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短編『何も気にならなくなる薬』その188

連続殺人事件

拘束

殺戮衝動

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物騒な世の中だ。当たり前のように人が人を殺してしまう。
けれどもそんな歴史はずっと昔からあって、それが表沙汰になっているかいないかの違いしかない。
戦争で多くの人を殺した事実は消えない。
誰かが、誰かを攻撃することは何も大人の世界だけじゃない。
子供の世界でも当たり前のようにある。
子供が元気に仲良く遊んでいる。そんな幻想は都合のいい人たちの妄想でしかない。

国内で反乱が起きないために海外へ目を向けさせそれを標的にさせる。
誰でもいいから攻撃したい。そうした人間の衝動は平和になっても消えないだろう。
むしろ平和な方が危険だ。
小さな争いが目に見えない形で人を死の淵へ追いやる。
それが学校という世間から見れば小さな、子どもたちからすれば大きな世界で起きている。
会社も同じだ。
組織は共通の敵が必要なのだ。
また、共通の敵を作ることで仲間意識を持ちたいという欲求が、匿名掲示板で満たされている。

「はい、わかりました。このまま、はい、待っています」
椅子に縛られ拘束された男性を背に通話をする女性。
女性は何度も確かめた。それは間違いなく世の中を騒がせている連続殺人事件の主謀者であることは間違いない。
マッチングアプリで出会った男女がいっときの情事を終え、シャワーを浴びているときであった。
女性がそれに気が付き、男性を拘束する。
偶然にも彼女には護身術の心得があり、殺人犯とはいえただの人間では成す術もなく拘束を許した。
「なぁ、あんなにも愛し合ったじゃないか」
男性が女性に話しかける。
彼の口を塞ぐこともできたはずだが、それをしなかったのは男女の関わりを持った人の情というやつだろう。
それが良くなかった。
「えぇ、でもたった一日だけ」
「たしかに君に隠していたことは謝る。私は殺戮衝動を抑えられない人間だ。けれども、誰にだって隠していることはある。君だってそうだろう。私に話していないことがたくさんあるはずだ。それを勝手に、一方的に知って拒絶するのは一方的に人を殺す私と変わりないじゃないか」

「本当に通報があったのはここなのか」
「本当です」
「だとしたらなにかのいたずらだろう。ここには死体どころか誰もいない」

美味しいご飯を食べます。