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大奥(PTA) 第九話 【第二章 三役揃い踏み】
【第二章 三役揃い踏み】
<初顔見世>
全員が着座なさるのを見届けて、前にお立ちになって居る進行役のお方が話し始められます。
「さて、皆様お揃いのようで。御吟味方(選出委員会)初顔見世(第一回会合)を始めさせていただきます。私は、先の御吟味方(選出委員会)取締(委員長)の荻野と申します。宜しくお願い申し上げます」
進行役の荻野様は、この会合で一年の御吟味方(選出委員会)の年季が明ける故に御座いましょうか、心なしか少しほっとされた表情のようにお見受け致します。
「御吟味方(選出委員会)は、来年度の大奥(PTA)取締方(本部役員)をお決めする為の御吟味(人選)をする御係に御座いまして、例年各御組のお役決めで、なかなか成り手の少ない不人気な御係にござりますれども」
ここで一同から、くすりと小さき微笑い声が漏れました。
「本来のお役は秋頃に始まりまして、大奥(PTA)取締方(本部役員)が、全てすんなりお決まりになれば、これほど易きお勤めはございません」
成る程、それほどの易きお勤めであれば、あれほど不安に思われた心労、取り越し苦労であったのかしらと、安子様は思われたので御座います。
進行役の荻野様は、お声を落としてお続けになります。
「秋に本来のお役が始まりますまでは、まあほんの時折……にござりますれど、大奥(PTA)取締方(本部役員)から、各御係(専門委員会)に、諸々お手伝いのお達しが御座いまして……」
そのお言葉の後、お心なしか、しばし不可思議な間が置かれましたでしょうか。
「……まあそれはそれ、本日皆様お揃いで御座いますので、早速、当御吟味方のお役決めとまいりましょう」
「お役決め」
その言の葉を耳にされただけで、御一同、各御組のお役決めの折の惨状がついつい脳裏に浮かばれまして、ひととき体がこわばる心地が致しました。
<御三役>
荻野様は懐から一本の掛軸をお取り出しになり、それを紐解きなされると、皆様に見易き所にある留め金にお掛けになりました。それにはこう書かれております。
御吟味方
取締(委員長) 御一名
取締御後見(副委員長) 御両名
上記、御三役
御右筆(書記) 御一名
勘定方(会計) 御一名
「お役決め」
この御会合、終わるのはいつの事になるやらとの諦めのお気持ちと、本日またしても吹き矢で決するようなことあらば、皆々にとってまことに不本意な事よ、と嘆息された御一同で御座いましたが、その中でお一人、お声を発される勇気有るお方がおりました。
先ほど、鮮やぎたる御出立ちで皆様の御注目をお集めになった、あのお伝の方とか申すお方に御座います。
「先の御吟味方(選出委員)取締(委員長)の荻野様、もし、御吟味方(選出委員)の取締(委員長)に付いたならば、その者には何ぞ御役得(メリット)がお有りになるのか」
お伝の方様の堂々たる物言いに、荻野様は少し気圧されるようにこうお答えになりました。
「ええと……。御役得と申されますと……。そ、そうですねえ。あ、大奥(PTA)御目見得以上(PTA運営委員)のお役と成り、御目見得以上惣触れ(PTA運営委員会)に出席する事が叶いまする。」
お伝の方様は訝しげにこう仰います。
「ふうん……。御目見得以上(PTA運営委員)ねえ。そんなもの、身の忙しさが増すだけで、大した御役得(メリット)とは言えないではないか。何か他に御役得(メリット)と言える事は無いのかえ?」
「そうですねえ……。あ、もう一つ御座いました」
荻野様は何かを思い出されたように御座います。
「さて、それは如何様な御役得(メリット)にござりますこと?」
お伝の方様の詰問口調にたじろぎながらも、荻野様はお答え申し上げます。
「御吟味方(選出委員)取締(委員長)にお成りになれば、まず、これからの御会合の日取りを、率先して御提案する事が叶います。勿論、皆様の合意は必要な事ですけれども」
「ふうん、それは成る程。」
お伝の方様は白い眉尻をお動かしになり、高いお鼻を上下にして頷かれました。
「して、他に御役得(メリット)は?」
先の御吟味方(選出委員)取締(委員長)の荻野様に、矢継ぎ早にご質問を繰り返され、御吟味方(選出委員)取締(委員長)のお役に御興味を持たれていらっしゃるご様子のお伝の方様をご覧になりながら、安子様はこう思われました。とかく困難なこのお役決めという次第、ましてや重きお役目と皆に恐れられて居る御吟味方(選出委員)の、さらにその長であられる取締(委員長)ともなれば、恐らくは大変重きお役目とお察しする。そのお役目に、率先してお手をお上げになって下さるお方は恐らく他にはお出になりますまい。もしこの御方に引き受けていただけたならば、これは大変有り難き事に御座いましょう。
生真面目な安子様は、小さき文箱から歌がきの細筆を出して、懐紙に熱心に留書き(メモ)をなさりながらお話を聞いていらっしゃいました。
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