食なんかもありました

支払いで、千円札を「五千円」だとか「一万円」と言って父へ渡し、横に付いてた まだ幼かったわたしが「ちがう」と言えば「あ、間違まちごうたわ」と しらじらしい甘い声を出すのだけれど、その目はわたしを強く睨みつけていたりして…

人の裏表、人とお金の怖さをたくさん経験して、人やお金に 不信感も抱くようになっていました

「悪いことする人には 必ずそのうちバチが当たるからな、かわいそうな人やなとおもとったらええ」
「良くしてくれる人には ちゃんと心から感謝せなかん」
「人の気持ちは 先回りして考えられなあかんねんで」
「ちるは 目がええねんから、人を見る目を養えよ」

そんなことを 父には教えられました

「まぁな、いろんな人がおんねん…
ええ人も いっぱいおるからな」


それから優しい人にもたくさん出会って、人のことも好きになれたし、信じられるようにもなりました
人の気持ちやお金のありがたさ、大切さもわかるようになりました
多少の嫌なことには 目をつむることもできるようになったし、紛らす、見逃す、という術も覚えました

けれど、世間にはいつの時代も、嘘やまやかし、詐欺や虐待、裏切りや無意味なかけ引き…
人の気持ちを踏みにじるような 理不尽さや傲慢、過剰な執着や私利私欲がそこらじゅうにあって
そんなトラブルの報道も多いですね
残念で悲しい気持ちになります

人の心を傷つけて、どんな気持ちなんだろう、平気なのかなって よくわからなくなります
それが “良い人”  “優しい” と思ってた人だったりすると、やっぱりこわいなと思うしショックです
わたし見る目なかったんかな…って思ったりします

おとうちゃん、やっぱりむつかしいね
目はちゃんと見えてるつもりなんやけど
見落としたり 見誤ったりもしてしまう
おとうちゃんの 心の目には敵わへんな

そういえば 最近は、近くのものもぼやけて よう見えへんようになってきたし
そろそろわたしも、メガネ作ったほうがええんかな
あんまり似合わへんから ちょっとイヤやねんけど

あったかいおうどんでも食べよ

きつねうどん

冷凍うどんとネギしかない!
そんな時もおあげさんがあれば
だいぶ救われる


うちの七味は 赤くない
京都の “祇園七味”

『 平安朝の時代から黄色は魔除けの色
福を招く色として伝えられてきました.
江戸時代に入って七味唐辛子も
赤唐辛子を使わない黄金の七味が
粋人すいじんを釘付けにしたそうです.
当家秘伝の祇園七味は今尚 幸福を呼ぶ
黄金唐辛子で製法される珍しい七味どす
歴史のひもをたぐり寄せ江戸のロマンに
どうぞ舌鼓しておくれやす 』



父の日
わたしは、父の日には おいなりさんをこしらえます
父が亡くなるまでは、お正月や運動会の定番料理でした

父が亡くなる2ヶ月ほど前
父の日のある週末に、わたしはおいなりさんを作って大阪の実家に帰りました
その時 父は自宅で病気療養中でした

わたしが子供の頃から、父はたびたび入院が必要になったけれど、いつでも家に帰りたがりました
不安で寂しかったのだと思います

長い入院になると宥めるのが大変でした
年を取るほどにこどもみたいになりました
どうしても 帰ると言って聞かずに叫き、母は病院から呼び出され、夜中にタクシーで父を迎えに行かなくてはいけないこともありました

余命を告げられると、そんな父のために母は自宅一階の店舗の一部を、父を看護、介護するための部屋に改築しました
「おとうさんは、ここやないとあかんねん」
「おとうさんは、おかあさんやないとあかんねん」
母はそう言いました

わたしは間に合わなかったけれど、母も常連さんもいる自分の家で、自分の店で、父は最期を迎えました
この夏で、もう9年です

その部屋のベッドで、父が食べてくれた 最後のわたしの手料理、それがおいなりさんです
その時、もうだいぶ食も細くなっていたけれど、ゆっくりと味わって「おいしい」と言ってほほえんでくれた思い出の料理です


おあげさんの柔らかさ、甘くて優しい味には癒されます
わたしも お守りみたいな冷凍庫のストックに、ついつい手が伸びてしまいます

みなさんも、お時間があれば ぜひ一度炊いてみてください
その時は 炊きたてを頬張ってみてください
気持ちがほぐれると思います


ご家族のためにいつもがんばっているおとうさんたち、
今日はゆっくりと 心と体を休め、ご家族に甘えて お好きなものをたっぷりと楽しんでください

どうぞ よい一日を、よい一週間を



#163.     『 水無月 』

⭐︎梅雨近し 鈍色にびいろの雲が過ぎてゆきコンクリートへ梅の実の落つ

⭐︎亡き父の優しさへお返しをする 父の日だしとトマトを省く

       ー ちる ー

冷やしぶっかけうどん

暑くなるこれからの季節
ネギ、ミョウガ、大葉、ゴマなど
薬味をたっぷりと



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