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心灯杯「建てつけ」

【募集要項】

『過去』『見返り』『増えるツンデレ』

という3つのお題を使って、ひとつの作品を作り上げてください。

どうも、魚亭ペン太でございます。

さて心灯杯2回目の作成です。というのも、一回この言葉たちのイメージが前の作品に引っ張られてしまうためですね。ここは一旦距離をとって……

まるで心の離れつつある男女の恋愛模様みたいですね。

男女間のそれといいますと、なかなか難しいものです。

女性からすれば男性の行動というのはあまり理解できないものばかりです。厠じゃ立って用を済ませますし、料理も妙に凝ったものばかり作る。身体の作りや価値観が違うのですから無理もないです。

そんな男女には向いている仕事もあれば苦労する仕事もある。昔に比べたら今はまだ改善されている方だとは思いますが、私達の見知らぬところで男女間のそれというのはまだまだ解決してはいないものです。

やっとこさ世間の目に触れるようになったのですから、それが目立つのではなく、普通にありえる光景になって初めて男女のそれは平等になるのではないでしょうか。


「ねぇ、ちょっとお前さん、あの娘は誰よ」

「誰って、言わなくてもわかるもんだろ」

「それがわかるからこうして問い詰めているんじゃないか」

「ならなんて言ったら満足するんだい」

「なんでこう潔いのかね」

「そこに惚れたんだろう」

「やだね、まだ昔のやり口で私を騙せると思っているのかい。あんた自分じゃ気づいていないだろうけれど、随分老けてきたよ」

「なんだい、急に人を年寄りみたいにいって、そういう扱いをされるから人は老け込む。その証拠にお前は美人だろう」

「いやだよぉ、お前さん、あんまり歯に衣着せたこと言うとますます疑いたくなるよ」


「いやだねぇ、女ってのは、惚れた男に若い女が近づくだけであれだ」

「おい、熊さんよ」

「なんだいどうした金太郎。また女房と喧嘩でもして建てつけ悪くしたか」

「喧嘩するたびに熊さんが儲けるのはなんだってことで、いまじゃあ夫婦の仲は良くなってら」

「人様を利用して夫婦の仲が良くなるとはね」

「そのお礼といっちゃなんだけど、ちょっといただきものをお裾分けに来たんだが、それより熊さんよ。さっき出ていったあの若くて綺麗なのは誰だい」

「うちの女房だ」

「馬鹿言っちゃいけないよ」

「うちの女房が若くもなければ綺麗でもないってか」

「いや、そうじゃねぇよ、そうじゃないんだ。ここ来る前に隣の権兵衛のところに挨拶行ってたんだ。そんときにお前の長屋から若くて綺麗な娘さんが出てきただろう」

「それがどうした」

「あの娘は誰だい」

「お前もそんなことを聞くのか」

「そりゃ聞くさ、美人を見かけりゃ世帯を持っていても気になるものさ」

「好きだねお前も、言わなくてもわかるもんだろ」

「仕事一筋のお前さんが女房ほったらかして下の建てつけ直すとは」

「おい、ふざけたこと抜かすない。こっちは真面目に手に職持って仕事してんだ、それを下の話と一緒にされるのは我慢ならねぇ。お前のところの扉という扉ぶっ壊しに行くぞ」

「いや、なんだ、熊さん、それは悪かった。これ以上は聞かないさ」


「ねぇ金ちゃん、やっぱりあの娘、白昼堂々人の家に出入りしてさ、おかしいと思わないかい」

「いや、それについては聞き出せなかった。お宅の旦那は口が固い」

「いやねぇ、昔はそこが好きだったのにさ、今じゃそれが仇になって」

「しかし、こうも普通に出入りされちゃあこっちからも取っつきにくいわな。裏口からコソコソ入ってくるならどうとでも言えるけれど」

「ねぇ金ちゃん、何かいい手はないかい」

「それならこれはどうだい。奥さんは旅行に行くふりをする。それで夜になったら家の様子を見にくるんだ。それで二人が何かしてればとっちめればいい」

「いやだねぇ、見たくないよ」

「じゃあ誰が見るんで」

「金ちゃん見とくれよ」

「奥さんはどうするんで」

「私は旅行に行くよ」

「本当に行くんじゃないですよ、行ったフリですよ」

「まぁ、そう言わずにさ、見返りといっちゃなんだけど、土産にお酒買ってきてあげるから」

「奥さんそりゃいけないよ、酒には弱いんだから、それ言われちゃあ……わかりましたよ、見ますよ、見てますよ。私が何を見てもお土産はお願いしますよ」

そうして熊さんの女房は小旅行に、熊さんは相変わらず。金ちゃんは女房に言われたとおり、食べ物飲み物と一緒に押入れの中へ。

「はぁ、なんだって人が気持ちよく旅行に行ってる最中、俺は押入れの中に押し込まれては人の不貞を探ってるのかね。お、お二人さん帰ってきた」

「やっぱり私には無理でしょうか」

「それで諦めるようならこっちから狙い下げだ」

「いえ、私は周りの人にどう言われても構いやしません。お願いします」

「そうじゃなくちゃいけない。世間というのは同じ穴を皆して覗くようなものだからな」

「やっぱり私は熊さんに出会えてよかった」

「そういうのは一人前になってから言いな」

「ありがとうございます。それで少しここんところが分からなくて」

「どれ、やってみな」

それからすっすっすっすとこすれる音。トントントンと叩く音。音だけとなっちゃ金太郎も何が起きているのか分からない。

「もっと腰に力入れろ」

「はいっ」

「こりゃまいったな、何事もなくて酒が貰えれば一番良かったんだけど……ことによっちゃ新しい建具屋と仲良くならなくちゃいけねぇ。おうっ、おまえさんたち、こんなところで何やってんだ」

「そりゃこっちの台詞だ。おまえこそ人の家の押し入れで何やっている。未来からでも来たってのか」

「未来からってなんだいそりゃ、おれは3日前から押し入れを間借りしてるんだ」

「押入れの建てつけ悪くするなよ」

「そんなことより二人は何してるんだい」

「見てのとおりだろう」

「それがよくわからねぇから聞いてるんじゃないか」

「仕事教えてるんだよ」

「この娘さんに」

「何か悪いかい」

「だって、女で建具屋なんて聞いたことない」

「やりたいってんだからやらせてやってんだ。俺も押し入れ間借りするやつは聞いたことないね」

「熊さんは変わりもんだって聞いてたけれど、こりゃ本当だ」

「それで、押し入れを貸家にしたのはうちの女房か」

「さいです、奥さんは二人が男と女かと思ってやきもきしていて」

「そりゃ男と女だな」

「そうじゃないんで、何かこう、悪いことでもしているかと」

「仕事を教えるのが悪いことか」

「いや、そうじゃないんで。その……熊さん、怒ってます?」

「そう言われると怒りたくなる」

「いや、じゃあ、怒ってませんね。とにかく奥さんがヤキモチしてまして」

「すると土産は餅か」

「いや、土産は酒で」

「俺が下戸なのにか」

「いや、そうじゃなくて、その、若い娘と会っているから嫉妬してたんですよ」

「嫉妬するのは勝手だが、心配されることは何もない」

「そりゃ当人たちは揃いも揃ってそう言いますよ。でも男と女が二人きりでいたら誰だってそう思いますよ」

「そうか、それならこうしよう。金太郎の家で何か壊れたらこの娘を寄こす。建具屋の仕事をさせてやりたい」

「いいですけれど、生憎喧嘩する予定はないですよ。あっ、ほら、ちょうど、奥さんも帰ってきた。奥さん二人は白ですよ。ほら、娘さんも今日は帰るよ邪魔しちゃいけないよ」

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「ごめんなさい。私、どうしても心配で」

「ヤキモチ焼くってのはお前が俺を好きだってことだろう。俺は幸せもんだ」

「よかった、私のこと嫌いになっちゃったかと」

「夫婦になったときから何一つ変わらないさ」

「それでだけど、お前さん……、その、もう、こんな時間だよ」

「なんだ、そんな風にいうから夜が更けるんだ。その証拠に外は真っ暗だろう」

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