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三題噺「問太郎」

おはようございます。魚亭ペン太です。

先日銭湯に行ってきたのですが、やはり湯船はいいものですね、体の芯から温まるというか、ホッとするというか。内側にあった緊張とかがフゥーっと口から出てくるようでした。

さて、近頃の活動からいろんな縁がありまして、しめじさんからコメントいただきました。ありがとうございます。

そんなこんなで三題噺、作らせていただきます。さてお題は
「夜のとばり」
「導かれる」
「晴れの日の傘」
となります。

前回作った「ちゃきちゃき」同様にニュアンスが近い表現でも良しということでやらせていただきます。

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私はもともと本を読むのが好きなのですが、改めてなぜ好きなのかと問われると、自分の知らない言葉に出会えるからなんだと改めて思いますね。
昔は読み書きができる人も多くはなかったものですから、知りたいことは人に聞くのが一番てっとり早かった。となると頭がいい人は何かと質問攻めにあう。

「なぁ、よっちゃん」
「なんでぇ」
「この前なんでも知ってるいったけど、ほんとかい」
「あぁ、なんだって知ってるさ、海苔屋の番頭が若い子にちょっかい出してるのも知ってるし、お前がほの字になってる相手も知ってるさ」
「そんなことまでしってるのかい。よっちゃんはおそろしいな。それでな、聞きたいことがあって」
「なんでぇ」
「夜のとばりってのは、どうして朝と昼がないんだい」
「どうしてそんなことを聞く」
「いやね、お腹空くと思って」
「それはいらない心配だな、とばりは腹を空かせちゃいない」
「そっか、ならよかった。俺だったら倒れちまう」
「とばりってのは一日一食でいいんだな。安くすむ」
「いいなぁ、うらやましい」
「それで、聞きたいことは済んだかよ」
「それとちょっとついてきてくんないかい」
「なんだい、別についていくくらいならいいが」

「おう、よっちゃん捕まえてきたかい」
「なんでぇ、俺は捕まった覚えなんかないぞ」
「いや、何であれ捕まったんだよ、太郎には一本取られたな」
「話がつかめねぇが」
「賭けをしてたんだ、太郎がおめぇさんを連れてこれるかどうかをよ」
「勝手に人を掛けの対象にしやがって、まぁいいけれど、まさかそれで、はい終わりってことはないだろう」
「まぁ、そうだぁな、ちと気になることがあってだな、手が離せないから来てもらおうと思ってたんだ」
「別段賭けっていうほどの賭けじゃあないってか、それでなんだってんだ」
「お天道様のことを知りたくてな」
「お天道様の機嫌か、近頃子供が生まれたから夜泣きして雨が降るわな」
「ありがとよ、助かる」
「そうならそうと太郎に言伝させればよかったじゃないか」
「いやな、実はだよ、よっちゃん捕まえるからって、皆にこの頃になったらうちに来るように言ってある」
「とんでもないことをしてくれたね」
「いや、まぁ許せよ、おまえさんが忙しいのは知ってるが皆知りたいことが多すぎてだな、今回呼んだきりでしばらく質問はなしだって町内で決めたんだ」

それから何を聞かされるかと思えば、井戸端会議での噂話が本当かどうか、主人の仕事がうまく行くにはどうしたらいいか、桶から水が溢れるのはなぜか、太陽が沈むのはなぜか。
何故か何故かの繰り返し。気になると答えを求めてしまうのが人の性といいますか。


「おい、太郎、少し腹が減った」
「昼のよっちゃんだね。それなら握り飯持ってきてる」
「いらんことしてくれる」
「それなら家でつけた漬物どうぞ」
「この干物よかったら食べて」
「いやね、どうもどうも、ありがとうございます。なぁ太郎、お前も食うか」
「えっ、いいの」
「あぁ、食べろ。お前の頭には栄養が足りないからな」
「じゃあ、食べたら頭良くなる」
「人によらァ」
「それにしたってさぁ、往来にはたくさん人がいるけど、世の中にはいったいどれだけの人がいるんだろう」
「数えたことはないからな、わからねぇな」
「よっちゃんでもわからないことはあるんだ」
「わからねぇことを認めるのも、バカにはできねぇわな。知らなくていいこともあらぁ」
「へぇ、そうなんだ」
「そうなんだよ。それでお前はもう満足したか」
「いいや、まだわからないことがたくさんある」
「まぁ、乗りかかった船だ、聞いてやらぁな」
「じゃあ、さっそく乗りかかった船なんだけど」
「なんだ、船に乗ったことぁないのか」
「あるよ、一回だけ」
「ならわかるだろ、途中で降りれねぇだろう」
「それなら泳げばいい」
「そりゃお前はそれでいいかもしれねぇが、金槌は困るだろう」
「金槌が困るって」
「泳げない奴を金槌って言うんだよ。今度釘打つ方の金槌を川に投げ入れてみろい、そのまま沈んじまうから」
「そしたら金と銀の金槌が、あれ、銀の金槌は何色だい」
「そりゃ池の中に聞いてみな。とにかく乗ったら途中で降りれないってことだ」
「じゃあ、雨も降ってないのに傘をさしているのは」
「そりゃ、あれだ、開いちまった手前、降るまで閉じれねぇんだ」

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