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ニュージーランドで「子どもコミッショナー」を「子ども・若者委員会」に改組する法案が議論に

 ニュージーランド子どもコミッショナー事務所の取り組みについてこれまで何度か紹介してきましたが(こちらの記事こちらの記事を参照)、現在、同事務所を廃止して関連制度の再編を図る法案が議会に提出されており、セーブ・ザ・チルドレン・ニュージーランド(SCN)が法案修正を求める署名を集めています(1月5日発表)。

★ Save the Children New Zealand: Save the Children calls to retain New Zealand’s Children's Commissioner
https://www.savethechildren.org.nz/media-hub/save-the-children-calls-to-retain-childrens-commissioner/

「オランガ・タマリキ〔子ども福祉〕制度の監督および子ども・若者委員会法案」Oversight of Oranga Tamariki System and Children and Young People's Commission Bill、2021年11月8日提出)と題する法案では、主として次のような組織再編が構想されています(法案の説明覚書による)。

1)オランガ・タマリキ制度を独立の立場からモニタリングする監督官(Monitor)を任命する。
2)オンブズマンによる苦情処理の監督を強化する。
3)子どもコミッショナーを廃止し、これに代えて3~6人の委員から構成される子ども・若者委員会(Children and Young People's Commission)を独立機関として設置する。子どもコミッショナーが現在果たしている役割の多くは委員会が引き継ぐが、個々の子ども・若者に関する調査権限(個人救済権限)はオンブズマンに完全に委ねることとする。子どもの福祉に関わる一般的調査・報告の機能は、委員会の設置によってむしろ強化される。

 子ども・若者委員会については法案の第5部で詳細に規定されていますが、主として▽子ども・若者の利益およびウェルビーイングの促進(第99条、一般的調査・報告)、▽子ども・若者の権利の促進および増進(第100条)、▽子ども・若者の参加および意見表明の奨励(第101条)がその任務とされています。子どもコミッショナーを廃止する理由としては、子どもに関するさまざまな問題の重要性に鑑み、「ひとりの個人が幅広い問題すべてを担当することはもはや不可能である」ことが挙げられています。

 これに対し、SCNは次の3点を求めています(要旨)。

1.子どもコミッショナーの名称および役割を維持すること。
2.諮問の有無にかかわらず首相に直接報告を行なうことができるという子どもコミッショナーの権限を維持すること。
3.政府が子どもたちとの徹底した協議を行なうまで、法案の審議を停止すること。

 一方、昨年11月に子どもコミッショナーに就任したばかりのフランセス・エイバース(Frances Eivers)さんは、2021年11月11日付のリリースで、今回の法案の方向性を高く評価しました。今年1月6日付でニュースサイトに配信された記事でも、
「委員会モデルはよいものです――コミュニティの人々の参加を得ることにつながり、ひとりのコミッショナーが複数の物事について考える以上のものになります。法案では、ワイタンギ条約〔先住民族であるマオリと英国君主との間で締結されたニュージーランドの建国文書〕に焦点を当て、人々やコミュニティ組織などの関与を得る実際的義務が定められています」
 と述べ、政府の構想を基本的に支持しているようです(もっとも、「調査権限については一部でも子どもコミッショナーとその事務所に残してもらったほうがよい」という趣旨のことも述べており、子どもコミッショナーの名称・役割の維持についてどのように考えているのか、必ずしも明確ではありません;追記参照)。

 個人が前面に出る現在の「コミッショナー」モデルと、ニュージーランド政府が構想している「委員会」モデルのどちらがよいかは、一概に言えません。日本の自治体で設置されている子どもの権利救済機関でも、ほぼ例外なく複数の委員が任命されています。ただ、適切な人物が任命されるのであれば、「コミッショナー」モデルのほうが子どもたちに親しみを持ってもらいやすいという面もあるかもしれません。今後の法案審議がどのように進むかはわかりませんが、少なくとも子どもたちの意見に十分に耳を傾ける必要はありますので、ニュージーランド政府にはそのような対応をとってもらいたいと思います。

【追記1】(1月13日)記事をアップした翌朝(1月13日午前6時)、ニュージーランド子どもコミッショナーのFacebookページ新たな投稿がありました。法案を支持しつつ、よりよいものにするため、▽子どもコミッショナーの名称・役割を(おそらく新設される委員会の長または一員という形で)残すこと、▽苦情の調査およびフォローアップに関する権限を新たな委員会が引き続き有するようにすること、▽新設される監督官(Monitor)の独立性および権限を保障することなどを提言しています。

https://www.occ.org.nz/assets/Uploads/ChildrenandYPCommissionBill.pdf

【追記2】(2023年1月30日)
 子どもコミッショナーに代えて「子ども・若者委員会」を設置する法案(Children and Young People's Commission Bill)は昨年(2022年)8月末に成立しました。国連・子どもの権利委員会による報告書審査(2023年1月26~27日)の場でニュージーランド政府代表が説明したところによると、今年7月に委員会が始動するとのことです。これについては別途取り上げたいと思います。

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