「2021年中国ラップ発展白書」から読み解く2022年〜2023年の動向
艾媒咨询から2021年の中国ラップ発展白書なるものが発表されていました。フルレポートは32Pもあるので、その中から一部をご紹介したいと思います。<元記事リンクは一番下に>
※カバー写真は2018年のEDCのもの。ラップじゃなくてすいません。
1、ラップの普及度
2021年はさまざまなRAP番組が放送されました。少年说唱企划や黑怕女孩などの番組が放送され注目を集めていましたし、ネット上でも話題にたくさん登っていました。以前「中国ラップはマンネリ化して踊り場に差し掛かっている」という記事を書きましたがそんな中、ファンからは依然注目されている状況が続いています。
この図はネット伝播指数で流行曲とラップを比較したもの。ネット伝播指数というものは、ニュースメディア、微博,微信、ウェブサイトをはじめとしたインターネットのプラットフォームから抽出した大量の情報をから抽出した閲覧数、コメントやリツイ数、いいね数などを数値化したもの。流行曲よりもラップのネット伝播指数が高いですね。
2、ラッパーの経済価値
ファンのサポートがついに爆発して、2021年11月時点での中国ラッパーの経済的価値は1億元(16〜7億円)越えを達成とのこと。この件については、1本の広告なのか、1人の年間の価値なのかが不明ではありますが、とにかく5〜6年ほど前の『中国有嘻哈』の放送以前まで地下で活動していたラッパーたちからすると、状況がガラッと変わったわけです。この状況を変えたのはやはり『中国有嘻哈』の放送であり、シーンに与えた影響は非常に大きかったのだなと改めて感じます。
左の数字に関しても、おそらく33+という表記は33件以上という意味だと思われますが、広告で起用されるラッパーがいるということはそれなりに経済効果を認められているということでもあると思います。ラップシーンからすると非常に夢のある状況です。有名なバラエティ番組出演以降、イベント出演のギャラが100倍近くになった話などもありますし、知名度が上がることによってラッパーの世間での地位も認められ一般的なマーケットでの価値を持ち始めたということは非常に嬉しいことであります。
3、新興レーベルの誕生
2017年以降、大量のラップレーベルが誕生しています。これも上記の『中国有嘻哈』の影響が大きそうです。
そして2021年にはQQミュージック(テンセント)が《说唱者联盟》(ラッパーアライアンス)を発表。ラッパーとレーベルのサポート体制を強化していくようです。このサポートは主にレーベルとの協力体制、楽曲リリース(配信)、ファンコミュニティマネジメントの分野になるようです。(詳細記述は後半にあります)
ラップは500億回再生され、10000曲以上の新曲が登録され、ラップジャンルでは合計10万曲以上の楽曲が登録されているとのこと。
4、海外進出への自信
海外での中国ラップの検索件数は伸びていてyoutubeにおける主要な中国ラップ関連の番組の再生回数は累計9億回を超えたそうで、特にアメリカ、カナダなどの北米を中心に日本、そして中国人の留学&移住先として大人気だったオーストラリアなどでのツアー件数も増えているとのこと。ツアーデータは2017年から2019年のものですが、この2年のどこにも行けない状況下で、オンラインで中国ラップを親しむ人が世界中で増えていると考えられます。状況が落ち着いてから、海外コンサートツアーなども一気に広がる可能性があるでしょう。
5、楽曲はシーンと共にポジティブでラブ&ピースな方向へ
楽曲で歌うテーマに関しても、現実的かつポジティブなものが多くなっています。
中国らしいなと思うのは、国家や党への思いをテーマにした曲が想像以上にあること、そして他民族国家なだけあり、民族をテーマにした曲も結構あります。中国では身分証明書に自分の民族が書かれてありますし、申込書の類などにも民族を記入する欄があります。それくらい自分の民族がアイデンティティとして日常につきまとうわけです。そんな環境下においては自分の民族を誇りに思い、また自分の地方の言葉でラップをするのはある意味自然なのかもしれません。(別ページに方言ラップに関しての記述あり。興味のある方は資料をチェック)
2017年前後のテーマはもう少し暴力的なものだった印象です。ドラッグ・女・メイクマネー、俺がハスラーだ!的なステレオタイプのUSラップなテイストの曲が多々ありましたが、政府の規制とともにクリーンな方向へと変わりました。いや変わらざるを得なかったと言った方がいいかもしれません。
6、QQミュージックのRAPエコシステム
先ほども少し触れたQQミュージック(テンセント)の《说唱者联盟》(ラッパーアライアンス)ですが、主なサポートとしてはラッパーやレーベルとの緊密な協力、ラップイベントやバラエティショーとの連携、楽曲のオンライン宣伝と配信、音楽フェスの共催、授賞式、全国ライブツアー。さらに、特別な資金提供を通じて、インディレーベルをサポートし、トッププロダクションチームを提供し、国境を越えた活動を支援していく、というものらしいです。
自社でゲーム制作、番組配信/音楽配信プラットフォーム、クラウド、SNS、ライブ配信など多岐にわたるサービスを展開し、中国全土に数億人のユーザー(Wechatに至っては10億人以上?)を持つテンセントならではの包括的な展開内容です。ここが配信2位であるNetEaseとの大きな違いではないでしょうか。他にもラップ✖️様々なジャンルとのコラボも積極的に仕掛けているテンセント。
上記のサポート内容を分解すると、メディアの役割、レコード会社の役割、事務所の役割、音楽出版社の役割、イベンターの役割などなどをまるっと行ってくれるという夢のようなものではあります。スタートアップでいうところのアクセラレーターのようなものでしょう。
ただテンセントという会社は夢を与えてくれるだけではありません。その分契約はガチガチになることが予想され、楽曲の権利すら自社に残るかはわからないなんて契約もありそうです。事実、オーディション番組出演の際には権利関係は全て渡すことが条件になるという話を聞いたことがありますので、手厚いサポートを受けるにはそれなりに身を切らないといけないのではないかと思います。
日本と中国は楽曲の権利関係の認識が全く違い、原盤権、出版権などの認識はほぼ存在していません。JASRAC的な機能を持った組織もありますが、あまり利用されていないという現実があります。当然ながら広い中国、JASRACのように人海戦術で細かく徴収することもできず、ほとんどは自社で管理しつつ、大手の配信会社などに預けるような形を取ります(契約はケースによりけりですが)。この大手の配信会社にあたるのがQQミュージック(テンセント)だったり、NetEaseだったりするわけです。そんな現状を考慮してみると、このアライアンスに関して、レーベルを単に応援するわけではなく、自社でまるっと全てを抱え込む経済圏を確立することを目指していることがわかります。「ちゃんとサポートする分、うちで抱えるよ。安心して身を委ねておいで。うふふ。。。」というサービスなのではと僕は解釈しています。
そしてその経済圏を海外へ持っていくことを目指しているのではないかと想像できるわけです。先ほど(4)の海外パートで触れたように、YouTube上での中国ラップ番組の再生回数は9億回を超え、海外での認知度やファンが拡大するこの状況の中、2022年〜23年の海外各国の状況好転においての中国アライアンスレーベルを巻き込んだ海外ツアーやイベントの開催、番組や楽曲などのコンテンツの輸出、海外ラッパーとのコラボなどを積極的に行うのではないかと予想されます。
7、ファンの年齢層と属性
中国RAPのリスナー層は18歳〜40歳までが88%とボリュームゾーンを占めます。QQミュージックの中でのRAP曲の割合は2%程度と言われていますが、楽曲のシェア以上に消費に積極的な層がボリュームゾーンにいることによって、広告をはじめとしたSNS・メディアでの露出の割合が高く、実際の数字よりも盛り上がりを感じれる状況なのではないかと思います。そして50%以上のファンが会社員らしいです。
そしてシェア2%を増やすためにはどのようにしたらいいのか?なんてこともネット上では議論になっていたりして、『ラップ以外のジャンルの音楽とのコラボや融合するべき』などが上がっていました。そして面白かった案としては、『カラオケで歌える曲を作ろう』というものでした。みんながカラオケで楽しめるラップソングを作ることで認知度拡大を図るというものです。
確かに僕も中学の時に先輩がカラオケで歌っていて初めて「ブルーハーツ」を知りましたし、カラオケを通じて新しい曲と触れ合うことは確かに多そうです。そのためにはスキルをひけらかす曲だけではダメで、親しみやすい歌える曲を作らないといけないと盛り上がっていました。
そしてラップを楽しむタイミングは運動中と睡眠前が多く、48.3%の人が1日30分から1時間は聴くとのこと。国内以外にも洋楽リスナーも41.6%、日本と韓国のラップを聴くという人も31.3%もいるそうです。日本語ラップに関しても最新のものはあまりありませんが、往年の名曲の一部が聴けたり、Nujabesが一部のファンの間では神のように崇められています。海を越えて日本のカルチャーが好かれているのは嬉しい限りです。
8、ラッパーの年齢分布
1位は90年代が圧倒的、47.9%とほぼ半数を占めます。2位は00年代23.16%、3位が80年代の28.94%です。40代以上はほぼ存在しないくらいの状況です。
40代以上はほぼ存在しないくらいの状況なので、日本と比較すると全体的に若者が多く、10代のラッパーもそれなりにいます。新しい中国らしいスタイルが生まれるのはこの年齢分布も理由の一つかもしれません。
9、最後に
というわけで艾媒咨询の記事を元に主な部分を抜粋してきました。ここ数年の中国ラップの状況、そして今後の流れが多少なりともわかったのではないかと思います。2022年、2023年の中国ラップの海外進出は非常に楽しみです。日本でもライブをする機会があるのでしょうか?ここに関してはギャラ問題、集客問題など様々なクリアすべき問題があると思いますが、日本でも生で中国ラップが聴ける日が来ることを楽しみにしています。恐らく大規模夏フェスに呼ぶのが一番可能性があるでしょう。
以上艾媒咨询のレポートをもとに、勝手に解釈しながらご紹介してきました。
記事の詳細が気になる方はオリジナル記事、そして実際に資料も見てみてください。無料で見れます。
それで再见。
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