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『BAKU!! ~爆末陰陽伝~』第三話

■週刊少年マガジン原作大賞 参加作品■

●西本願寺
門の前に立つ土方歳三と数名の人影。
土方と目配せをすると門を叩く。
 土方歳三「夜分恐れ入る!
      当寺に賊が逃げ込んだとの知らせゆえ、
      寺内をあらためたい!」

眠そうな顔で通用門を開ける寺男。
   寺男「そがいな話は聞いておりませんが……
      ああ! なにしはるんでっか」
寺男を突き飛ばすと、強引に寺の中に入り込む土方と新撰組隊士。
 土方歳三「永倉を出してもらおうか」
   寺男「なんの話かさっぱり……」

あくまでもシラを切る寺男の頭上に、ヒラヒラと落ちてくる五芒星が書かれた半紙。
いきなり白い光になると、寺男の口に飛び込む。
   寺男「ふぅんむがが!」
白目を剥いた寺男、取り憑かれたようにボソボソと語る。
   寺男「新撰組の…男は…百華池のほとりに……」

暗闇から聞こえる晴明の声。
  榊晴明「──だってよ、急ぎな色男」
 土方歳三「榊ィ!? てめぇどこだ!
      オレに指図するんじゃねぇ」
辺りをキョロキョロ見回す土方。
寺の門を飛び越え、境内に消えていく晴明の影。
 土方歳三「ちっ! 我が侭野郎が!」
寺男をぶん殴ると、晴明を追いかけるように駆け出す土方達。

●西本願寺・百華池
池のほとりに、縛られて転がされている永倉新八。
三鈷杵を手に持って、何か念じる御倉伊勢武。
三鈷杵の片方の真ん中の刃がスッと伸び、剣の形に(不動明王の降魔の剣に近い感じ)。
剣をブルンと振ると、永倉の首筋に当てる御倉。
御倉伊勢武「いよいよ太閤殿下を封じていた
      徳川の呪法陣が今宵、解き放たれる!」

荒木田の他、間者達が周囲を取り囲む。
みな、両手で印を結んでいる。
三鈷杵の剣を振り上げる御倉。
その瞬間、周囲に散開する光の鷺。
御倉伊勢武「なっ!?」

襲いかかってくる鷺を、御倉が三鈷杵の剣で振り払う。
と、五芒星が描かれた紙に変化して、地面に落ちる。
御倉伊勢武「桔梗紋! 榊とやらか?」
池の対岸に出現する晴明。
  榊晴明「御名答~」

すると光の鷺が池の上に飛び石のように落ち、水面に浮かぶ。
  榊晴明「はぁあああっ!」
晴明、その上をポーンポーンと跳ねながら池を一気に渡る。
渡りきると御倉に独鈷杵で突きを入れようとする晴明。
晴明が打ち込んできた独鈷杵を、ガキッと受け止める御倉。
御倉伊勢武「きさま……何者だ!?
      徳川方にかような術者がいるとは、
      とても思えんのだが……」
  榊晴明「そう言うおまえも、長州の人間じゃないだろ?
      もっと西の匂いがする。例えるなら……」

晴明の言葉に、ピクリと反応する御倉。
晴明にいっせいに襲いかかる荒木田ら。
 土方歳三「荒木田ァ!」
横手から絶叫しながら走り寄ると、振り向いた荒木田を両断する土方。
  荒木田「ぐわぁああ!」
御倉伊勢武「土方ぁ!」
激怒する御倉。

土方に続いて、どやどやと駆け寄る新撰組隊士数名。
御倉、後方に飛び退くと、懐から九字の書かれた半紙を大量に取り出し、空中に投げる。
晴明の式神同様、飛び交う御倉の式神。こちらは猿の形(伏線)。
前と同様、式神がぶつかった途端に炎が吹き上がり、次々にのたうち回る新撰組隊士達。
 隊士たち「うぎゃあああ〜熱い、熱い〜」
 土方歳三「騙されるんじゃねぇ!
      これはただの目眩ましだ、
      本当に燃えてる訳じゃない」
御倉伊勢武「そんな言葉が耳に入るか! 
      そやつらは地獄の業火に
      身を焼かれているのだ土方よ
      フハハハハハハハァ〜!」
不敵に笑う御倉。

  榊晴明「水・勝・火! 出でよ介虫式神」
晴明が投げた紙型、亀の形になって燃えさかる隊士達に張り付く。
と、水の入った風船がはじけるように大量の水を発し、隊士を包んだ炎が消える。
  隊士1「……はッ!
      いつの間にか火が消えて…」
御倉伊勢武「うぬぬ〜!
      水気をはらむ介虫【亀】の
      式神を使うとは何者か!」

御倉伊勢武の言葉を無視し、土方の背後に下がる晴明。
  榊晴明「呪法が利かなきゃ、
      剣で戦うしかないな。
      あんたらの出番だ」
 土方歳三「ありがてぇ!
      斬り合いならお手のもんだ、
      永倉を助けるぞッ!」
御倉伊勢武「うぬぬぬぅ〜!」

歯がみしながら刀を抜く御倉、永倉に走り寄って刺し殺そうとする。
が、その前に立ち塞がる晴明。
  榊晴明「おっとぉ、
      そうはさせないぜ」
御倉伊勢武「どけっ!」

晴明に斬りかかろうとする御倉。
その瞬間、首筋を後ろから突きで切られる。
御倉伊勢武「ぐぐっ
      キサマは……」
御倉の背後に立つ、美青年。
 沖田総司「永倉さんは
      斬らせないよ」
御倉伊勢武「沖田……総司!」

御倉の得意の三段突きを決める沖田総司。
 沖田総司「ヤッ、ヤッ、ヤァーッ!」
沖田の突きの連続に、頸動脈から血がビューッと吹き出す御倉。
ヨロヨロと後ずさり、尻餅をつく。

同時に、越後の腕を切り落とす土方。
越後は傷ついた腕を抱え、遁走する。
土方、振り向きつつ、
 土方歳三「でかしたぞ総司!」
  榊晴明「永倉は無事だ」
晴明、永倉の縄を解いてやりながら土方に叫ぶ。

御倉ににじり寄る土方歳三。
 土方歳三「御倉伊勢武──いや
      本当の名前がなんというのかは
      知らねぇが…残念だったな」
刀にすがるようにして立ち上がる御倉、だが息が荒い。
御倉伊勢武「く……ふぅ…」
 沖田総司「長内達の仇、
      討たせてもらいますよ」

沖田、得意の平青眼に構える。
だが御倉、ニヤリとほくそ笑む。
その目線の先には、ムックリと起きあがる永倉の姿。
 沖田総司「ん?」
背後で突然起きる晴明の苦悶の声。
  榊晴明「ぐ……がッ?」

晴明の脇腹を、独鈷杵で刺す永倉新八。
永倉自身は白目で、意識がない。
 土方歳三「な……永倉?
     どうしたんだ
     永倉ぁ!」
晴明の脇腹から噴き出す血。

独鈷杵を土方に向かって突き出し、フラフラと突進する永倉。
土方、身体を横にさばき、永倉の後頭部を柄頭で一撃する。
 永倉新八「ぐげげ」
 土方歳三「大丈夫か榊!?」
  榊晴明「ゆ、油断したぜ。
      だが大丈夫……だ
      致命傷じゃない」

口元に笑みを浮かべ、投げ槍につぶやく御倉。
御倉伊勢武「ふふん……新撰組の永倉も
      幕府の走狗の陰陽師も
      太閤殿下復活の生け贄には
      できなんだか……」
 土方歳三「観念するんだな。
      おまえが目論んだ結界破りは
      この西本願寺で七人目の生け贄を
      殺さないと成就しねぇんだろ?」

刀を構えたまま、ジリジリと御倉に近づく土方。
御倉伊勢武「いいやぁ……まだまだ
      贄の代わりは……いる」
 沖田総司「強がりを言うな。
      今のおまえに何ができる?
      立ってるのも辛いだろうに」

口から血を吐きながらも、ニヤニヤと笑う御倉。
御倉伊勢武「そこな陰陽師……
      きさま榊家の者か?」
  榊晴明「榊晴明……
      それが俺の名だ」
御倉伊勢武「榊…晴明……か
      時の権力者に疎まれ
      闇の中に消えた安倍晴明の末裔が
      榊の名を名乗っていると昔
      聞いた事があったが……
      こんな所で会えるとは御慶かな」
 沖田総司「闇の中に消えた?
      安倍晴明?
      ……いったいなんですか」

沖田の言葉を無視して、晴明を凝視する御倉。
御倉伊勢武「同じ闇に棲む者なれば
      一言忠告して進ぜよう」
  榊晴明「何をだ?」
御倉伊勢武「晴明、おまえは俺だ。忘れるなよ」
 土方歳三「御倉!
      てめぇ何が言いたい」
  榊晴明「御倉……まさかおまえ!」
御倉伊勢武「御倉伊勢武とは仮の名
      兵道家・木下誠三郎隆景が
      最後の呪法を受けよ!」

御倉、刀を振り上げると自分の首筋に当てる。
 土方歳三「な!」
自分の首を掻き斬る御倉伊勢武。

ポロリと落ちた御倉の首。
空中でクルリと回って、自分の足下にピタリと着地。
御倉の生首は目を閉じている。
だが、ボソボソと九字の印を唱え出す。
御倉伊勢武「臨…兵…闘…者……」
  榊晴明「御倉は……いや木下は
      己を贄とすることで呪法陣を
      完成させるつもりだ」
 沖田総司「そんな!」
御倉伊勢武「界…陣……列……在………ぜ…前!」

クワッ!と見開かれる、御倉の赤い両目。
御倉の生首からほとばしった光が、地を這うように移動し始める。
  榊晴明「しまった!
      地脈の中の気が
      動き出した」
 土方歳三「それじゃあ
      秀吉封じの呪法が
      破られるのか!?」
 沖田総司「なんとか食い止め
      られないのですか?」
  榊晴明「ここを発した気が
      北斗星を巡りきる前に
      封じなければ……」
 土方歳三「そんなことができるのか?」
  榊晴明「できる……だが
      止めるのは俺にしかできん。
      気の流れを追うぞ───」

ヨロヨロと走り出そうとする晴明。
しかし、永倉に刺された脇腹を押さえて、ガクッと膝をつく。
 土方歳三「榊ッ!」
  榊晴明「う……ぐぐぅっ」
脇腹から流れて、晴明の水干をぬらす大量の血。
 沖田総司「その傷じゃあ走れないよ」
  榊晴明「大丈夫だ……行かないと」

ムリして走り出そうとする晴明を、ぐいと押しとどめる土方。
 土方歳三「無理するんじゃねぇ」
  榊晴明「無理でも行くんだ……どけ」
土方、晴明を強引に背中に背負う。

その行動に、驚く晴明と沖田。
 沖田総司「……土方さん」
 土方歳三「多摩の田舎じゃ薬箱と
      剣術の防具を担いで
      一日中行商してたんだ。
      足腰は強いんだぜ?」
  榊晴明「わかった……頼む」
 土方歳三「しっかりつかまってろよ!」
土方、晴明を背にかついで走り出す。

●本願寺外の通り
必死で気の流れを追うが晴明と土方たち。
だが、土方達の走るスピードよりわずかに早く、なかなか追いつかない。
 土方歳三「ちくしょう、
      スルスルと動きやがって」

角を曲がっていく気の塊を追う土方達。
息を切らし、汗びっしょり。
だが追いつかない。
 沖田総司「ちぃ!」
業を煮やした沖田、土方達を置いて全力疾走し、気の塊に追いつく。
 沖田総司「てぇええええーいっ!」
気の塊に刀を突き刺す。

だが、気の塊はそのまま進んでいく。
 沖田総司「な!?」
  榊晴明「……あれは刀じゃ斬れない」
 土方歳三「ハァハァ…ちくしょう!
      やっぱり俺らが
      追いつくしかないのか」
息を切らしながら、忌々しげに絶叫する土方。

土方の背後で、指示を出す晴明。
  榊晴明「……土方」
 土方歳三「なんだぁ!?」
  榊晴明「あの角を曲がらずに
      まっすぐ進め……」
 土方歳三「なんだってそんな…」
  榊晴明「あの気は…殺された人間の
      念がある場所を…たどっている。
      このまま追うより先回りして
      迎え撃った方がいい」
洛中の地図と、北斗七星のポイントを図示した模式図入る。

北斗星の柄杓の部分をスルーするよう指示する晴明。
 土方歳三「確かにそれなら追いつけるが
      ……本当に大丈夫か?」
  榊晴明「……おそらく
      あの気を封じる機会は
      一度…のみ」
 土方歳三「しょうがねぇな
      おまえを信じるぞ!」

闇の中に駆け出す晴明と土方。
沖田総司はそのまま気を追い、二手に分かれる。
必死で走る土方。
その背中で、脂汗を流しながら息が荒い晴明。
 土方歳三「最初にウチの隊士が
      殺された辻は……
      あそこだ!」
土方が四辻に到達し、左の方向を振り返る。

こちらに向かって進んでくる気の塊と、併走して走る沖田総司。
 沖田総司「土方さん、間に合いましたか」
 土方歳三「榊よォ! …やれるか?
      やれるのかよッ!」
  榊晴明「おまえら…
      巻き込まれないよう
      …離れていろ」
 沖田総司「しかし!」
 土方歳三「総司……餅は餅屋だ。
      俺たちがいちゃ
      邪魔なだけだ」
  榊晴明「ありがとよ……色男」

晴明、土方と総司に微笑むと、四辻の真ん中に立ち、独鈷杵を出す。
独鈷杵の持ち手部分がニュンと伸び、六尺ほどになる。
独鈷杵の先端で。足下に桔梗紋を描く晴明。
桔梗紋をまたぎ、一歩前に出る晴明。
九字を切る。
 土方歳三「榊ィ……」
  榊晴明「臨兵闘者…
      界陣列在……前!
      ……かぁああっ!」

晴明が切った九字の格子縞が、光の格子となって気の塊に突進!
ネットのように気の塊を包み込む。※演出はお任せ
 土方歳三「や…やった!」
 沖田総司「食い止め……た?」

歓喜の表情の土方と沖田とは対照的に、厳しい表情を崩さない晴明。
気の塊はそれでも、じりじりと晴明に接近してくる。
  榊晴明「くぅ……」
 土方歳三「何をやってる榊!
      そのままじゃ
      おまえが……」
 沖田総司「ああっ! 離れてください」

5センチ近くまで接近した気の塊。
突然、両手で抱きつく晴明。
晴明を包む燐火、一気に燃え盛る。
  榊晴明「ぐわぁああっ!」
 土方歳三「榊ぃ!」

駆け寄ろうとする土方を目で制する晴明。
  榊晴明「近づくなと……
      言っただろ」
 沖田総司「し、しかし…」

気の塊を抱きかかえたまま、ヨロヨロと後ずさりする晴明。
圧力に耐えきれず、真後ろにスローモーションのように倒れる。
 土方歳三「ちぃいいっ!」
 沖田総司「歳さん危ない!」
晴明に駆け寄ろうとする土方と、それに驚く沖田。

倒れかけの晴明、目をクワッと見開き、体を入れ替えてうつ伏せに倒れ込む。
  榊晴明「うがぁああ!」
 土方歳三「な……」

倒れた晴明の俯瞰。
晴明が倒れた場所は、ちょうど先ほど自分が書いた桔梗紋の中。
  榊晴明「ハァ…ハァ……」
 土方歳三「え…?」

桔梗紋の結界の中で、激しく左右に動く気の塊。
だが、結界に封じられてそれ以上動けない。
やがて、動きが鈍くなる。
 沖田総司「光の玉の動きが
      ……止まった?」
  榊晴明「結界の中に封じるには
      ああするしか……ウグッ
      なかったんだよ」
 土方歳三「それじゃあおまえ、
      わざと抱きついて……」
  榊晴明「まだ……まだ
      終わりじゃない」

ヨロヨロと立ち上がった晴明。
独鈷杵を手に持ち、気の塊にドスッと刺す。
 土方歳三「榊ッ」
 沖田総司「あああ〜っ」

閃光に包まれる四辻。
そのまばゆさに、顔をしかめる土方と沖田。
独鈷杵から螺旋状に登った光が晴明を包み込み、天空に消えていく。
光が途絶え、再び暗闇に包まれる。
 土方歳三「そ…総司ィ~大丈夫か?」
 沖田総司「光で目を……真っ暗でなにも見えませんよ」

目をこらして、先ほど晴明が立っていた場所を凝視する土方。
徐々に夜目が慣れて、ぼんやりと見えるようになる土方と沖田。
 土方歳三「榊?」
晴明が立っていた場所には、紙の人型が落ちているだけ。

その紙に土方が手を伸ばそうとすると、紙型は燃え上がり、灰も残さず消滅してしまう。
 沖田総司「土方さん…いったい
      あれは……榊とは
      何者なんですか?」
 土方歳三「わからねぇ……
      俺にもわからねぇ」
そう言うと、きびすを返して歩き出す土方。
それを慌てて追う沖田。

カメラアングルは俯瞰になり、どんどん引いていく。
重なるナレーション。
ナレーション『これから二年後、
       新撰組は土方歳三の
       強硬な提案により、
       屯所を壬生村から
       西本願寺に移す』
ナレーション『移転に反対した
       山南敬助の新撰組脱走と
       切腹という悲劇が起きる』
ナレーション『しかし土方がなぜ、
       そこまで西本願寺移転に
       こだわったのか───
       理由は謎とされる』

京都の全景。
土方と沖田の声だけ聞こえる。
  沖田総司「歳さん待ってくださいよ、
       何を怒ってるんです?」
 土方歳三「うるせぇ、怒ってねぇよッ!

真っ黒な背景に浮かぶナレーションの文字でエンド。
ナレーション『維新回天の時代の裏で、
       呪法による激闘があった事も
       歴史は黙して語らない』

■爆末陰陽伝 第三話/終わり■

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