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パレスチナの人権状況に関する特別報告者、「子どもであることを許されない」パレスチナの子どもたちの状況を憂慮

 パレスチナ・ガザ地区で、子どもたちをはじめとする住民が重大な人権侵害にさらされています。国連・子どもの権利委員会が10月13日付で発表した声明についてFacebookで紹介しておいたので、採録しておきます。

★ Statement of the Committee on the Rights of the Child on grave violations of children's rights in Israel and the occupied Palestinian territory (PDF)
https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/hrbodies/crc/statements/2023-10-12-stm-israel-palestine.pdf
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 国連・子どもの権利委員会は、イスラエルとパレスチナ被占領地域で生じている重大な子どもの権利侵害を憂慮する声明を、10月12日付で発表しました(追記:その後、10月13日付に修正されています)。

 委員会は、イスラエル南部のキブツ・クファール・アザおよびパレスチナ・ガザ地区で多数の子どもが殺害されたことについて憂慮の念を表明し、殺害や人道アクセスの否定をはじめとする重大な国際法違反を直ちにやめるよう求めるとともに、
「子どもが戦争の駒として利用されてはならず、ガザ地区で人質状態に置かれている子どもたちは、直ちに解放され、家族またはコミュニティのもとに安全に送り届けられなければならない」
 と強調しています。さらに、▽人道援助の提供を妨げるいかなる妨害も停止すること、▽イスラエルおよびパレスチナ被占領地域の民間人・学校・病院を保護すること、▽子どもに関わる国際人道法規則の尊重を確保することなどをすべての当事者に対して促し、平和の回復と子どもの安全・回復の維持を目下の優先課題として行動することを、国際社会を含むすべての主体に対して求めています。

 以下のとおり、ユニセフ(国連児童基金)も同様のことを強調しています(日本ユニセフ協会のリリース)。子どもたちの保護と速やかな停戦を望みます。
-イスラエル・パレスチナ 「子どもの権利の保護と国際人道法の遵守を」 ユニセフ事務局長声明
https://www.unicef.or.jp/news/2023/0169.html
-イスラエル・パレスチナ 「子どもの保護と敵対行為の即時停止を」 ユニセフ広報官、国連定例会見で報告
https://www.unicef.or.jp/news/2023/0171.html

【追記】(2023年11月2日)
 国連・子どもの権利委員会は11月1日付であらためて声明を発表し、10月7日以降3,500人以上の子どもが殺害されてきたこと、子どもが人質とされていることなどに深い憂慮の念を表明しました。そのうえで、即時停戦、子どもの人質の即時解放、子どもたちの保護および支援の提供などをあらゆる当事者に対して求めています。

 10月24日には、パレスチナの人権状況に関する国連特別報告者(1967年以降占領下にあるパレスチナ地域の人権状況に関する特別報告者)を務めるフランチェスカ・アルバネッサ(Francesca Albanese)氏が国連総会(第78会期)第3委員会の第35回全体会合(中継動画アーカイブ)で年次報告書のプレゼンテーション(PDF)を行ないました。

 今回の報告書(A/78/545)では、パレスチナ被占領地域の子どもたちの状況にとくに焦点が当てられています。10月7日に始まった武力紛争およびその後の状況については最近の出来事であるため報告書では取り上げられていませんが、パレスチナの子どもたちはそれ以前から、生まれると同時に「子どもであることを許されない」状況に置かれ続けてきたことがわかります。

-OHCHR: 'Unchilded' from birth: UN expert calls for decisive protection of Palestinian children under Israeli rule
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2023/10/unchilded-birth-un-expert-calls-decisive-protection-palestinian-children

「子どもであることを許されない状況に置かれる」(unchilding)というのは、エルサレム・ヘブライ大学のナデラ・シャルフーブーケボーキアン(Nadera Shalhoub-Kvorkian)教授が2019年の著書で提唱した概念で(報告書パラ78)、報告書では「子どもたちから子ども時代の普通さ、明るさおよび無邪気さを奪うこと」(depriving children of the normalcy, lightness and innocence of childhood)と説明されています(p.1、Summary)。

 OHCHRによる上記プレスリリースにしたがってまとめれば、たとえば次のような状況があります。

● 2008年から2023年10月6日までの間に、主としてイスラエル占領軍によって殺害されたパレスチナの子どもは1,434人にのぼるとされ、さらに3万2,175人が負傷したとされる。このうち、2007年に違法な封鎖が始まって以降、ガザだけで1,025人の子どもが殺害された。同じ時期に、イスラエルの子ども25人が(ほとんどはパレスチナ人の加害者によって)殺害され、524人が負傷している。
● 2019年から2022年にかけて、パレスチナの1,679人とイスラエルの子ども15人が持続的かつ長期的な身体的外傷を負い、多くの子どもに恒久的障害が残った。イスラエル占領軍によって拘禁される子どもは年間平均500~700人にのぼるとされ、2000年以降、推定1万3,000人の子どもが、ほとんどは恣意的に拘禁され、尋問され、軍事裁判所で審理され、収監されている。

 もちろん、特別報告者もハマスによる民間人への攻撃を容認するものではなく、国連総会における発言でも、
「ガザ地区から出動したパレスチナの準軍事部隊による残酷な攻撃により、イスラエルで約1,400人のイスラエル人と外国人が殺害され、さらに数千人が負傷しています。これらの戦闘員がイスラエルで民間人に対して行なったことの多くは戦争犯罪であり、その責任が問われなければなりません」(プレゼンテーション原稿パラ3)
 と非難しています。同時に、イスラエルによるガザ地区への無差別爆撃や「戦争手段としての飢餓」の利用にも言及し、
「これらの出来事は、数十年に及ぶイスラエルの不法行為や不処罰に対処せず、『永久の占領』を終わらせることに成功してこなかった国際社会の並外れた失敗の、最新の表れにほかなりません」(プレゼンテーション原稿パラ4)
 として、これまでの経緯を踏まえた対応の重要性を強調しています。

 特別報告者は、
「国連・子どもの権利条約の締約国として、イスラエルには、その管轄内にあるすべての子どもの最善の利益を保護・促進し、その権利を差別なく確保する義務があります。イスラエルは、そうするのではなく、パレスチナ社会の発展を阻害し、パレスチナ人の自己決定を恒久的に挫折させる動きの一環として、パレスチナの子どもたちから意図的に基本的人権を奪っているのです」(プレゼンテーション原稿パラ8)
「パレスチナの子どもたちに『人間の盾』あるいは『テロリスト』という濡れ衣を消えて子どもたちおよびその親への暴力を正当化しようとする――しばしば西側の言説でも増幅されている――イスラエルのレトリックと実践は、パレスチナの子どもたちを根本的に非人間化するものです」(同パラ11)
 などとしてイスラエルのこれまでの行動を批判するとともに、プレゼンテーションの締めくくりに、国連総会に出席した各国代表に次のように問いかけました(同パラ17)

「……パレスチナ被占領地域の子どもたちは、みなさんの対応を待っています。本総会は、誰ひとり取り残さないという誓約にしたがって行動することができるでしょうか、それとも、イスラエルのアパルトヘイト制度がそうしているように、パレスチナの子どもたちを『地に呪われたる者』(the wretched of the earth)として見捨てるのでしょうか」

 パレスチナ出身のラッパー MC Abdul(現在15歳)が2年前の2021年に発表した "Shouting At The Wall" の動画を今回知り、胸を打たれました。

 日本語字幕をつけた動画も作成されていますので、あわせてご覧ください。

 最新作の "The Pen & The Sword" では教育の重要性を訴えています。

 ユニセフの報告によれば、パレスチナでは依然として次のような厳しい状況が続いています(日本ユニセフ協会のリリース)。

-〈ガザ、2,360人の子どもが死亡 日に平均400人超死傷 ユニセフ、即時停戦をあらためて訴え〉(10月24日付)
-〈ガザ、衝突激化から3週間 221校が被害受ける ユニセフ最新情勢レポート〉(10月27日付)
-(追加)〈「ガザは子どもたちの墓場と化した」 死亡した子どもの数3,400人超 ユニセフ広報官、即時停戦と物資供給を強く訴える〉(10月31日付)

 国際社会が一致して即時停戦を求めていくことが必要です。即時停戦を求める署名活動も国内外で盛んに行なわれていますが、# CeasefireNow: Open Call for an Immediate Ceasefire in the Gaza Strip and Israel を紹介しておきます。

 アムネスティ・インターナショナル〈イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ:全当事者は即時停戦し民間人の犠牲回避を〉(10月30日付)をはじめとする一連のリリースや、関連国際法について解説したヒューマン・ライツ・ウォッチ〈Q&A集:2023年10月に発生したイスラエルとパレスチナ武装集団との敵対行為について〉なども参照。

【追記】(2023年11月12日)
 Facebookに次の記事を投稿しましたので、こちらにも採録しておきます(太字は採録時に付したもの)。

★読売新聞:ガザの子供4500人死亡、20年以降に世界の紛争で殺害された子供の総数上回る…国連報告書
https://www.yomiuri.co.jp/world/20231110-OYT1T50185/

 UNDP(国連開発計画)が11月8日付で発表した報告書の概要が比較的よくまとまっている記事ですが、見出しに書かれていることは間違いなので、指摘しておきます。本文にも
〈ガザの死者約1万1000人のうち、子供は約4500人を占めた。報告書は、2020年以降に世界の紛争によって殺害された子供の総数を上回ったと指摘した〉
 とありますが、正確には「総数」ではなく“毎年”(each year)の子どもの死者数です。報告書には次のように書かれています(p.4)。
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……3週間強のうちにガザで殺害されたとされる子どもの人数は、2020年以降、22か国を超える国の武力紛争で毎年殺害された子どもの総数を超えている。
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 巻末注5(p.15)によれば、これは子どもと武力紛争に関する国連事務総長の年次報告書に基づく記述で、武力紛争における毎年の子どもの死者数は、▽2,674人(2020年:22か国)、▽2,515人(2021年:同)、▽2,985人(2022年:24か国)となっています。
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 いずれにしても、2008年から2023年10月6日までの間に殺害されたパレスチナの子どもの総数(推定1,434人)*をはるかに上回る人数の子どもがわずか3週間強で殺されたことになり、重大な事態であることは間違いありません。即時停戦が必要です。
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 なお、UNDPの報告書によれば、イスラエルによる爆撃および軍事作戦を理由とするガザでの死亡者数は11月5日までに9,770人にのぼり、そのうち子ども(4,008人)と女性(2,550人)が67パーセントを占めています(子どもの死者数が上記記事と異なるのは、発表までの間に死者数が増えたためと思われます)。この点については、UNDPやユニセフをはじめ、IASC(機関間常設委員会)に参加する18組織の長が11月5日付で共同声明を発表していますので、あわせてご覧ください。

-ユニセフ(日本ユニセフ協会):イスラエル・パレスチナ 衝突1カ月 ユニセフ等18組織、共同声明発表 死者約7割が女性と子ども、国連職員犠牲も過去最多
https://www.unicef.or.jp/news/2023/0189.html

 UNDPのリリース(英語;11月9日付)は↓から参照できます。報告書(英語・アラビア語)全文もこちらからダウンロード可能です。
https://www.undp.org/press-releases/poverty-state-palestine-set-soar-more-third-if-war-continues-second-month

* note〈パレスチナの人権状況に関する特別報告者、「子どもであることを許されない」パレスチナの子どもたちの状況を憂慮〉↓参照。
https://note.com/childrights/n/nf859f4c6a9ad

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