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#27 まさか、4月になってダウンジャケットを羽織ることになるとは思ってもいなかった

 まさか、4月になってダウンジャケットを羽織ることになるとは思ってもいなかった。

 独り言って二種類あると思っていて、一つは意識的に、自分に言い聞かせるかのように話す独り言。就活の面接の前に、決勝戦の前に、「大丈夫、絶対にいける!」とつぶやくような、あれ。自分で独り言を言っていると認識して積極的に話している言葉。どちらかというと説得に近い。
 もう一つは、全く意識せずに何かの拍子に口を突いて出てくる言葉。机の角に足の小指をぶつけて「イテッ!」と叫んでしまうような。自分で話しているという意識はあまりなく、思わずこぼしてしまう言葉で、会社から帰ってネクタイを緩めながら吐くため息に似ていたりする。

 以前、実家に長いこと帰省したあと埼玉に帰ってきて、筋トレをした。実家にはダンベルやらの器具もなければプロテインやサプリもないので、しばらくぶりにガッツリ負荷をかけてひと汗かいた後、プロテインを飲んだ時に、

「くぅ~っ。久々のプロテインうんまっ。」

と独り言ちたことがあるが、これは紛れもなく後者のタイプの独り言だった。つぶやいた直後に自分の吐いた言葉を認識し、我ながらめちゃめちゃキモいなと思った。そして誰もいないはずなのにどこかで誰かに聞かれたかのような気がしてものすごく恥ずかしかった。

 さて、今日(4月10日)はとにかく寒い。地方によっては関東でも積雪を観測したほど。ここ埼玉は幸い雪は降っていないけれども、気温は4度くらいで、雨が降りしきっている。寒い日とは不思議なもので、雪が降るよりも雨が降っているほうが余計に寒く感じたりする。もともとが南国出身なのもあるかもしれないが、雪景色にはどこか温かみを感じる。
 相変わらず「グラデーション」のマスタリング作業をしていて、ひと段落着いたので夕飯の買い出しに行こうと玄関のドアを開けた途端に驚いた。テレビでも、強烈な寒さになると言っていたし今日が寒いんだという情報は仕入れていたつもりだけど予想をはるかに上回る寒さだった。ジーパンにパーカーという出で立ちでエレベーターのボタンを押しかけた僕はそのまま部屋に引き返し、上着を羽織って出直したのだけど、エレベーターを待っている間に例の独り言が口を突いて出てきたのだった。


 今日は「まさか、4月になってダウンジャケットを羽織ることになるとは思ってもいなかった」です。


 人ってある程度の基準を持って生活しているんだなって、今回のことで改めて感じた。確かに、「ダウンジャケット」は春の季語には相応しくないし、なんなら予定変更して急遽こしらえた夕飯の鍋料理だって、およそ桜の季節には似つかわしくない字面だ。以前、同僚が4月にインフルエンザに罹って会社を休んだことがある。その時もびっくりした。ちなみにその人はインフルエンザになった日がたまたま4月1日だったので、悪い冗談で会社をずる休みしようとしてるんじゃないかと噂が立ちかけて可哀そうだった。。。

 そうは言いつつも、4月に寒い日があるなんて、そんなに大騒ぎすることじゃないかも、という気もしないでもない。実際、過去にも極寒の花見大会みたいな日はあったわけだし、出来事としてはそこまで珍しいことでもないのかもしれない。ただ単に季節外れな感じが面白いっていうだけなのかも。

 こういう時によく目や耳にするのが、「冬に逆戻りしたかのような」というフレーズ。そりゃ、気温4度で雨が降っていて、近所のスーパーにちょろっと買い物に行く程度の外出にダウンジャケットが必要な状況は、そりゃ、冬だ。真冬もいいところだろう。
 でも、本当に「逆戻り」してるのか?逆戻りしたと言うためには、なぜかわからないけど世界中のカレンダーが例えば「2019.01.18」を一斉に表示したとか、時系列的な意味での逆戻りなら、そういうことにならないと、正確な表現ではない気がする。春夏秋冬という季節のサイクルに則れば、逆戻りというよりも「夏と秋をすっ飛ばしてしまったかのような」とか、そういった表現のほうが詩的だし個人的にはしっくりくる。前にしか進まない時間を敢えて後ろに戻そうとする表現が存在するということは、人間は誰しも過去を大事にしたい生き物なのかなと、そんな風にも感じる。

 そんなことを、あれやこれやと考えながら、温かいコーヒーを啜りつつ、マスタリング作業に戻る、そんな4月10日のエッセイでした。

Chira


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