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ユネスコ本部(パリ)で国連・教育変革サミットの「プレサミット」が開催される

 6月28日~30日にかけて、パリのユネスコ(国連教育科学文化機関)本部で、国連・教育変革サミット(TES: Transforming Education Summit、9月19日にニューヨークの国連本部で開催予定)の「プレサミット」が開催されました。154か国から教育大臣・副大臣(次官)が出席し、参加者は2,000人近くにのぼったそうです。

★ United Nations - Transforming Education Pre-Summit Closing
https://www.un.org/en/transforming-education-summit/tes-pre-summit-closing-press-release

*教育変革サミット(TES)およびプレサミットの日本語資料としては、ESD活動支援センターのサイトや、ECW(教育を後回しにはできない)のニュースレター8号(2022年6月)に掲載されたレオナルド・ガルニエ国連事務総長特別顧問(教育変革サミット担当)インタビューなど参照。

 プレサミットには若者たちも多数参加し、初日の28日にはユースフォーラムが開催されました。その様子は動画で確認することができます。

 変革が必要とされる主要な分野(アクショントラック)としてユネスコが挙げているのは、次の5つです。なお、3や5で言及されているSDG4というのは、持続可能な開発目標のゴール4(すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する)のことを指します。

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1.包摂的・公正・安全・健康的な学校
 教育は危機的状況にある。貧困、排除およびジェンダー不平等が高い割合で生じていることにより、数百万人の学習が抑制され続けている。さらに、COVID-19のために教育へのアクセスおよび教育の質における不平等がいっそう露わになるとともに、暴力、武力紛争、災害および女性の権利の後退により不安定性が高まってきた。包摂的かつ変革的な教育においては、すべての学習者が、妨げられることなく教育にアクセス・参加でき、暴力や差別を受けることなく安全かつ健康的でいられ、かつ、学校現場に設けられた包括的なケアサービスによって支援されることが確保されなければならない。教育を変革するためには、良質な教育に対する投資の相当な増額と包括的な乳幼児期発達・教育のしっかりした土台が必要であり、力強い政治的コミットメント、健全な計画立案および確固たるエビデンスベースの裏付けがなければならない。

2.生活・労働・持続可能な開発のための学習とスキル
 若い学習者の間で基本的学習の危機、読解・数的思考スキルの危機が生じている。COVID-19パンデミック以来、低・中所得国では学習貧困が3割強ほど増加しており、10歳児の推定70%は単純な文章が理解できない。障害のある子どもが基礎的な読み・数的思考のスキルを身につけている確率は、同世代の子どもと比較して42%低くなる。いまなお7億7,100万人が起訴的読解スキルを欠いており、その3分の2は女性である。教育を変革するということは、人類と地球のウェルビーイングおよび持続可能な開発に貢献しながら、レジリエンスと順応性を身につけて不確実な未来に備えるための知識、スキル、価値観および態度によって学習者のエンパワーメントを図ることである。そのためには、基礎的な読解力・数的思考力を身につけるための基本的学習、環境教育と気候変動教育を包含する持続可能な開発のための教育、ならびに、就労・起業のためのスキルが重視されなければならない。

3.教員、教育活動および教育専門職
 教員は、学習の成果を達成するために、またSDG4および教育変革を達成するために、不可欠な存在である。しかし、教員と教育職員は4つの大きな課題に直面している――教員不足、職能開発の機会の欠如、地位の低さと労働条件の不十分さ、そして教員としてのリーダーシップ、自律および革新を発展させていく余裕の欠如である。SDG4および教育変革に向けた進展を加速するためには、学習者のニーズを満たす十分な人数の教員がいること、そして教育職員全員が訓練を受け、動機づけられ、かつ支援されることが必要となる。これは、教職員の地位および労働条件を向上させるため、教育に十分な資金が提供され、かつ政策において教育専門職の認知と支援が図られて、初めて可能になることである。

4.デジタル学習とデジタルトランスフォーメーション
 COVID-19危機は、デジタルテクノロジーの活用を通じた遠隔学習における、前例のない革新のきっかけとなった。同時に、デジタルディバイドによって学習から排除されている人々も多数存在し、学齢児の3分の1近く(4億6,300万人)が遠隔学習にアクセスできていない。アクセス面でこのような不平等が存在するということは、若年女性や女の子のような一部の集団が学習機会から除外されているということである。デジタルトランスフォーメーションのためには、教育を変革し、より包摂的で、公正で、効果的で、関連性を有し、かつ持続可能なものにしていくための、より幅広い組織的な努力の一環としてテクノロジーを活用していくことが必要となる。デジタル学習への投資および対応においては、3つの中核的原則が指針とされるべきである――もっとも周縁化された層の中心的位置づけ、無償で質の高いデジタル教育コンテンツ、そして教育学的革新・変革である。

5.教育財源
 世界的な教育支出は全体的には増えているものの、高い人口増加率、COVID-19パンデミック中の教育運営のための周辺コスト、そしてその他の緊急事態への援助先の転換によってさらなる増加が阻害されており、世界全体で年間1,480億米ドルという巨額な教育資金不足が生じたままとなっている。このような状況にあって変革に向けてとるべき第一歩は、資金不足を縮小させるためにあらためて教育に資源を配分し直すよう、資金拠出者に対して促すことである。その後、各国はSDG4達成のための財源を相当に増額・維持しなければならず、またこれらの資源は公正かつ効果的に配分され、モニタリングの対象とされなければならない。教育資金不足に対処するためには、3つの主要分野における政策行動が必要となる――より多くの資源(とくに国内資源)を動員すること、配分・支出の効率性と公正性を高めること、そして教育財政データを向上させることである。最後に、どの分野にどのように支出を行なう必要があるかを決定するにあたっては、他の4つの各アクショントラックから出された勧告を参考にすることになろう。
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 議論の背景として、ユネスコ・教育の未来に関する国際委員会が昨年(2021年)11月に発表した報告書『私たちの未来のあり方をともに捉え直す:教育のための新たな社会契約』Reimagining Our Futures Together: A New Social Contract for Education)も参照(日本語による概要が日本文教出版のサイトに出ています)。なお、同委員会が2020年6月に発表した「COVID-19後の世界における教育:公的行動のための9つの意見」の概要を以前の投稿で紹介していますので、そちらも参照してください。

 このほか、国際NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は5月に「教育に対する国際的権利の拡大の呼びかけ」A Call to Expand the International Right to Education)を発表しました。

 SDG4では
「2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ有効な学習成果をもたらす、自由かつ公平で質の高い初等教育および中等教育を修了できるようにする」(ターゲット4.1)
「2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い早期幼児の開発、ケア、および就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする」(ターゲット4.2)
 ことが目指されていますが、現状、社会権規約・子どもの権利条約などの国際人権法では、義務教育として無償で提供することが義務づけられているのは初等教育に限られています。

 今回の呼びかけは、無償の義務的就学前教育(少なくとも1年)および無償の中等教育を、国際人権法で保障されるすべての子どもの権利として認めるよう求めるもので、そのために子どもの権利条約の新たな選択議定書を作成することが提案されています。国連・子どもの権利委員会の元委員も複数賛同しており、今後具体的な動きにつながるかどうか、注目されます。

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