家賃滞納の理由
今回も不動産関連の話です。
僕が不動産屋で働いているとき、業務の中で、
滞納家賃の回収業務も行なっておりました。
その中でひとつ、印象に残ってる入居者のお話です。
Nハイツの大家さんから電話が入った。
大家「102号室の石田(仮名)さん、家賃が入ってないのよ!督促して!」
僕「わかりました!先月分ですか?」
大家「いやぁ…。困った事に6ヶ月分なんだよ」
僕「!!!!」
僕「なんでもっと早く言ってくれないんですか!!6ヶ月分も回収するの大変ですよ!?」
大家「うっかりしてしまってな…ハハッ笑」
笑い事ではない。
当時はまだ保証会社が必須の賃貸物件はさほど多くなかった。
管理会社が集金業務を行ってない物件は、このようにオーナーが着金確認をし、滞納があれば我々に連絡を入れ、督促をするという流れが多かったのだ。
早速契約書控えを確認し、102号室の石田さんに電話をしてみた。
トゥルルルル、トゥルルルル、ガチャ
「………はい?」
僕「石田様の携帯でよろしかったでしょうか?Nハイツを管理しております〇〇不動産のJMGと申します。少しお時間よろしいですか?」
石田「……はい」
僕「大家さんから連絡があり、家賃が6か月ほほど支払われて無いようですが…」
石田「……はい」
僕「滞納分のお支払いは可能ですか?」
石田「……いいえ」
実際にここまで滞納している方が、6か月分も一気に払えるわけがないのは当然だ。
僕「そうですか。今後の事もありますので、とりあえず一度当社まで来ていただいても良いですか?」
石田「……はい」
僕「いつでしたらご来店いただけますか?」
石田「明日の18時なら…」
僕「わかりました。それではお待ちしております。」
なんか元気のない人だな。
とりあえず石田さんが来る前に入居申込書を確認しておくか…
連帯保証人→弟
勤務先→警備会社
警備員をされているみたいだ。
年収は240万円。
月に20万円か…
いきなり6ヶ月はキツイだろうなぁ…
このNハイツの家賃は5万円。
滞納分は30万円。
彼は払えるのだろうか…
---翌日
18:00
石田さん来店。
僕「あ、石田さんですか?JMGと申します。」
石田「石田です」
僕は着席を促し、石田さんの眼をじっと見た。
何か疲れ果てた死んだ魚のような目をしていた。
僕「早速ですが、返済計画をお話しさせていただきます。」
石田「…はい」
僕「一括返済は出来ますか?」
石田「…無理です」
僕「お仕事はまだされているのですよね?」
石田「はい」
僕「警備員さんをやられていますよね?」
石田「はい」
僕「月に20万円ほど稼げていれば支払えない賃料ではないと思いますが…」
石田「今は週に3日程しか出てないので…」
僕「え?」
石田「ですので今は10万円ちょっとしか収入が無くて…」
僕「なぜですか?体調が良くないのですか?」
石田「いえ、そんな事はないのですが…」
僕「シフトを入れてもらえないのですか?」
石田「そんな事ないです。会社に言えばシフトは入れてもらえます…」
僕「いや、あのね、月に10万円しか収入がないから家賃が払えないっていうのは違うと思いますが…」
石田「…」
僕「仕事がないならまだしも、自分で仕事セーブして収入が減ったからって家賃払えませんは流石におかしいですよ。」
僕「今、お金ないのならちゃんと週に5日は出て下さい。そして毎月今までの滞納分を家賃に上乗せして払って下さい」
石田「え…」
僕「とりあえず来月から半年間は2ヶ月分の10万円入れて下さい。」
僕「それが出来なければ連帯保証人の弟さんに連絡して払ってもらいます」
石田「弟には連絡しないでください…」
僕「はい?何言ってるんですか?石田さんが払えないのなら代位弁済してもらうしかないでしょう。連帯保証人なんだから」
石田「でも10万円はキツイです…」
僕「そうでもしないと滞納分完済できませんよ?」
石田「でもそしたら生活できません…」
僕「何言ってるんですか!?大家さんだって家賃収入が無いと生活できませんよ?」
石田「でも10万は…」
僕「いい加減にしてください!!!」
石田「お前も口の利き方気を付けろ!どう見ても俺より年下だろ!!さっきから年上に対する態度じゃないぞ!!!」
テーブルをバン!と叩きながら
石田がいきなりキレた!
僕「年上年下の話なんか今してません。」
僕「どうやって家賃を払っていくかの話をしてるのに、論点をずらさないでいただきたい」
僕「とにかく毎月10万円、無理なら弟さんに連絡します。どちらか選んでください!」
石田「…75,000円」
僕「はい?」
石田「毎月75,000円でも良いですか?」
僕「それなら出来ますか?」
石田「…なんとか。」
僕「わかりました。大家さんに掛け合ってみます。ところで…なんで石田さん、仕事をセーブしてるのですか?」
石田「実は…」
石田「小説を書いておりまして…」
僕「…はぁ」
石田「今書いてる作品がもう少しで書き上がりそうなので、それが書き終わりましたらシフトを元に戻します!」
僕「いや、シフトはすぐに戻してください」
石田「本当にもう少しなんです!仕事から帰ってくると疲れてすぐ寝てしまうので進まないんですよ!」
僕「(知らねぇよ)とにかく約束の75,000円お支払いいただければいいですよ。」
石田「ありがとうございます!実は今書いてる小説はSF物でして、もし宇宙のどこかに地球と同じ文明のある星が…………」
ここから今書いてる小説の説明が始まった。
その時の彼の目はキラキラしていた。
そして人が変わったように饒舌になっていた…
ほぼ右から左に聞き流してたので内容はあまり覚えていない。
僕「とにかくこの覚書に署名捺印して下さい。あと、完済するまでは毎月月末に75,000円を持参して下さい」
石田「わかりました」
こうして石田は毎月家賃を持参する事になったのだが、彼は僕に自身の書いた小説を読んで欲しいらしく家賃と一緒に小説も持参してきた。
内容はサッと目を通しただけでほとんど覚えていないが、全然面白くはなかった。
家賃支払い持参日に自身の小説の感想を目をキラキラさせて聞いてくる。この期間は本当に辛かった。
全くもって興味のない、つまらない小説に目を通さなければならないのだから。
こうして、無事彼は滞納分の家賃を完済した。
僕は彼が滞納家賃を完済したすぐ後にこの会社を退社した。
彼のことは未だに少し気になるが、彼の小説はまだ世には出ていないはずだ。
多分世に出てくることもない。
もう亡くなってるかもしれない。
なぜかって?
彼は当時69歳。
今現在、まだご存命なら80歳を過ぎている。
もし、もしまた彼に会うことがあれば、彼の小説を書き起こしてnoteに投稿してみたいと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?