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「話すチカラ」は安住さんの情熱大陸だった

稀代の名アナウンサー、安住紳一郎さんと、大学時代の恩師であり、ともに番組に出演する齋藤孝先生との共著。
ともに日本を代表する話手である。
本書は、安住アナの母校への授業をもとに構成されている。


安住さんのすごいところ

 私は安住さんがアナウンサーとしてテレビの中に登場したころから大好きでした。
 話し方はそつなく嫌味もないのに、時としてものすごい切込みをして、その切れ味が的をつきすぎて、笑えてしまうところが、見ていて痛快だからです。
 話すテンポもよく、どんどん話に引き込まれてしまいます。
 これは彼の天性の才能だと思っていました。

齋藤孝先生のすごいところ

 『声に出して読みたい日本語』で話題になってから、ものすごい勢いで本を書いている齋藤先生。
 私も彼の本を数多く読みました。
 本を多作する人の作品は、ときとして「あ、これ前も読んだな」と思うこともありますし、内容が薄い場合もあります。
 でも、齋藤先生の本にはそんな「がっかり」がほぼありません。そして、彼の熱意が著作の中にあふれているので、読んだ後、やる気がフツフツとわいてきます。
 

 ご本人の講演も見に行ったことがありますが、最初登場されたとき
「わ、おつかれなんだな」
 とみてとれました。顔色も悪くて、声も小さくて・・。
 でも、数秒後には持ち直し、数百人の聴講者を笑いの渦に巻き込んでいきました。
 先生は常々「上機嫌でい続けること」を提唱されていますが、それを体現されていると感じました。

そもそも話すチカラは本を読んで身につくか

 「話す力」は日本の学校教育においても重要な項目です。
 最近の学習指導要領では「話すこと・聞くこと」として国語科の指導領域の一つです。
 しかし、最も指導のされていない領域、という認識もされています。
(平成30年告示高等学校学習指導要領解説国語編にも中央教育審議会答申からの課題として「話すこと・聞くこと」の指導不足が指摘されており、新学習指導要領では指導時間が増加することになっています。)
 

 たとえば小学校低学年では「相手に伝わるように、行動したことや経験したことに基づいて、話す事柄の順序を考えること」が指導項目の一つです。
 難しくないですか?
 このところことばが出で来なくて、
 「そうそう、あれ、どうなった?」
 と指示語で話すは私には、本当に難しく感じられます。特に「相手に伝わるように」のところが難しい。
 「相手に伝わるように話す」ことはそもそも「相手」と対峙しないとできないことです。
 本を読んで「話す力」をつけるということを考えれば、「話す内容を仕入れる」ということを期待すべきで、やはり「話すこと」は訓練第一の実技部門ということになるでしょう。

だからこそ「チカラ」

 本書では「話すこと」のスキル的な部分も、もちろんわかりやすく書かれています。齋藤先生の「話す」スキル向上授業のことも書かれています。
 でも、タイトルは「力」ではなく「チカラ」です。

 「力」よりも多くのことを含む意味で「チカラ」となっているのです。そこには「話すこと」にまさに命をかけている安住アナの仕事への情熱が入り込んでいるような気がするのです。

プロフェッショナル仕事の流儀

タイトルには「情熱大陸」と書きましたが、「プロフェッショナル仕事の流儀」でもどちらでもいいです!
 とにかく安住アナの仕事に対する情熱が素晴らしい!
 就職したときに、テレビマンとして成長するという意気込みをこめて、ものすごい数のテレビを買って同時に各局のテレビ番組を見た、という逸話がそれを象徴します。

 私は安住さんは「天性の才能」を持つアナウンサーだと思っていました。
 でも、本書を読むと、努力の天才でもあるのだと気づきます。
 やはり一つの分野を極めるには、ふつうの人間には想像もつかないような世界を自分に課さなければ、そして、それをやりとげる人間でなければならないのだと感じました。

 詳しい逸話は本書を読んでみてください。

 この本を大学院生の長男と就活を控えている大学生の次男にすすめたことは言うまでもありません。





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