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国連・教育変革サミット:ユース宣言(9月16日)

 9月16日からニューヨークの国連本部で教育変革サミット(Transforming Education Summit: TES)が始まりました(6月末にパリのユネスコ本部で開催された「プレサミット」についての投稿も参照)。

 プログラムはこちらのページに掲載されています。16日「動員デー」(Mobilization Day)、17日「解決策デー」(Solutions Day)、19日「指導者デー」(Leaders Day)の3日にわたる国際会議です(それぞれの日の趣旨については、国連広報センター〈開幕近づく第77回国連総会について、知っておくべき重要な5つのこと(UN News 記事・日本語訳)〉の 2)教育変革サミットに記載された説明なども参照)。

 16日の「動員デー」はユース(若者)主導の日でした。会議の場で、世界中の若者との協議を踏まえた「教育変革に関するユース宣言」が発表されましたので、その概要を紹介します。宣言の作成プロセスには、推定45万人の若者が関与したとのことです。

 宣言は、いまこそ教育のあり方を変革しなければならないことを確認するとともに、さまざまな政策立案・意思決定プロセスにおいて長年にわたって若者が排除されてきた――または形式的に包摂されるにすぎなかった――ことをあらためて指摘し、若者の声に耳を傾けるよう求めています。同時に、「完全にアクセシブルで包摂的な教育制度をつくり上げていく私たちの集団的な責任、義務および機会」も強調し、そのためのビジョンと要求を提示しています。

 宣言が意思決定権者(とくに国連加盟国)に対して示した要求は、次のとおり25項目に及びます(要旨;太字は平野による)。

1)教育変革プロセスの立案、実施、執行、モニタリングおよび評価において、さまざまな若者(選挙で選ばれた学生代表を含む)と関わり合うこと。
2)若者・学生のリーダーシップを促進し、そのための投資を行ない、若者・学生が代表されるためのシステムを支援すること。
3)知識生産、教授法および学習の脱植民地主義化・民主化を図ること。
4)ジェンダー変容的な教育に投資すること。
5)良質な包括的セクシュアリティ教育の提供を確保すること。
6)多様性を受け入れ、かつ同一の学習環境へのすべての児童生徒・学生の完全参加を確保するインクルーシブ教育に投資すること。
7)持続可能な開発のための教育、とくに気候教育に投資すること。
8)平和と人権の原則に立脚し、すべての若者が充実した、やる気に満ちた、楽しく質の高い生活を送れるようにする、より幅広くホリスティックな教育ビジョンを促進すること。
9)学問の自由を促進し、批判的思考、想像力、コミュニケーション、イノベーション、社会情緒的スキルおよび対人スキルを増進させる教育を推進し、かつ、偽情報(ミスインフォメーション)との効果的闘いに投資すること。
10)すべての学習者(とくに移住者・難民・避難民である若者)による教育へのアクセスおよび完全参加を妨げるすべての法的・金銭的・制度的障壁を根絶すること。
11)いじめ、ハラスメント、暴力、差別などがない安全な学習環境(オンラインを含む)を構築すること。
12)すべての学習者のメンタルヘルスとウェルネスを中心的に位置づけるとともに、芸術やスポーツのようなレクリエーション活動の促進につながる最適な環境づくりを図ること。
13)社会的保護に投資すると同時に、学校に行っていない子ども・若者がふたたび学校に通えるようにするための効果的かつ効率的な戦略を策定すること。
14)基礎的学習支援を強化するなどの手段により、あらゆる段階で教育の質を向上させること。
15)ノンフォーマル教育のプログラムおよび団体(とくに若者主導のもの)を教育に対する権利の不可欠な一部として承認し、これに投資すること。
16)若者がディーセントな(働きがいのある人間らしい)仕事にアクセスできるようにするため、将来性のあるスキル開発、技術・職業訓練、実習その他の関連の機会に投資すること。
17)とくに、若者のための教育、調査研究、企業機会およびディーセントな仕事を増進させるため、環境・デジタル関連のスキル、政策および戦略に投資すること。
18)教員に対し、良質で関連性のある研修・職能開発の機会、必要な便益、適切な労働条件および革新的、安全かつ豊かな環境を提供すること。
19)公平、公正、非差別的かつ民主的な教員採用のしくみを設けること。
20)教育のデジタルインフラと、すべての人を対象とするデジタルコネクティビティに投資すること。
21)教育変革のための資金を効果的かつ戦略的に拠出するための財源を確保すること。
22)国際的・国内的教育資金を保護・増額すること。
23)教育変革に特化した資金を確保するためのマルチステークホルダー型・官民共同型のパートナーシップを支援・設置すること。
24)緊急事態の最中および収束後、すべての子ども・若者(とくに女児、若い女性、難民および避難民)が良質な教育に公平にアクセスできるようになるまで、悪影響を受けた地域・領域での教育のための資金拠出を強化すること。
25)上記の勧告を実施するための堅固かつ民主的な措置および手続を確立すること。その際、若者が、直接かつ実質的代理人を通じ、意思決定権者の行動について是正要求および責任追及をできるようにすること。

 このような要求を踏まえ、宣言では最後に若者たちの決意表明が行なわれています。

1.教育変革に向けて、世界中のすべての若者、あらゆる多様性を備えた若者――とくに若い女性・女児、LGBTIQ+の若者、障害のある若者、難民・移住者である若者、先住民族の若者および脆弱な状況に置かれ周縁化された他のすべての集団――と、引き続き連帯していきます。
2.社会運動、市民社会組織、若者主導の解決策その他を通じ、個人的にも集団的にも、引き続き教育変革を唱道していきます。
3.説明責任を問うための枠組みがジェンダー変容的であることを確保しつつ、上記の要求の立案、執行、実行、モニタリングおよび評価のプロセス全体を通じ、意思決定権者、とくに国連加盟国の責任を引き続き問うていきます。
4.サミット終了後に上記の要求の実現を進め、世界的な教育変革運動を成長させ続け、かつ、地域および国際社会の双方で良質な教育を唱道していくために必要なスキルを若者が身につけられるようにするための行動計画を、SDG4ユースネットワークの調整のもと、立ち上げます。
5.連帯、多様性、共感、相互理解および尊重を基盤としたよりよい世界をつくるため、すべてのコミュニティ、国および地域全体で、教育制度における世代間・文化間・宗教間の対話と協力を促進していきます。

 宣言全体を通じて強調されているのは、若者たちの多様性と、その多様な若者たちを包摂する教育制度の必要性です。19日の「指導者デー」に集まる各国の政府代表がこれらの要求をどのように受けとめ、成果文書にどのように反映させるか、注目したいと思います。

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