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新型コロナ後の教育の未来に関するユネスコ有識者委員会の提言

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)が2019年に設置した有識者組織「教育の未来に関する国際委員会」が、6月22日、「COVID-19後の世界における教育:公的行動のための9つの意見」Education in a post-COVID world: Nine ideas for public action)を発表しました(ユネスコ「教育の未来」イニシアティブについてはたとえば文部科学省の資料を参照)。

 なかなか興味深い内容ですが、ざっと検索してみたところ日本語訳は見当たらなかったので、とりいそぎ要旨(Executive Summary)の部分を訳出しました。公教育をめぐる今後の議論の参考になればと思います。太字は原文ママです。なお、筆者のnote〈新型コロナがもたらす「教育危機」〉も参照。

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要旨

 COVID-19との関係で今日行なわれる決定は、教育の未来にとって長期的な影響を及ぼすことになろう。政策立案者、教育者およびコミュニティは、大きな賭けとなる選択を今日行なわなければならない――これらの決定においては、共同の未来の望ましいあり方に関する共有された原則とビジョンが指針とされるべきである。

 COVID-19はさまざまな脆弱性を露わにした。同時に、人間の著しい臨機応変さと潜在的可能性も浮き彫りになった。いまこそ現実主義に立った迅速な行動が求められているが、これまで以上に科学的エビデンスを手放すことのできない時期でもある。また、原理原則なしに事を進めていくわけにもいかない。選択は、人本主義的な教育ビジョンと、開発および人権の枠組みに基づいて行なわれなければならない。

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には必要な道標と指針の多くが掲げられている。本報告書で、教育の未来に関する国際委員会――ユネスコによって2019年に設置され、学界、科学、政府、企業および教育の世界の有識者から構成される委員会――は、今日とられるべき、明日の教育の前進につながるであろう具体的行動に関する9つの意見を提示する。

1.共通善としての教育の強化に傾注する。教育は不平等に抗する砦である。保健の場合と同じように教育においても、私たちが安全でいられるのはすべての人が安全なときであり、私たちが豊かに生きられるのはすべての人が豊かに生きるときである。

2.教育に対する権利の定義を拡大し、コネクティビティ〔インターネットや情報通信技術へのアクセス等〕および知識・情報の重要性を取り上げるようにする。委員会は、教育に対する権利をどのように拡大しなければならないかについてのグローバルな――とくにあらゆる年齢の学習者を含めた――公的討議を呼びかける。

3.教職者と、教職員の協働を大切にする。COVID-19危機に対する教育者の対応においては注目すべき革新的取り組みが行なわれてきており、家族およびコミュニティともっともよく連携するシステムが最大のレジリエンス(柔軟な適応・回復力)を発揮している。最前線の教育者が協働のための自律性と柔軟性を持てるような条件を促進していかなければならない。

4.生徒・若者・子どもの参加および権利を促進する。世代間の公正および民主主義的原則により、私たちは、望ましい変革をともに構築していく作業への生徒および若者の幅広い参加に、優先的に取り組んでいかなければならない。

5.教育の変革に取り組む過程で、学校が提供する社会的空間を保護する。物理的空間としての学校は、なくてはならないものである。伝統的な学級のあり方は、多種多様な方法による「やってみることによる学び」(doing school)に道を譲らなければならないものの、特有の、そして他の学習空間とは異なる独立した共同生活空間―時間としての学校は維持されなければならない。

6.教職員と生徒が無償かつオープンソースの技術を利用できるようにする。オープンな教育資源と、デジタルツールへのオープンなアクセスが支援されなければならない。教育学的空間の外で、教職員と児童との人間的関係から切り離されたまま作成された出来合いのコンテンツでは、豊かな教育を行なうことはできない。また、民間企業によって統制されるデジタルプラットフォームに教育が依存することもできない。

7.カリキュラムにおける科学リテラシーを確保する。とくに、私たちが科学的知識の否定に懸命に対抗し、ミスインフォメーション(誤情報)と積極的に闘っているいまこそ、カリキュラムについて深く再考すべきときである。

8.国内的および国際的な公教育財政を保護する。今回のパンデミックは、この数十年間の前進を台無しにしてしまいかねない。各国政府、国際機関およびすべての教育・開発パートナーは、公衆衛生および社会サービスの強化の必要性を認識しなければならないが、同時に、公教育および公教育財政の保護のために結集しなければならない。

9.現状の不平等に終止符を打つためのグローバルな連帯を前進させる。COVID-19は、私たちの社会がいかに力の不均衡につけこんでいるか、またグローバルなシステムがいかに不平等につけこんでいるかを明らかにした。委員会は、共感および共通の人間性への理解を中核とするグローバルな連帯の再活性化とともに、国際協力および多国間主義へのコミットメントを新たにするよう呼びかける。

 私たちは、COVID-19によって真の課題と真の責任を突きつけられている。以上の意見は、政府、国際機関、市民社会、教育専門家ならびにあらゆるレベルの学習者およびステークホルダーによる討議、関与および行動を促すものである。

(以上)

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