白鳥飛来の古沼1
鳥見仲間で茶飲み友達のモカさんからメール。
なんでも城沼に行きたいらしい。
現在は開墾されて細長い沼ですが、その昔、城下町が広がっていた頃はお城の堀として使われていました。
それで、城沼。
モカさんと足を運んだのは、晴れているけど寒い、2月のある祝日でした。
車を降りて、思ったより風が冷たくないことに安堵しました。
駐車場から見える古い日本家屋を指してモカさんが
「あの建物はなに」
「ん、田山花袋のおうち」
「よく知っているね」
私は森のように木が植えられた一角を指して
「あそこがたぶん、白鷺御殿」
モカさんは白鷺御殿と示した方を向きました。
「行ってみよう」
白鷺御殿とは私が命名したもので、白鷺の騒音とフン害で困っているとニュースになったことがある名家の旧別邸です。
庭の植え込みをさして私は
「フン害は分からないけど白い羽がたくさん落ちているの」
「そこにも、ここにも」
モカさんは庭の木を見上げました。
「木を切ってある」
「本当だ」
普通、白鷺は木の上に巣を作ります。
白鷺対策で木を短く切ったのかもしれません。
私の視線の先をすっと移動する黒いものが目に入り
「って、何かいる!」
黒か茶色で鳩サイズの鳥影が低空飛行で藪に飛び込みました。
モカさんと二人で行方をガン見。
しかし逃げ足の速い子で、種類を確認することもできず、探すのを断念しました。
ガッカリ。
庭を回ると日当たりの良い場所に出ました。
モカさんは嬉しそうに
「こういう古い家、好き」
「でも、レンズを交換しないと撮れないから」
どうやらカメラに望遠レンズしか付けてこなかったらしい。
私はモカさんの首から下がっている紐を見ながら
「スマホで撮ったら」
「そうだね」
白鷺御殿は手入れが行き届いてきれいでした。
庭に面したガラス戸の表面は、ゆるく波をうっていて、時代を感じさせます。
昔は大きなサイズのガラスを作るのが難しかったはずなのに、ここには惜しげもなく大きなガラスがはまっているのでした。
私はさらに先ほどの田山花袋旧居を指して
「野鳥カード」
「えっ」
「せっかくだから野鳥カードをもらっていこう」
モカさんを道の向こうの別の建物へと案内しました。
その敷地には、左にレンガ造りの二階建て洋館があり、右の奥に日本昔話に出てきそうな日本家屋が見えていました。
バラバラなふたつの建物は、門に書かれた「資料館」という名前で違和感なくまとまっているのでした。
モカさんには何も言わなかったのですが、ここの受付で野鳥カードを配布しています。
鳥を好きな人が増えるようにボランティア団体が手作りしているカードです。
配布場所が何度か変わっているので気になる方は最新情報を各自でご確認くださいませ。
訪問したタイミングが良かったようで、この日はいろんな種類のカードがありました。
無いときはほんの数枚しかないのです。
野鳥カードの写真がよく見えるようにテーブルに並べていくとモカさんは驚きの声をあげました。
「こんなに種類があるん」
私はさらにモカさんの好きそうなのを選んで、別に並べました。
「人気なのは『カワセミ』」
「今の時期なら『コハクチョウ』、『コウノトリ』もあるよ」
モカさんはモズにしようとして
「でも、ここでモズを選ぶのもな」などと言い
結局『カワセミ』と『ジョウビタキ(オス)』を選びました。
もらえるのは一日一人一枚です。
すでに全種類集めたので、私の分をモカさんへ。
「ついでに中も見てみようよ」
私は田山花袋旧居を指して言いました。
モカさんの好きそうな歴史を感じる建物です。
白鷺御殿と違って、庭に面しているのは障子戸です。
縁側に座ってお茶でも飲みたい感じ。
こちらの家屋も満喫して資料館を後にしました。
(2に続く)
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