パレスチナの人権状況に関する特別報告者、「子どもであることを許されない」パレスチナの子どもたちの状況を憂慮
パレスチナ・ガザ地区で、子どもたちをはじめとする住民が重大な人権侵害にさらされています。国連・子どもの権利委員会が10月13日付で発表した声明についてFacebookで紹介しておいたので、採録しておきます。
10月24日には、パレスチナの人権状況に関する国連特別報告者(1967年以降占領下にあるパレスチナ地域の人権状況に関する特別報告者)を務めるフランチェスカ・アルバネッサ(Francesca Albanese)氏が国連総会(第78会期)第3委員会の第35回全体会合(中継動画アーカイブ)で年次報告書のプレゼンテーション(PDF)を行ないました。
今回の報告書(A/78/545)では、パレスチナ被占領地域の子どもたちの状況にとくに焦点が当てられています。10月7日に始まった武力紛争およびその後の状況については最近の出来事であるため報告書では取り上げられていませんが、パレスチナの子どもたちはそれ以前から、生まれると同時に「子どもであることを許されない」状況に置かれ続けてきたことがわかります。
-OHCHR: 'Unchilded' from birth: UN expert calls for decisive protection of Palestinian children under Israeli rule
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2023/10/unchilded-birth-un-expert-calls-decisive-protection-palestinian-children
「子どもであることを許されない状況に置かれる」(unchilding)というのは、エルサレム・ヘブライ大学のナデラ・シャルフーブーケボーキアン(Nadera Shalhoub-Kvorkian)教授が2019年の著書で提唱した概念で(報告書パラ78)、報告書では「子どもたちから子ども時代の普通さ、明るさおよび無邪気さを奪うこと」(depriving children of the normalcy, lightness and innocence of childhood)と説明されています(p.1、Summary)。
OHCHRによる上記プレスリリースにしたがってまとめれば、たとえば次のような状況があります。
● 2008年から2023年10月6日までの間に、主としてイスラエル占領軍によって殺害されたパレスチナの子どもは1,434人にのぼるとされ、さらに3万2,175人が負傷したとされる。このうち、2007年に違法な封鎖が始まって以降、ガザだけで1,025人の子どもが殺害された。同じ時期に、イスラエルの子ども25人が(ほとんどはパレスチナ人の加害者によって)殺害され、524人が負傷している。
● 2019年から2022年にかけて、パレスチナの1,679人とイスラエルの子ども15人が持続的かつ長期的な身体的外傷を負い、多くの子どもに恒久的障害が残った。イスラエル占領軍によって拘禁される子どもは年間平均500~700人にのぼるとされ、2000年以降、推定1万3,000人の子どもが、ほとんどは恣意的に拘禁され、尋問され、軍事裁判所で審理され、収監されている。
もちろん、特別報告者もハマスによる民間人への攻撃を容認するものではなく、国連総会における発言でも、
「ガザ地区から出動したパレスチナの準軍事部隊による残酷な攻撃により、イスラエルで約1,400人のイスラエル人と外国人が殺害され、さらに数千人が負傷しています。これらの戦闘員がイスラエルで民間人に対して行なったことの多くは戦争犯罪であり、その責任が問われなければなりません」(プレゼンテーション原稿パラ3)
と非難しています。同時に、イスラエルによるガザ地区への無差別爆撃や「戦争手段としての飢餓」の利用にも言及し、
「これらの出来事は、数十年に及ぶイスラエルの不法行為や不処罰に対処せず、『永久の占領』を終わらせることに成功してこなかった国際社会の並外れた失敗の、最新の表れにほかなりません」(プレゼンテーション原稿パラ4)
として、これまでの経緯を踏まえた対応の重要性を強調しています。
特別報告者は、
「国連・子どもの権利条約の締約国として、イスラエルには、その管轄内にあるすべての子どもの最善の利益を保護・促進し、その権利を差別なく確保する義務があります。イスラエルは、そうするのではなく、パレスチナ社会の発展を阻害し、パレスチナ人の自己決定を恒久的に挫折させる動きの一環として、パレスチナの子どもたちから意図的に基本的人権を奪っているのです」(プレゼンテーション原稿パラ8)
「パレスチナの子どもたちに『人間の盾』あるいは『テロリスト』という濡れ衣を消えて子どもたちおよびその親への暴力を正当化しようとする――しばしば西側の言説でも増幅されている――イスラエルのレトリックと実践は、パレスチナの子どもたちを根本的に非人間化するものです」(同パラ11)
などとしてイスラエルのこれまでの行動を批判するとともに、プレゼンテーションの締めくくりに、国連総会に出席した各国代表に次のように問いかけました(同パラ17)
「……パレスチナ被占領地域の子どもたちは、みなさんの対応を待っています。本総会は、誰ひとり取り残さないという誓約にしたがって行動することができるでしょうか、それとも、イスラエルのアパルトヘイト制度がそうしているように、パレスチナの子どもたちを『地に呪われたる者』(the wretched of the earth)として見捨てるのでしょうか」
パレスチナ出身のラッパー MC Abdul(現在15歳)が2年前の2021年に発表した "Shouting At The Wall" の動画を今回知り、胸を打たれました。
日本語字幕をつけた動画も作成されていますので、あわせてご覧ください。
最新作の "The Pen & The Sword" では教育の重要性を訴えています。
ユニセフの報告によれば、パレスチナでは依然として次のような厳しい状況が続いています(日本ユニセフ協会のリリース)。
-〈ガザ、2,360人の子どもが死亡 日に平均400人超死傷 ユニセフ、即時停戦をあらためて訴え〉(10月24日付)
-〈ガザ、衝突激化から3週間 221校が被害受ける ユニセフ最新情勢レポート〉(10月27日付)
-(追加)〈「ガザは子どもたちの墓場と化した」 死亡した子どもの数3,400人超 ユニセフ広報官、即時停戦と物資供給を強く訴える〉(10月31日付)
国際社会が一致して即時停戦を求めていくことが必要です。即時停戦を求める署名活動も国内外で盛んに行なわれていますが、# CeasefireNow: Open Call for an Immediate Ceasefire in the Gaza Strip and Israel を紹介しておきます。
アムネスティ・インターナショナル〈イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ:全当事者は即時停戦し民間人の犠牲回避を〉(10月30日付)をはじめとする一連のリリースや、関連国際法について解説したヒューマン・ライツ・ウォッチ〈Q&A集:2023年10月に発生したイスラエルとパレスチナ武装集団との敵対行為について〉なども参照。
【追記】(2023年11月12日)
Facebookに次の記事を投稿しましたので、こちらにも採録しておきます(太字は採録時に付したもの)。
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