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『それは運命の出会いだよ』に救われたハナシ

忘れもしない2021年、2月2日。
私は楽しみにしていたテレビの特集の最中、一瞬映った一匹の犬に釘付けになった。

その特集とは『どさんこレコーダー』。道民御用達(と勝手に私は思っている。なんせ小さい頃からずっとSTVで育ってきたので)のSTVどさんこワイドの企画で、簡単に言えば、72時間場所に密着取材する某番組の北海道内限定バージョンである。

普段から夕方3時48分からはSTVをつけているが、たまたま作業所で見かけたコマーシャルにコロナ禍のペットショップ特集をやるという情報を得て、ぜひそれは見なければと思い全力待機していたのだ。
ちなみにそのペットショップ自体もチンチラの『睦月』を飼っていた頃、何度かフードの購入でお世話になっていた場所だった。

話は冒頭の一匹の犬に戻る。
あまりにも一瞬だったのだけれど、ブラックタンでおそらくミックスと思わしき子犬が特集の冒頭で映っていた。
一瞬だったが、強烈な印象だった。
2020年の夏に亡くなった、チワックスの『りんご』にそっくりだったのだ。

後で再放送(どさんこワイドにちようび)を見た時気づいたのだが、そっくりといってもまるっきり生き写し、みたいな感じではなかった。ブラックタンのミックスというだけで、実際その子に会えていたら『うーん、ちょっと第一印象と違ったなぁ』なんて思っていたことだろう。

『りんご』が亡くなって半年が経ち、家族と春になったらそのうち家族になってくれそうな保護犬を探しにいこうか、なんて話していた矢先だったが、私はTVで見た子犬にどうしても会いたかった。
その時はまだ、その子を迎えるとか、そんな大それたことは考えられなかった。

次の日、冬の寒さと雪にやられ、さほど体調も万全ではない中、取り憑かれたように支度をし、私は地下鉄と徒歩でそのペットショップ『ペットランド サッポロファクトリー店』に向かっていた。
道内最大級というだけあり、犬と猫だけでもびっくりするほどの数がいた。
ざっと見ても100頭近くはいたのではないだろうか。

この中から、あの子を探すのか……。

少し頭がくらくらしたが、私はコロナ禍の三密を回避しつつ、じゅんぐりじゅんぐり見て回ることにした。

今はだいぶ改善されたが、根っこは人見知りであるし、すごく悩んだのだけど、その子に会いたい一心でショップの店員さんに迷惑を承知で聞き込みも行った。

途中見つけたのが、ブラックタンのダックスだった。
ブラックタンもチョコタンも数頭いたのだが、一番小さくて、子犬というよりまだまだ赤ちゃんといった風情だった。
明らかにテレビの子と同一人物ならぬ、同一犬物ではないとは思った。

店員さんに思いきって

「この子、先日テレビの取材を受けていませんか」

と訊ねたが、

「この子は取材の後に来た子なので、お探しの子とは別の子ですね。もうお探しの子は売約済みだったのかもしれません」

ということだった。

残念に思いながらも、私はそのダックスのケージ前で少しの間、じっと様子を見てみた。
ダックスにしてはマズルが細めで短く、ひょっとするとテレビの子よりも先代に良く似ていたかもしれなかった。
一方でケージの中のダックスの方も、私をじっと見つめていた。
子犬としてはちょっと不思議なくらい、こちらを見つめてじっとしていた。

「抱っこしていきますか?」

と店員さんが声をかけてくれたが、私は2枚ほど写真を撮らせていただくに留めた。

今抱っこしてしまったら、もし私が新型コロナウイルスに感染しているのに、無症状で動いていたらこの子に移してしまうかもしれない。

それ以前に、このダックスを抱っこしたら、私の中で犬のあたたかさが思い起こされてしまうのではないかという想像が、その時はなぜかとても怖かったのだ。

その日は家族に写真を見せるだけだったのだけど、なぜか私は猛烈にその子犬を父や母に見せたかった。
絶対反対されるだろうし、父母がその子を気に入る確証はない。
もしかしたらもしかするかも……とは思っていたが、週末に父と一緒に今日のダックスを見にいけたら万々歳だな、くらいに思っていた。

翌日は作業所だった。
清掃や小物作りはいつものように終えた。
実は、昨日ペットショップから作業所は徒歩圏内なので、私は今度は店員さんに許可を得例のダックスの動画を撮影しようと思って向かったのだった。

ダックスはやはり、こちらをじっと見ていた。
ただ、この日は前日とは違い、こちらを見たまま、ちょっと転がったり、一緒にケージいるお友達のぬいぐるみを齧ったりしていた。

昨日の店員さんとは別の方が迎えてくれたのだが、動画撮影もOKが出たのでケージ越しに撮らせてもらった。
店員さんはケージから出しましょうか、と言ってくださったが、やはり何か私の中で亡くしたぬくもりを思い出すことに、まだ得体の知れない怖さがあった。

そんなこんなで動画を撮影し、店員さんにお礼を伝えた後、店員さんがぽつりと切り出した。

「この子、昨日お家が見つかりそうだったのに、お支払いの段階で破談になってしまったんです」

私は驚きを隠せなかった。
昨日ということは、私がダックスに会った後、誰かがこの子を気に入って、お迎えするつもりだったのか。
支払いの段階でご破算になったということは家族の誰か、特に家計を支える立場の人が反対したのだろうか。
色々なことがぐるぐると頭を巡っていた。
私は、できたら週末には父とこの子に会いに行きます、と言って店を出た。
店員さんが渡してくれた名刺だけを、そっと持って帰った。

電車の中でも考えは堂々巡りだった。

週末、父に会わせる頃には、あのダックスはもうお店にいないかもしれない。
そもそも、会ったとしても気に入るか分からない。
気に入ったとしても、家族として迎えていいよと言ってもらえるかどうか分からない。
そもそも、うちで迎え入れていいのだろうか。
不幸にしてしまわないだろうか。

私が色々な状況を纏めきれず、しょんぼりと帰宅した時、家で待っていた父母は何故かただならぬ雰囲気だった。
どうやら、私から動画つきのメッセージ送られた時点で、父も母もすでにダックスを迎える覚悟を決めていたようだった。

「もうその子に決めたんだろう?だったら電話でも何でもして、ちゃんと連れて帰ってこい」

父の力強い言葉に、店員さんの言葉が脳裏をよぎる。

『この子のブリーダーさんとは直接お取引がありますから、また似たお顔の妹弟はお店に来ますよ』

本当はその場で叫びたかった。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
私はこの子にそっくりな子ならそれで良いわけじゃない。
どうしても、この子がいいんだ、と。

私も腹をくくって、名刺を見ながら電話を手にした。情けないことに、久々に手が震えてしまった。

1歳の誕生日に撮影

その子犬の名は、みかん。
元々うちにの先代達はみんな木の実の名前だ。『もも』とか『あんず』とか色々考えたのだが、私がみかんを連れて帰る間にケージの準備を整えてくれた父によって名付けられ、今日も元気に、いたずらをしている。

* * *

先日、ACのコマーシャルに私は思わずごめんなさいいいい!!と悲鳴をあげた。
コロナ禍でペットの衝動飼いならぬ、衝動買いが増えているのは動物に少しでも興味のある方ならご存知の通りだろうが、それがしっかりがっちりCMにまでなってしまう事態になっているのだ。
みかんとの出会いから家族になるまで、時間が全くと言っていいほどなかった私は、そこだけずっとひっかかっていた。

どうしても不安を捨てきれず、SNSでその事についてぽつんと懺悔を呟いたのだが、遠く離れてはいるけれど、友人だと勝手ながら慕わせていただいている方から思いがけず素敵な言葉をもらったのだった。

『それは運命の出会いだよ』

と。
『お世話もできず、経済的にも難しいなら衝動買いだけど、愛情深く可愛がっているのなら、それは運命の出会いだよ』

と。
日々みかんのいたずらに追われ、後始末をし、それでもなお可愛くて仕方ないと思っていることを知っている、ひょっとすると私よりも犬好きなのではないかと思わしき友人は、何かとくよくよする後ろ向き猛ダッシュ癖のある私の懺悔を、そんな素敵な言葉に変換してくれたのだった。本当に嬉しかった。

そんな飼い主の想いはつゆ知らず、この記事をうつぶせになりながら書いている最中もスマホを持った腕をわざわざ下敷きにして、昨年出会った『元』子犬は今日も眠っているのだ。

女の子とは思えないほどやんちゃで、いたずらっ子で、家族にはかみかみですが今日もすこぶる元気です。

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