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作家デビューと育成と

電子書籍化されても、まだ作家としてデビューとは言えず。印刷書籍が出てようやくデビュー、という考え方があるようです。

「なぜに書籍化作家が書籍化したいと言うんだ、ずるいじゃないか」とワナビさんは怒るだろうが、大ヒット作家以外の作家さんは、ワナビMarkⅡみたいなもんなので、書籍化を待ち望むのだ。
大ヒット飛ばすまでは、デビューしてもワナビと変わらないのよ。

https://x.com/kawausoutan/status/1762480041223471249?s=20

これに対する芦辺拓先生の引用ポストがこちら。

ふつう作家デビューすれば、そこの版元と関係が生じて発表の足場を築いていけるのですが、ウェブ小説の場合には1冊ごとにリセットされて、「またポイントとぺージヴュー数稼いでからいらっしゃい」と言われると聞いて腰を抜かしました。それはいくら何でも苛酷すぎ。

https://x.com/ashibetaku/status/1762936918722121771?s=20

考えようによっては、新人もベテランも横一線で、平等とも言えますが。



①作家に付く作品に付く

一口に作家と言っても、作品にファンが付くタイプと、作家自身にファンが付くタイプは、異なりますね。作家にファンが付くタイプの書き手は、編集部や出版社が長い目で育て、ロングテールで利益を確保できます。

一般に、少年漫画では作品にファンが付き、少女漫画は作家にファンが付くと言われます。少年誌は売上が大きく、100万部ヒットを飛ばした作家が、次作では1万部に大激減になることもあります。

逆に少女漫画は少年誌ほどバカ売れしなくても、例えば前作が10万部売れた作家は、次作がイマイチでも、3-5万部は売れるので、ある程度計算が立つ面もあります。これが作家にファンが付くタイプの強みです。

②メリットとデメリット

ただし、少女漫画のファンは我慢強いけれど、一度ファンを辞めて作家から離れると、なかなか戻ってきてくれない……とも言われますね。なので、作家の力が落ち始めているのに、ファンがそう大きく減らないので、作家が気づきづらいというデメリットも、同時にあります。

逆に少年漫画は、次作で1万部と大激減した作家が、次々回作ではまた面白い作品を描けば、100万部売れることも、普通にあります。ここが、作品にファンが付くタイプの、強みでしょう。1回ずつリセットされるから、前作を引きずらず、ニュートラルに評価してもらいやすい面があります。

でも、少年誌では作品にファンがつくタイプは、当たり外れが大きく。そこが、少女誌系との違いですね。ジャンプでもいちおう、ヒットした作家は10週打ち切りではなく、30週ぐらいは待ってくれますが……。

③毎回が競争の声優業界

それでダメなら、次々回作でリセットし、人気がなければ10週打ち切りと新人と同じ扱いは、必然なのかもしれません。売れなくなった映画界の大御所が、それでも仕事が来る状況より、健全に思います。

その意味では、新人もベテランも、横一線でオーディションを受ける声優界の仕組みは、真っ当といえば真っ当に思います。もちろん、ベテランには原作者や監督の強い希望で、オーディション無しで直接指名もありますが。

小説業界の、作品にファンが付くタイプと、作家にファンが付くタイプの、扱いの違いはわかりませんが。たぶんに、作家に付くタイプが多いでしょうね。さらに芥川賞や直木賞、乱歩賞などの大きな賞が数多く、一見さんが着くことも多いですが。

漫画界は、小学館漫画賞と講談社漫画賞、手塚治虫文化賞が、いちおう三大タイトルですが。どうにも、一ツ橋グループと音羽グループの、内輪褒めみたいなところもあります。芸術選奨が、とてもニュートラルかつ、個人的に好みの作品を、選んでいるように思います。

④狩猟民族と農耕民族と

作品にファンが付くタイプが中心だと、ある意味で狩猟民タイプになりがちです。元週刊少年ジャンプの編集長であった堀江信彦氏が、編集者は農耕民であるべきで、狩猟民であってはならないと、以前トークショーで語っておられました。

ジャンプのように、毎月150本とか夏休み明けに250本も投稿作が来ると、才能はよりどりみどりですから。100本に1本のレベルの才能を、狩猟民のように刈り取れば、それでヒット作家は生まれますが。それではダメなんだと。

実際、堀江氏はバイクが描きたかったけど10週で打ち切られた原哲夫先生に、格闘漫画を描かせ、戦国武将漫画を描かせ、可能性を広げたわけで。農耕民のように、種を芽吹かせ、肥料を与え、雑草を草むしりしないと、大きくは育たないでしょう。

⑤手成り麻雀からの脱却

しかし、作家の資質を見抜く力がなかったり、ロングテールで育てるノウハウがない新興のレーベルでは、読者任せの手形麻雀でも和了れますが。競争が激しくなって人材の奪い合いになったとき、どういう戦法で和了を目指すか、その方法論や哲学がないと早晩、駄目になるかも……です。

具体的に、どうやったら作家を育てられるのか? 運の要素が70%とも90%とも言われる業界ですから、こうすれば育てられる、なんてノウハウはないです。週刊少年ジャンプですら、ノウハウは先輩の背中を見て盗め、でノウハウはないという編集者もいます。たぶん、ウソではないでしょう。

MANZEMI講座は、オーソドックスな技術とは何かを考え、そこを体系化した面がありますが。おかげさまで関係者からは、編集者も片手の数ほど、出ています。劇画村塾ですら、編集者コースは応募が一人しかなく、さくまあきらさんしか受講生がいなかったそうですから。

来週日曜日から、ネーム講座の第22期が始まりますね。失われつつあるマンガ制作のノウハウを、少しでも若い人たちに残せれば良いのですが……。


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筆者がカバーデザイン(装幀)を担当した、叶精作先生の画集です。POD版もあります。
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