見出し画像

殺人犯の遺したもの


これはまだ、私が不動産屋で働いてる頃のお話です。

平日の昼下がり。
いつものように、店舗のカウンターで通常業務を行っていたところ、スーツ姿の警察と名乗る方が来店した。

「御社管理の〇〇アパートにお住まいの
 〇〇さん、いらっしゃいますよね?
 その方の賃貸借契約書を
 見せていただきたいのですが…」

このアパートは自社保証物件の敷礼0の1Kロフト付きの物件。当時は今ほど敷礼0が多くなかった為、金銭的に訳アリの方が多く住んでいるアパートだった。

「どういうことですか?」

僕は個人情報保護の観点から、その方がその部屋に居るとも居ないともとれる返答をした。

事情がわからない限りは、こちらから下手なことを喋るのはナンセンスだと思ったからだ。

するとその刑事は少しずつ事情を話し始めた。

なんでもその入居者、
とある殺人事件の容疑者の1人らしい。

当日その刑事は手ぶらでのご来店だった為、
後日、正式な捜査事項照会の書類を持ってきてもらい、件の契約書を見せました。

その刑事は書類を確認しただけで、去り際に、

刑事「何か変わったことがあれば連絡下さい」

と、言い残し名刺を置いて帰っていきました。





それから何も音沙汰がなく月日が流れ、その部屋も解約になり、内装業者を入れ、原状回復をすることになりました。


するとと内装業者からTEL。

業者「この部屋、入居中に内装工事入れました?」

僕は、そんな事ないですよ、と

業者「部屋の一面だけ、違うクロスが貼られてて、そのクロスを剥がしたらボードの一部くり抜かれた跡があるんですよね。それで、くり抜かれたボードが補修してあるんですが…」

1枚物のボードに30cm×60cmくらいの穴を開けた後に、そのくり抜いたボードを嵌め込んであるという。

※イメージ画像


前回もその方にその部屋の原状回復をお願いしていたのですが、前回の工事の時はこんな風にはなってなかったと。

嫌な予感がしたので、とにかく私は現地に車を走らせた。

アパートに着くと内装屋さんが困った顔をして私を待っていた。

「あの…実は、
 ボードくり抜かれて嵌め込まれていた部分、
 開けちゃったんですよ。そしたら…」

ちなみに私はこの内装屋さんには例の刑事が来た件は伝えてません。

僕「え?何かありました?」

業者「なにかビニール袋に入った"モノ"があったんですけど…。気味が悪いので触ってないですが。」

僕「あ、それ触らない方がいいですよ」


ここで僕は、例の刑事が来た話を内装業者に話した。

業者「そういう話は予め言っておいてくださいよ!も〜!やだなぁ〜!」

少し怒らせてしまったようだ。
まぁ仕方がない。

僕「とりあえず、よくわからないけど指紋とか付いたらダメかもしれないので触らないようにしましょう!担当刑事に電話してみます」

ここで担当刑事に電話をしました。
すると、すぐ行きますのでなるべく触らずにお願いします!と言われたので外で待つことに。

十数分後…。
本当にすぐ来ました。

刑事「わざわざご連絡ありがとうございます。
それで…例のものは?」

僕「こちらです…」

該当場所まで案内した。
刑事は胸ポケットからペンライトを取り出して
例のボードの中を照らした。 

中を覗き込み、ザ・刑事みたいな手袋をはめ、
穴の中に手を突っ込んだ。

息を呑みながら見守る僕と内装業者。

刑事の手がゆっくりと穴から出てきた。

その手には、大きめなビニール袋が握られていた。

それを床に置き、中から何かを取り出した。

それは服だった。

グレー色のスエットのトレーナー。

正直、手首とかが出てくるんじゃないかと期待(?)したが、少し拍子抜けしてしまった。
僕は小さく安堵の溜息をついた。

しかし、刑事の顔は曇った表情を浮かべていたままだった。

よく見たら、そのトレーナーには赤黒い跡が付いていたのだ。

僕「これ…血痕ですか?」

恐る恐る聞いた。

刑事「どうでしょう…。ちゃんと調べてみないとわかりませんね…。」 

そう言うと刑事はトレーナーを袋に戻しながら
 
「ご協力ありがとうございました」

と、去っていった。

僕と内装業者はしばらくその場でポカーンとしていた。

その後、その刑事から連絡は無かった。

僕もその会社を退社してしまった為、
真相は闇の中です。

会社に残ってるスタッフに確認しましたが、
特にその後、何も連絡が無かったとの事です。



ーあの入居者は本当に殺人犯だったのか?


この話の結末は未だに謎である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?