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短編『何も気にならなくなる薬』その199

祖母の家に行くと必ず出てくるのがおやつだ。
いろんなおやつを毎回用意してくれたが、中で一番多かったのはカステラだった。
なぜそこまで覚えているのか、正直なところあまり好きな食べ物ではなかったのだ。
味が嫌いというわけではなく、あの間違えて紙ごと食べてしまった記憶が、幼い私に嫌悪感を抱かせてしまっていた。

それでもお菓子を用意してくれるこの時間は嫌いではなかった。
少し心配そうに、そして楽しみにしながらお皿を出す祖母のそれは私に対する数少ないコミュニケーションだったのだ。
台所でお皿に移し替えたカステラを孫のいるテーブルに持っていく。
「カステラは好き?」
「うん、好きだよ」
本当だろうか?
優しいところはあの頃の私によく似ている。

美味しいご飯を食べます。