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岩波少年文庫を全部読む。(74)ユダヤの与太郎、パラレルワールドに迷いこむ? アイザック・バシェヴィス・シンガー『まぬけなワルシャワ旅行』

シュレミールはユダヤの与太郎

8篇を収録した短篇集『まぬけなワルシャワ旅行』(1968。工藤幸雄訳、岩波少年文庫)の原題は、最後に収録された「シュレミールがワルシャワに行った話」でした。

シュレミールという名前は、日本ではアーデルベルト・フォン・シャミッソーのドタバタファンタジー『影をなくした男』(1814)の原題『ペーター・シュレミールの不思議な物語』で知られているかもしれません。

シャミッソーは東欧・中欧ユダヤの民話やジョークに登場する「ぼんくら」です。
世渡り下手でコミュ障、お人好しで騙されやすく、なにをやっても不器用。
特定の人物類型に固有名を与えるというのは、落語における「与太郎」みたいなものですね。

ヘルムはマザーグースでいう「ゴータム」

「シュレミールがワルシャワに行った話」の舞台になっているのはヘルム(ヘウム)。ウクライナ国境からほど遠からぬ町です。
同じアイザック・バシェヴィス・シンガー『お話を運んだ馬』(工藤幸雄訳、岩波少年文庫)に収録された「ヘルムのとんちきとまぬけな鯉」にも出てきましたね。

このヘルムはなぜか、ポーランドのユダヤ民話で「とんちきばかりが住んでいる町」とされています。シュレミールみたいな人たちがたくさいんいる町というわけです。

イングランド中部にあるゴータム(『バットマン』の舞台ゴッサムシティの語源)が、マザーグースで間抜けの町あつかいされているのに似ています。

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