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質問箱028:取材や情報収集の留意点

※Twitterの質問箱に寄せられた質問を、別途アーカイブしておきます。また随時、加筆修正を加えていきます。

【質問】


【解答】

①知らないことを知る

取材と言うと何か、専門家に謝礼を払ってじっくり話を聞いたり、泊りがけで出かけて現地で調査したりと、大げさなイメージがありますが。
友人との駄話でも取材になります。
まずは大げさに考えず、何でも興味を持ち、少しだけ掘り下げてみる好奇心を、発揮することでしょう。

以前にも、永久保貴一先生が大学時代の脚本の講師に、脚本家になりたければ1日14人以上とお話をしなさいと言われた話を紹介しましたが。
実際に実行してみると、1日14人以上と話すというのは、かなり大変です。挨拶程度では、会話とは呼べませんからね。

そうなると、例えば自炊している人だったら近所の八百屋に行った時、今日はどんな野菜がおすすめですかと声をかけてみる。そうすると、ひとつかふたつは必ず教えてくれます。そうしたらさらにもう一歩踏み込んで、その野菜でどんな料理方法があるか、聞いてみましょう。

②周辺情報とセットで

そこでこんな料理方法があるよとか、料理は詳しくないけれどこの野菜はこういう方法で保存すると長持ちするよとか、自分の知らない知識を教えてくれる八百屋さんに出会えたら、もうそれが立派な取材です。
それ自体はすぐに使えなくても、あなたの引き出しの中身は、確実に増えましたから。

斉藤むねお先生が上條淳士先生から学んだのは、できるだけ現場に行って、自分の目で確認するということ、だったそうです。
外国とかまで取材に行くのは難しいですが、例えば作品の舞台にしようと思った場所に実際に行ってみる。
そうすると、意外な情報が得られるわけです。

昼間行った時には閑静な住宅街だと思ったのに、朝や夕方だと近くに小学校や幼稚園があるので子供たちが多く通るので賑やかだとか。検索でお手軽に出てくる情報の、一方外側の情報を得ることによって、ありきたりの情報にリアリティというプラスαが加わったりすることも。

③メモを取るクセを!

何の役に立つかはわからないことでも、面白そうだと思ったらメモに残しておく。この習慣づけは大事です。

個人的におすすめなのは、メモ帳アプリのGoogle Keepとか、スマートフォンでもパソコンでもアクセスできるので、便利です。
ただ、データが飛ぶこともあります(筆者も経験あります)ので、バックアップは小まめに。
ひとつのメモの文字量は、1000文字以内が無難ではないかと。

また若いうちからメモを取る癖をつけておいた方が、歳を取って記憶力が落ちてきた時に助かります。
若い頃は記憶力に自信があって、メモを取らなかった人ほど、歳を取って記憶力が衰え、大事なことを書き忘れて、思い出せなくなったりしますし。

④無駄が情報の基盤に

プロになって取材すると、取材したことを全部、作品の中に入れたくなる病が発症することが多いです。
でもそれをやると、読者は押し付けがましいように感じてしまうことが、これまた多いのです。
取材で100の知識が得られたら、その中で使えるのは10個か5個……いや、3個かもしれません。

でも残りの97個が無駄かといえば、そんなこともなく。
使わなかった97個の知識があるから、使った3個の知識の背後にある、もっと広範な世界の存在を、読者は感じることができますから。
氷山の一角は、海面下の巨大な氷山部分があってこそ、一角が海上に顔を出すわけで。

例えば「木曽路はすべて山の中である」という一文。
他の街道は山道もあれば平地もあるとか、木曽路とは中山道の異名であるとか、中山道の中の木曽街道の異名であるとか、基礎は昔から木材の供給地で有名とか、いろんな語られていない情報の存在を、背後に感じることができます。

⑤言い仰せて何かある

宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』も、千尋の母親はなぜか娘と話す時に、目を合わさずに喋ります。
その理由や原因は作中では説明されませんが、私たちは違和感をそこに見出します。また作品の最後で映し出される、川に浮かぶ赤い靴にも同じく、違和感を持ちます。

宮崎監督作品では、『魔女の宅急便』でも赤い靴を見つめるキキのシーンがあったり、『となりのトトロ』では池に浮かぶサンダルなど、履き物にいろんなイメージを象徴させるテクニックが多用されます。
でもそれを、いちいち細かく説明することは、敢えて避けていますよね。

取材で得た情報を作品の中でどう使うかという部分は、作品の中でどこを説明してどこを説明しないかの、取捨選択とも通底しています。
目先の損得ではなく、知るは楽しみなりの好奇心───野次馬根性で、楽しんでいろんなものを知る姿勢が、取材にも創作にも生きる気がします。


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